診療録の様式並びに記載、コードの統一と診療情報のデータベース化に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900882A
報告書区分
総括
研究課題名
診療録の様式並びに記載、コードの統一と診療情報のデータベース化に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
河北 博文(東京都病院協会)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、診療録ならびに諸記録の記載方法の標準化を図り、第三者などによる診療機能・質の評価を容易にすること、患者への説明を充実させ医療サービスへの満足度向上を図ることである。本年度は、入院診療の要約として、退院療養指導書を入院1か月以内の短期入院患者に配布し、配布群と非配布群での医療サービスに対する満足度の比較検討を行った。また医療の質を明らかにするための退院患者登録システム構築についての基礎研究を主に行った。
研究方法
(1) 退院療養指導書に関する調査
東京都内の10病院で、1999年9月~10月に退院した患者を対象にアンケート調査を行った。10月中に退院した患者には退院療養計画書を退院時に医師が配布し、入院診療の概略・退院後の療養上の指導を行った(配布群)。9月中の退院患者をコントロール(非配布群)として比較検討を行った。
(2) 退院患者登録システムの作成
退院患者登録システムは代表的な疾患・医療行為について、患者の年齢・性別・ADL・重症度などの属性を考慮した上での、死亡率、在院日数などの医療の質に関する指標を、経時的に収集し、参加病院に対しては全体の分布とともに当該病院の指標を示すシステムである。医療の質に関する標準的な目安と、当該病院の位置づけを明らかにすることにより、当該病院の質向上への努力と、患者に対してはインフォームドコンセントの際に重要な情報を提供することが期待される。
予備調査として、国内の学会・研究会・その他、595団体を対象にアンケート調査を行った。調査項目は、患者登録システムの有無、標準診療ガイドラインの有無、その他、診療の標準化と質評価に関する項目である。
病院医療の質を評価するシステムを作成するために基礎的情報を収集し、検討およびシステムの試作を行った。対象疾患は、患者調査の結果、および専門家による検討に基づいて、胃の悪性新生物、結腸の悪性新生物、急性心筋梗塞、肺炎、喘息、脳梗塞、脳出血、糖尿病、気管、気管支及び肺の悪性新生物、大腿骨骨折を対象に、入力項目、およびその階層構造が検討された。検討結果に基づいてシステムの試作が行われた。
(3)その他
その他の研究活動として、昨年度の研究結果に基づいて、診療録管理が不十分な病院を対象とした専門家による支援体制が試行された。これは専門家が定期的に対象病院を訪問し、指導することにより対象病院の診療録管理状況の改善を図るものである。
結果と考察
(1) 退院療養指導書に関する調査
10病院より合計1631通のアンケート調査票が回収された。回答者の平均年齢は62.1歳、性別では男性57.5%であった。医療サービスについての評価結果を表1、病院の総合評価を表2に、これらと退院療養指導書配布との関係を表3に示す。
①一般に医療サービス、および病院の総合評価は高いこと
②医療従事者からの説明は相当程度行われインフォームドコンセントは遵守されているものの、費用の説明など改善の余地が認められること
③病院設備・院内環境についてはアメニテイーに関わる事項で病院間の相違が認められること
④退院療養計画書配布群では、非配布群に比較して、医療サービスの満足度が高く、病院の総合評価が高いこと
が示された。④は退院療養計画書が有効であり、今後、診療現場への導入を検討する価値があることを示唆している。
(2) 退院患者登録システムの作成
595団体(学会・研究会)への配布に対して307団体から回答が寄せられた。このうち、団体構成員が直接患者の診療に関わることがないと回答した21団体を除く、286団体からの回答を解析の対象とした。
①24団体が合計37の患者登録制度を有していた。また標準診療ガイドラインについては34の団体が合計73を作成していた。患者登録制度を運営し、あるいは標準診療マニュアルを作成している団体は比較的少数である。
②患者登録制度のうち、剖検、悪性腫瘍(甲状腺、乳房、大腸、肝臓、放射線治療例)、腎移植など少数のものでは、歴史を有し、症例数の大きな登録制度が運営されている。
③標準診療ガイドラインについては、少数の学会・研究会は積極的に作成を行っていた。内容的には、適応、診断方法、治療方法、実施者の資格に関わる事項はガイドラインに含まれていることが多いのに対して、医学的効果、その他の指標、在院日数の指標については記載されていないものが多い。
総じて、日本では患者登録システムは、学会・研究会が行う少数のものに限られること、病院の診療機能を評価する包括的なものは存在しないことが明らかにされた。またEBMなど、科学的根拠に基づいて作成された標準診療ガイドラインはほとんど存在しないことが伺われた。
退院患者登録システムは、この現状に対して大きな貢献をすることが期待される。本年度は対象10疾患について、患者情報登録の項目が確定され、これに基づいてデータベースが試作された。これを用いての試行は来年度に2回に渡って実施される予定である。
(3) その他
病院の診療録管理を支援する試みとして、2病院を対象として、専門家の派遣を受けた。派遣は現在も継続しており、指導内容、改善の状況、必要とする時間、費用などはデータとしてまとめられ、支援体制のあり方について検討される予定である。
本年度の研究では以下の事柄が明らかになった。
(1) 入院期間1カ月以内の短期入院患者においても、退院療養指導書に基づく、医師の病状説明・療養指導は、患者の病院の評価・医療サービスの評価の向上に寄与することが示された。患者の病状・原疾患などの影響については病院データとあわせ、更に詳細な検討を必要とするが、退院療養指導書の医療現場への導入が検討されるべきである。
(2) 日本においては、病院の診療機能を評価することが可能な包括的な患者登録システムは存在しない。また科学的根拠に基づく標準診療ガイドラインもほとんどない。この状況において、代表的疾患について診療上の指標を、全体の分布、個々の病院の位置づけとともに示す退院患者登録システムの有用性は極めて高いものであると思われる。今後、同システムの試行、および参加病院において診療上の指標がどのように変化したかを介入研究により検証する必要がある。
(3) 専門家による診療録管理支援体制については、現在パイロット研究中である。ここから得られるデータに基づいて、今後の推進の可能性についてさらに検討する必要がある。
結論

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研究報告書(紙媒体)

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