医療情報技術の総合的評価と推進に関する研究

文献情報

文献番号
199900876A
報告書区分
総括
研究課題名
医療情報技術の総合的評価と推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
開原 成允(国立大蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 山本隆一(大阪医科大学)
  • 前田知穂(京都府保健環境研究所)
  • 沢井高志(岩手医科大学)
  • 山口直人(国立がんセンター)
  • 高木幹雄(東京理科大学)
  • 秋山昌範(国立国際医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで医療情報技術は、技術の可能性の側から導入されてきたために、その医療上や経済性の評価は十分行われていない。本研究の目的は、映像通信技術やコンピュータネットワーク技術の応用である遠隔医療や遠隔教育を対象として、その医療上の評価と経済性の評価を行い、その効果的な利用のための問題点を明らかにすることにある。
この研究の成果は、ガイドラインとしてまとめられ、実際に遠隔医療を行う関係者の参考に供される。このガイドラインは、日本の医療に将来情報技術を用いていくための行政施策の基礎となるものとして利用されることが期待される。情報技術の応用は、行政的にも非常に重要であり、これを効果的に利用していくことが今後の医療では必須である。しかし、その応用は単に技術要素を利用するだけでは効果は得られず、総合的な見地からの方針と戦略が必要である。この研究で明らかにされるであろう効果と問題点及びその解決への提言は、上記の行政施策の上での著しく有用であろう。既に、過去の先行する研究においては、それが実証されている。
研究方法
研究は、次ぎのテーマについて、研究グループを設けて行った。
第一は、遠隔医療に関する新しい方向の調査である。遠隔医療は最近の技術的な進歩を反映して変化しつつある。その主要な変化を仮に次の4つの方向として位置づけ、それぞれについて研究協力者を設けて実態と問題点の把握を行った。即ち、①個人化、② 高度化、③ 国際化、④ 遠隔教育との融合である。
第二は、遠隔医療の医療的・経済的評価である。既に実績のある遠隔放射線診断、遠隔病理診断及び在宅医療の分野においては、その医療的ならびに経済的効果をさまざまな角度から評価した。特に、在宅医療については、厚生省が行っている全国の10箇所のモデル事業の全てについて実地調査を行った。
第三は、遠隔医療の技術的な課題の検討で、遠隔医療の中で提起される技術的な問題の中から、標準化、色の補正及びセキュリティについて研究し、具体的な提案を行った。
これらの研究の成果を基礎に遠隔医療のガイドライン(案)の作成を行った。このガイドラインは、今後広く意見を求めて改訂し、来年度に改訂版を発表する予定である。
結果と考察
1 遠隔医療に関する新しい方向
個人化:最近では、地域医師会の有志を中心にメーリングリストが多く運用されている。このメーリングリストを利用して医師が専門医に医療画像を送付して診断上のアドバイスを得ている場合もある。現在は、相談はすべてボランティアとして行われているために、問題が起こらないごく親しい人の間でのみ運用されているが、今後は、より広い専門医の参加も可能な方法を探ることが必要であろう。
高度化:内視鏡手術をセンター病院から遠隔地の病院に対しリアルタイムの映像伝送を行いながら支援することが次第に普及しつつある。こうした方法は、近年、外科医の間にこの技術に対する関心が非常に高まっているので、この状況は2,3年の間に大きく変化すると考えられる。その際に、センター的な役割を果たす病院では、片手間にこれを行うことは不可能となり、外国の例に見るように組織としての対応が必要になると思われる。
国際化:ヨーロッパではEUの発足と共に国際間の遠隔医療は国家的なプロジェクトとなって研究され、また一部実用化されている。最近では、日本からも、米国、カナダ、ロシア、などとの間に遠隔医療を行う医療機関が出てきているが、回線費用や時差の関係でかなりの負担を伴って運営されている。また、先進国のみならず開発途上国に対しても遠隔医療や遠隔教育が有効と考えられ、実際に衛星を使った実験なども行われた。
遠隔教育との融合:多地点を結ぶカンファレンスや遠隔医療にコンファレンスを組み合わせることによって、遠隔医療だけよりも大きな効果をあげることができることがわかってきた。また、最近ではビデオオンデマンドが使えるようになったために、こうしたシステムで事前に情報のレベルをそろえておき、遠隔医療を行うことなどが可能になっている。また、最近では、やや異なった使い方であるが、院内学級にテレビコンファレンスシステムを設置して学校や家庭と交信することも行われるようになっており、治療上も効果があると言われている。
2 遠隔医療の医療的・経済的評価
遠隔病理診断の医療的評価:遠隔病理診断は、その有用性がこれまで十分に証明されているが、遠隔病理診断によってどこまで正確に診断できるかという点がまだ必ずしも十分に解明されていない。このため、遠隔病理診断を日常的に行われている鳥取大学、和歌山県立大学、名古屋大学、京都府立大学の4施設において、どの程度に診断が困難であったか、また誤診があったかについての調査が行われた。これまでに行われた758例の遠隔病理診断において、正診率は、98.4%であった。誤診例は僅かながらあったが、これらの誤診の起こる状況をよく理解して利用することにより、これらの誤診も防ぎえるものであり、遠隔病理診断は実用的な医療として十分許容されるものと考えられた。
在宅医療の遠隔支援の評価:厚生省が行っている遠隔医療のモデル事業は、現在全国に10箇所ある。その遠隔医療の内容については、少しずつ違いがあるが、自宅にいる高齢者に対して診療所が医療上の支援を提供するという点では、すべての地域でほぼ同じである。
これらのシステムの有効性を調査するために、全ての場所に本研究班の調査員が実際に行って調査を行った。実態は様々であり、非常に有効に使われている地域がある一方で、ほとんどシステムが使われていないところもわずかではあるがあった。一般的には、診療する医療関係者が熱心に協力しているところは有効に利用されていると言ってもよいであろう。実際に使われた上での評価は、在宅の患者には非常に良く、特に精神的な「あんしん感」は何にも代えがたいという利用者が多かった。
3) 遠隔医療の技術的な課題の検討
標準化:内視鏡を例として、画像の伝送と蓄積の標準化が次第に普及しつつある。
遠隔医療のセキュリティについては、 遠隔診断・治療、遠隔カンファレンス、遠隔医療教育など様々な場合があり、それに応じたセキュリティの方策をとる必要がある。
色の補正:在宅医療や病理診断など色を必要とする場合には、色の標準化が常に問題となる。本研究班では、色票(CasMatch)を用いて簡単に色を補正する方法を考案した。
4)ガイドライン(案)の作成
ここで作成した遠隔医療のガイドライン(案)は、遠隔医療を行う上で基本となる原則を示したものであり、技術的な詳細を示したものではない。特に、医療における責任体制についての考察を記した。このガイドラインは、今後広く意見を求め、来年度に最終案をまとめる予定である。
結論
新しい技術である遠隔医療の最近の新しい動向をその内容と技術の側面から調査し、それを踏まえて今後の遠隔医療が普及していくことを考えて、その実用化のためのガイドラインの作成を行った。

公開日・更新日

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