文献情報
文献番号
199900872A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器の医療におけるテクノロジーアセスメントに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 靖久(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
- 古川 孝((社)日本電子機械工業会)
- 岩田 博夫(京都大学再生医科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現代医療では、医療機器の重要性が益々増加し、その適正使用の観点からテクノロジー・アセスメント(TA)の考え方の導入が求められてきた。しかし従来、TAは主に医療政策、医療経済の視点から巨視的(マクロ的)評価に供されてきた。医療機器の医療における真の貢献度を測るTAの手法は、単に巨視的視点ばかりでなく、患者個人一人としての医療技術の選択や、その経費といった、巨視的視点に対する微視的視点(ミクロ的)と称されるべきものと、病院経営や企業運営などの立場に立ったTA(いわばメゾスコピックな視点)もあり得ると考える。本研究ではメゾスコピックな視点、微視的視点に有用なTAの手法を確立すべく、最終的な本研究成果となる「医療機器の医療におけるTAのガイダンス」に資する具体的作業を本年度は積み上げた。すなわち、
(1)米国におけるTAの実態調査に基づく、医療界での活用方法の検討
(2)リスクマネジマント(リスク管理)を踏まえたTAの考え方の整理
(3)上記立場毎の評価項目(因子)の抽出と整理
(4)メゾスコピックな視点の例として企業が望むTAの具体的内容
(5)EBMに関わる医療機器に関するEvidenceの収集とDB化の考え方
(6)21世紀をにらんで米国で活状化しつつある組織工学の動向とTAの関係を目的として個別に研究推進した。
(1)米国におけるTAの実態調査に基づく、医療界での活用方法の検討
(2)リスクマネジマント(リスク管理)を踏まえたTAの考え方の整理
(3)上記立場毎の評価項目(因子)の抽出と整理
(4)メゾスコピックな視点の例として企業が望むTAの具体的内容
(5)EBMに関わる医療機器に関するEvidenceの収集とDB化の考え方
(6)21世紀をにらんで米国で活状化しつつある組織工学の動向とTAの関係を目的として個別に研究推進した。
研究方法
研究協力者の協力を得、研究班を形成し、各調査結果に基づいた討議を中心に研究成果を順次まとめた。
(1)米国における実態調査
米国厚生省下のHCFA、AHCPRにおける活用方法の調査、及び全く中立なECRIでのTAの実態調査を行い、これをまとめて実用的TAについての指針を得た。
(2)リスク管理の世界的基準ISO/TC210と臨床リスクレベルとの整合性の検討
ISO/TC210を翻訳すると共にリスク管理の定量指標としての考え方と、臨床現場におけるリスクレベルの考え方についての整合性を検討するため、ISO、FDA、システム安全工学などの概念と臨床的リスクレベル(本研究での独自案)との比較検討を行った。
(3)各立場によって異なるTA因子の整理
巨視的視点、中間的視点視点(医療機関側)、中間的視点(企業側)、微視的視点の4 つの立場における評価因子を抽出した。その際、我国の以前の調査例、欧米のTA動向を参考にすると共に、独創的な視点を特に中間的視点、微視的視点に加え整理した。また全体としての網羅性も留意した。
(4)メゾスコピックな事例としての「企業が望むTAの内容」を明示した。
企業内のQA事情や産業界としての動向を踏まえ、現実問題としてとらえた場合のTA内容を整理した。
(5)EBMに基づく医療機器EvidenceのDB化の検討
EBMの重要性は臨床現場で益々高まっている。しかし医療機器に限定したEBM情報は少なく、そのデータベース化の内容を検討した。
(6)組織再生工学の産業化に関する米国調査
先端産業の可能性の高い組織再生工学の実態を米国の臨床家、研究者、企業を訪問対談し、その現実と将来性を検討した。また同時に基準化の方策も検討した。
(1)米国における実態調査
米国厚生省下のHCFA、AHCPRにおける活用方法の調査、及び全く中立なECRIでのTAの実態調査を行い、これをまとめて実用的TAについての指針を得た。
(2)リスク管理の世界的基準ISO/TC210と臨床リスクレベルとの整合性の検討
ISO/TC210を翻訳すると共にリスク管理の定量指標としての考え方と、臨床現場におけるリスクレベルの考え方についての整合性を検討するため、ISO、FDA、システム安全工学などの概念と臨床的リスクレベル(本研究での独自案)との比較検討を行った。
(3)各立場によって異なるTA因子の整理
