遠隔医療の開発及び評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900883A
報告書区分
総括
研究課題名
遠隔医療の開発及び評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
黒川 清(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 長村義之(東海大学医学部)
  • 大櫛陽一(東海大学医学部)
  • A.Lacroix(モントリオール大学)
  • E.Keough(メモリアル大学)
  • 春木康男(東海大学医学部)
  • 岡田好一(東海大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,362,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究はISDNとインターネットの暗号化通信を利用し、国際性と経済性と広い応用性を有する、従来の遠隔医療システムの革新的な一般普及化のための研究である。同システムには我が国の国際医療協力のプラットフォームとしての役割を持たせる。研究範囲は、医療生涯教育、遠隔カンファレンス、遠隔コンサルテーション、地域医療とし、緊急時医療福祉も視野に入れる。
研究方法
(1) 国際間の定期症例検討会の実施
昨年度の2回の試験接続に引き続き、今年度は学期中毎月、多地点接続を行った。東海大学に設置された多地点接続装置(MCU)にモントリオール大学、メモリアル大学、東海大学病院からISDNの2B(128Kbps)接続で3地点接続を行う。各端末、多地点接続装置はITU-T T.120勧告に基づくデータ共有機能を有する。
コンテンツは学生教育のための症例検討会である。原則として卒後数年内の医師がテーマに適した症例を選び、発表する。それに対して医学部学生が質疑応答を行う。必ず該当分野の教授・講師クラスの教員が補助し、会話を適切な方向に誘導する。適当な症例が無い場合は、通常の医学講演でも可とした。各拠点から30分づつの症例の検討を行い、1時間半のプログラムである。年度中に8回が実施された。
(2) 国内3病院の臨床セミナーの共有
東海大学は、神奈川県伊勢原市にある東海大学医学部の付属病院本院、東京都渋谷区にある付属東京病院、神奈川県中郡大磯町にある大磯病院の3病院を有している。従来から、若手臨床家による学生教育を目的とした40分のセミナーが、昼食時に毎日開かれていた。本年度より、上述の多地点接続装置を用いて、他の2病院の学生にも受講できるようにした。この時間帯に開催される、臨床・病理検討会(CPC)、外部の講演者を招く「クリニカルクラークシップセミナー」も中継した。年度中に計121回が開催された。なお、セミナー参加者は学生だけでなく、医学部職員にひろく開放されている。
各講師は一週間前までにスライド教材を用意する。教材はディジタル化され、当日の「ホワイトボード」またはプレゼンテーションソフトの「共有」で使用される。当日の音声はディジタル化され、画像教材と組み合わせたホームページが作成され、数日以内に学生と職員にインターネットで公開される(パスワードで保護しているので一般には公開されない)。
(3) 電子カルテ
邦人の海外出張時の病気・事故を想定した、電子カルテの共有実験の準備を整えた。昨年度英語化した電子カルテをインターネット上でクライアント・サーバー構成が可能なように調整した。海外の協力拠点に設置する。
(4) 臨床応用
東海大学医学部の病理学、精神科学、呼吸器内科の協力を得て、汎用のテレビ会議システムが臨床応用できるかのテストを行った。2地点間のISDN 2B/6B接続に加え、ダイヤルアップルータによるサーバー経由の静止画等のファイル交換を行った。
(5) その他
平成11年5月15日に、産婦人科学会合同地方部会が開催された。東海大学医学部(神奈川県伊勢原市)、けいゆう病院(横浜市)、筑波大学(茨城県つくば市)、茨城県周産期センター(水戸市)の4会場、5端末を多地点接続装置で結び、それぞれの会場から研究発表を行った。プレゼンテーションにはアプリケーション共有機能が用いられた。
平成11年10月10日、11日の両日、岐阜グランドホテル(岐阜県岐阜市)で開催された第13回日本臨床内科医学会にて、テレビ会議を用いた遠隔医療実験と評価を行った。会場と東海大学医学部、名古屋大学医学部の3地点の端末から、東海大学のMCUにISDN接続した。東海大学からは、内視鏡画像、胸部X線画像、病理画像の静止画を伝送した。
