腎不全予防治療指針作成のためのネットワーク利用による医療情報の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199900881A
報告書区分
総括
研究課題名
腎不全予防治療指針作成のためのネットワーク利用による医療情報の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
柏原 英彦(国立佐倉病院)
研究分担者(所属機関)
  • 里村洋一(千葉大学)
  • 小山哲夫(筑波大学)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
  • 浜口欣一(国立佐倉病院)
  • 吉村光弘(国立金沢病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生命予後に関わる重要臓器機能不全のうち、腎臓病の終末像である慢性腎不全(尿毒症)患者総数は約19万人を超えた。腎炎・ネフローゼよりも糖尿病性腎症など生活習慣病による患者増のため将来予測がつかず、医学的、社会的、経済的な問題を提起している。保存期腎不全患者データベースの構築は疾病構造、ハイリスク評価、予後(腎死率)を明らかにし、透析患者の将来予測を研究するために重要な課題である。
地域中核医療施設である国立病院等を中心にコンピュータ・ネットワークを利用したデータベース構築は、多数例の登録を日常的に可能とし、科学的根拠に基づいた腎不全予防のための実践的治療指針作成に最適であり、その結果を医療関係者、市民へフィードバックすることが目的である。
研究方法
1.各施設が有する既存データベースを活用し、腎疾患患者の臨床的疫学検討を行うとともに腎疾患データベースの問題点を明らかにし、全国的ネットワーク型データベース構築へ反映させる基礎資料を作成する。
2.国立病院部のコンピュータ・ネットワーク(HOSPnet)活用を想定してWebブラウザを用いて登録、検索、閲覧、統計が可能な診療支援プラス臨床研究データベース概要を作成する。
3.腎症診断の基盤を成す腎病理データベースの在り方を検討する。
4.腎疾患患者のQOLの状況・治療・栄養・コストなどアンケート調査を継続する。
結果と考察
1.腎疾患患者の臨床疫学的検討
慢性腎炎、特にわが国に多いIgA腎症は、20歳前半に発症して15年後に透析に移行することが認められた。疾患活動性を示す半月体形成やメサンギウム細胞の増殖程度と蛋白尿1.5g/dl以上は予後が悪く、15~40歳までに透析に移行する率の高いことが認められた。
小児腎症では幼児検尿・学校検尿など尿スクリーニングで早期発見が可能となり、さらに、抗血小板剤・抗凝固剤・ステロイド剤などの併用療法で予後は改善されつつある。しかし、蛋白尿が持続するにもかかわらず進学や就職のために経過観察、治療の中断例が跡を絶たないことから、小児期から成人までの一貫した生活管理指導のためのプログラムが必要である。
2. 疾患患者データベースの要因
各種腎症および保存期腎不全では腎生検組織障害度、尿蛋白量、クレアチニン値が重要な予後因子であることが示されたが、特に治療指針作成のためには腎病理診断が鍵となるが、現状は診断基準が施設に任されており、EBM医療には基準の統一化が不可欠である。
また、ゲノム解析により疾患感受性遺伝子、薬剤感受性遺伝子等の解明が進むことは明らかであることから、かかる情報の登録も必要であることが示唆された。
3.腎疾患患者データベース仕様作成
国立病院部が管理するコンピュータ・ネットワーク、すなわちHOSPnet活用型の診療支援、臨床研究を目指した保存期腎不全データベースの仕様を作成した。その概要は、①Web上にサーバーを置く患者登録システムは、長期管理、疫学・統計解析、経済性の点で効率的であるとの結論に達した。②登録データを、患者基本情報・初診情報・経過情報(経過・薬剤・検査など)に分類し、腎以外の疾患にも共有されるデータ(共通情報)と腎生検病理組織データベースとともに腎疾患特有で拡張可能なデータ(腎固有情報)に分類した。③データ欠落を最小限にする目的で診察時入力を原則とし、効率化を図るためデータ登録ゲートウェイを設置してワークフロー(医事、臨床検査など)内でのデータ自動登録を可能させるようにする。③データ出力は患者個人の時系列治療経過参照と全データの統計解析参照の2系列から構成され日常診療支援にも利用可能とする。④患者登録は同意を必須とし、中途解除も可能とし、セキュリティーには十分配慮するものである。
4.腎病理データベースと診断基準化
腎生検病理組織診断は治療法選択と予後決定に重要であるが、わが国では病理医、とりわけ腎病理医が少ないことが国立病院・療養所に対するアンケート調査で判明した。従って、腎疾患患者データベース構築にあたっては、腎病理データベースが不可欠と考え、ネットワーク的に結合した仮想的共用病理部門として画像ファイリング管理システムMulti Modality Maneger(MMM)を採用して腎生検病理組織をデータベース化し、画像+コメントをカンファレンスサーバーに登録し合議制で診断標準化を図り、治療支援するシステムを設計した。
病理診断の基準化への方法としてライズ社製画像解析ソフトを応用してメサンギウム、内皮細胞、上皮細胞を区別・カウントして保存し、再評価で障害度判定の客観性が示された。
5. ネットワーク安全性の設計
平成11年4月に厚生省通知「診療録等の電子媒体による保存について」に従い、①真正性の確保、②見読性の確保、③保存性の確保とともに管理運用規定を定めて患者のプライバシー保護が不可欠であることが示された。腎疾患データベースは病理画像を含めて患者個人情報が主体を成すことから、セキュリティーの在り方はデータベース構築では重要な問題である。
セキュリティーは国、産業界、学会などの報告をもとに、診療情報の管理体制(組織、システムの運用、保管方法、監査体制、保守体制など)と情報処理技術(暗号化、認証システムなど)の総合的に組合わせ最も安全かつ廉価な方式が望ましいと考える。
6. 腎疾患医療の実情と患者QOL調査
医学的、社会的、経済的など多角的見地から腎疾患医療評価を行うため、患者QOL評価の国際標準、SF36様式などを組み込んだ全国的アンケート調査に着手し、135施設から589例(糖尿病99例を含む)の登録を得た。
年齢は60.7±12.9才、男女比58.4:41.6の患者群で、低蛋白食に関してVisual Analogue Scale法によるutilityを測定すると、医療従事者が考える以上に食事療法に適応し受容していることが示唆された。
結論
1.従来の疫学的腎疾患患者データベースを検討して長期利用が可能な、診療支援プラス臨床研究可能な診療支援プラス臨床研究データベース概要を作成した。2.腎生検病理画像および診断データベースの構成を明らかにした。
3.平成12年度から開始される政策医療ネットワーク:腎疾患部門のデータベース構築に当って本システムを提案し、積極的に参加する。
4.腎疾患医療の実情と患者QOL調査を継続し、データ回収と解析を始めた。

公開日・更新日

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