巨視的視点、中間的視点視点(医療機関側)、中間的視点(企業側)、微視的視点の4 つの立場における評価因子を抽出した。その際、我国の以前の調査例、欧米のTA動向を参考にすると共に、独創的な視点を特に中間的視点、微視的視点に加え整理した。また全体としての網羅性も留意した。
(4)メゾスコピックな事例としての「企業が望むTAの内容」を明示した。
企業内のQA事情や産業界としての動向を踏まえ、現実問題としてとらえた場合のTA内容を整理した。
(5)EBMに基づく医療機器EvidenceのDB化の検討
EBMの重要性は臨床現場で益々高まっている。しかし医療機器に限定したEBM情報は少なく、そのデータベース化の内容を検討した。
(6)組織再生工学の産業化に関する米国調査
先端産業の可能性の高い組織再生工学の実態を米国の臨床家、研究者、企業を訪問対談し、その現実と将来性を検討した。また同時に基準化の方策も検討した。
結果と考察
(1)米国におけるTAの活用法
米国にかつてあったOffice of Technology Assessment(OTA)はすでになくなっていたが、医療保険庁のHCFAではTAを保険適用範囲を決定する際の基礎として活用しており、メディケア、メディケイドなどの実務に反映していた。欧米部門にあたるAHCPRは各技術などの臨床的文献情報からTAを行い、その具体的結果をレポートとして提供していた。このAHCPRへはHCFAからの依頼もあり、逆にHCFAへ提言することもある。良好な関係であるようだった。医療企業のコンサルタントやグループ系の健康保険に対するコンサルタントを部門とする企業が成立しており、政策論的TAではなく実践的TAが行われていた。さらに医療機器メーカや医療機関からの中立を維持している民間企業ECRIの活動を見学し、物理的実験など具体的試験を行って、公表している体制を目のあたりにした。我国における類似機関の存在の必要性を指摘した。
(2)リスク管理におけるリスクレベルと臨床的リスクレベルの関係
リスク管理の規格化の進む状況下で、ISO/TC210に示されるリスクレベルは各企業の判断にまかされており、その実施には適切な臨床側、患者側とのコンセンサスが必要と考えられる。これを参考に臨床的リスクレベルを提案し、その考え方とISOなどの基準に対応すると考えられるハザードのグレーディングとの可能であった。実際に米国におけるPL裁判事例を両者にあてはめ、整合性のあることを確認した。TAとリスク管理を具体的に結びつける土台が成立し得ることを示唆した。
(3)各立場に立ったTA因子の整理
従来からの巨視的評価に加え、中間的視点(企業側と病院側)及び微視的視点に立った評価項因子を整理し、巨視的視点の評価項目と微視的視点の評価項目が一致しないこともあることを確認した。この評価項目のずれは、各立場でのTAを推進する意味が、正に存在することを示すもので、ガイダンスとして完成するための最も基礎的評価項目をここに整理し得たことはTA推進の基盤形成にもなり得たと考える。
(4)企業が望むTAの内容
国民皆保険であり、その適用医療技術の価格(保険料)が決まっている一種の統制的医療経済下では、その市場性を把握する際の、保険料が極めて重要であることをTAの視点から指摘し、TAに基づいて保険料決定法への道を提言した。また、技術的な意味で、社内におけるTA活用の方法についても安全性と信頼性の視点から重要であることを指摘した。
(5)医療機器のEBM情報のデータベース化
医療機器に関するEBM情報は少ないばかりでなく、いわばある機器をある疾患に適用した場合の科学的事実であるので、その機器が適用でる疾病に関するEBM情報を集積しなければ充分なTAは行えないことになる。そのためデータベース化しておくことが望まれる。利用者としては、医師、患者、医療機器メーカ等が考えられるが、何よりも臨床評価された結果に基づくTAが重要であるので、このデ-タベースはインターネット上に公開し、更新を頻回に行われることが望まれる。
(6)組織再生企業化の米国状況調査
米国では皮膚培養、軟骨培養の企業化に成功し、既に臨床現場において自家培養軟骨の移植が行われていた。バイオテクノロジー産業として、相当の収益も既にあげ、将来を見込んだ事前TA対象とも考えられた。また同時に感染などの不安全状態の発生についてはFDAばかりでなく、米国規格試験協会のようなところでも自主的に全国から専門家を集めて検討し、安全性を考慮した体制が整っている。
技術評価(テクノロジー・アセスメント、TA)には、通常、次の三つの視点が与えられている。
a)医学的評価
b)経済的評価
c)社会的評価
このような医療技術を評価するための諸外国の評価機関における評価は、欧米諸国での場合、医療政策の決定過程に対して、マクロ的な立場から大きな役割を果たしているといわれている。我国では、医療技術評価を厚生省健康政策局が中心になって導入しており、個人と集団の健康増進、予防、診療、リハビリ等の改善のための、保健医療技術の普及と利用の意志決定を支援する目的として行っている。ここにおける評価の手法・方策としては、評価対象となる技術の選定、その技術に関するデータ収集、その検証、各側面からの総合的な評価、その結果についての関係者の合意形成、というようなプロセスが考えられ、評価の過程については十分な情報公開が求められる。