データチャネルとビデオチャネルの画像の比較を目的とする無記名のアンケートで各画像の確信度を臨床医に5段階で回答していただき、ROC解析を行った。
(倫理面への配慮) 教育応用では患者の匿名性を確保した上で、パスワード等による外部者の閲覧を禁じている。電子カルテは将来の利用に向けて暗号化を考慮している。臨床応用では、外部との交信は専用の回線を用い、内部にはパスワードで保護している。
結果と考察
(1) 国際間の定期症例検討会
データチャネルの利用形態として、東海大学モントリオール大学は主に「ホワイトボード」、メモリアル大学はプレゼンテーションソフトの「共有」機能を用いた。国際間の定期症例検討会は8回とも成立したが、内容的には良し悪しが分かれた。活発な討論が行われ成功することもあれば、対話が成り立たず、互いの症例を見るだけに終わることもある。英語圏(メモリアル大学)、フランス語圏(モントリオール大学)、日本語圏(東海大学)の言語の壁は大きい。英語が理解できても、講師の対応能力が問われたケースもある。時差の問題は大きく、カナダ側の学生の参加人数の少なさに現れた。次年度も工夫を加えた上で継続を予定している。
(2) 国内3病院の臨床セミナー
東海大学内の臨床家をはじめとする職員の多大な協力により、121回のセミナーの中継とWeb化が実施できた。本院では毎回約30名の参加があり、東京病院、大磯病院はそれぞれ10名程度の参加であった。講師は協力的で、回が進むに従いディジタルデータでの教材持参が多くなった。Webページは参照回数にばらつきがあり、数ページの参照から日に200ページを超える参照まである。東海大学医学部内では成功の判断であり、次年度からは伊勢原本院の会場にテレビ会議端末を常設し、実時間中継とWeb化をルーチン化する予定である。現在の問題点は、データの転送速度であり、高速データチャネルと、圧縮画像の伝送等の検討を続ける。
(3) 電子カルテ
海外からの運用に先立ち、東海大学医学部内での教育目的のため、日本語版の電子カルテをコンピュータ室内の30端末から同時に共有できるようにし、動作を確認した。インターネットの利用と同じ環境を再現するため、ISDNルータを使い、異なるサブネット間の比較的低速通信(128Kbps)で電子カルテの動作を確認している。電子カルテの共有方法にはいくつかの段階がある。マルチメディア電子メールは既存の暗号ソフトを導入するだけで利用でき、現時点で実験可能である。本研究では最終的にはインターネット上で安全に電子カルテを実時間運用するための技術開発を行う予定であり、本年度はその予備実験段階である。内部犯行や事故に対処可能な暗号化データベースは基礎実験が終了しており、引き続き実用化の検討を行う。
(4) 臨床応用
病理学は光学系と電子系の整合が課題となっている。テレビ会議の動画画面によるコンサルテーションでは、セカンドオピニオンのためには、2B接続でも十分であるとする意見と、解像度その他の点で不十分との両論があり、次年度に結論を持ち越した。静止画のサーバー経由の伝送は、組織像では十分活用できるレベルと考えられるが、臨床の現場で使えるかどうかは今後検討を行う。精神科領域では精神科医と模擬患者の両者とも、6B接続が2B接続よりストレスがないと訴えている。少数例からは、6B接続の方が診断精度が高まると考えられた。呼吸器内科では、胸部X線像等によるコンサルテーションを目指している。この応用はランチョンセミナー等で実績があり、テストでも実際に使えるとの感想が得られた。
(5) その他
産婦人科学会合同地方部会の4地点異機種間接続は、支障無く終了した。
日本臨床内科医学会での実験の結果、病理画像は解像度より動画特性が優れているビデオチャネルが優位で、X線胸部写真は逆にデータチャネルが優位であった。内視鏡画像はその中間であった。
結論
国際標準に基づく経済的な端末にても、データチャネルの活用により、医学教育などの応用によっては、カンファレンスに十分な品質が確保できる。しかし、同時にその限界も見え始めている。ISDNは枯れた技術であり、品質と信頼性に現時点では優れている。しかし、ISDNは技術開発がインターネットよりも遅れ気味となってきた。本研究は引き続き各応用の深化と、新世代のネットワーク技術の取り込みの両面から開発と評価を続けて行く。

公開日・更新日

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