本研究において得られた特色の一つは、医療機器に関するTAにおいて、様々な立場の違いを区分けしたこと、そして各々の立場における評価項目、優先順位等の違いなどを考慮してできるだけ網羅的に評価項目を洗い出したこと、それらの全景を概観できるよう図表化したこと等である。
次に主としてISO/TC210において議論されている医療機器のリスクマネジメント(RM)について考察した。RMは、TAの一因子として欠くことのできない要素であり、国際整合の観点からも将来はTAとRMとが医療機器の開発・実用化における不可欠な過程となる可能性があることが十分に予測できる。医療製品使用のRMついては、FDAにおけるリスクマネジメント・タスクフォースからの報告に、
FDAは対象者全員の便益/リスクを評価する。
医療提供者は一人の患者の便益/リスクを評価する。
患者は患者個人の値に従って便益/リスクを評価する。
と記されており、各立場別のポイントが記されており、我々の研究におけるそれぞれの立場別のTAというスタンスと同様の考え方があることが推測される。RMという一種の科学的手法を利用した技術によって測定され評価されるのは、統計的なリスクである。そのリスクの現実の場における許容については、それぞれのコミュニティによって差異が生じ、受ける便益のバランスによって決まることが多い。RMにおけるリスク・便益のバランスは難しい問題であり、そこに立場上の違いが顕在化するのであり、本研究においてTAを立場によって区分分けして考察した意義は大きいと考えられる。
また、TAにおいて医療機器の効果や副作用をみるには、疫学的・生物統計学的手法による臨床的判断、すなわち臨床疫学的方法論が基盤となっているEBMを重視せざるを得ない。
米国にかつてあったOffice of Technology Assessment(OTA)はすでになくなっていたが、医療保険庁のHCFAではTAを保険適用範囲を決定する際の基礎として活用しており、メディケア、メディケイドなどの実務に反映していた。欧米部門にあたるAHCPRは各技術などの臨床的文献情報からTAを行い、その具体的結果をレポートとして提供していた。このAHCPRへはHCFAからの依頼もあり、逆にHCFAへ提言することもある。良好な関係であるようだった。医療企業のコンサルタントやグループ系の健康保険に対するコンサルタントを部門とする企業が成立しており、政策論的TAではなく実践的TAが行われていた。さらに医療機器メーカや医療機関からの中立を維持している民間企業ECRIの活動を見学し、物理的実験など具体的試験を行って、公表している体制を目のあたりにした。我国における類似機関の存在の必要性を指摘した。
(2)リスク管理におけるリスクレベルと臨床的リスクレベルの関係
リスク管理の規格化の進む状況下で、ISO/TC210に示されるリスクレベルは各企業の判断にまかされており、その実施には適切な臨床側、患者側とのコンセンサスが必要と考えられる。これを参考に臨床的リスクレベルを提案し、その考え方とISOなどの基準に対応すると考えられるハザードのグレーディングとの可能であった。実際に米国におけるPL裁判事例を両者にあてはめ、整合性のあることを確認した。TAとリスク管理を具体的に結びつける土台が成立し得ることを示唆した。
(3)各立場に立ったTA因子の整理
従来からの巨視的評価に加え、中間的視点(企業側と病院側)及び微視的視点に立った評価項因子を整理し、巨視的視点の評価項目と微視的視点の評価項目が一致しないこともあることを確認した。この評価項目のずれは、各立場でのTAを推進する意味が、正に存在することを示すもので、ガイダンスとして完成するための最も基礎的評価項目をここに整理し得たことはTA推進の基盤形成にもなり得たと考える。
(4)企業が望むTAの内容
国民皆保険であり、その適用医療技術の価格(保険料)が決まっている一種の統制的医療経済下では、その市場性を把握する際の、保険料が極めて重要であることをTAの視点から指摘し、TAに基づいて保険料決定法への道を提言した。また、技術的な意味で、社内におけるTA活用の方法についても安全性と信頼性の視点から重要であることを指摘した。
(5)医療機器のEBM情報のデータベース化
医療機器に関するEBM情報は少ないばかりでなく、いわばある機器をある疾患に適用した場合の科学的事実であるので、その機器が適用でる疾病に関するEBM情報を集積しなければ充分なTAは行えないことになる。そのためデータベース化しておくことが望まれる。利用者としては、医師、患者、医療機器メーカ等が考えられるが、何よりも臨床評価された結果に基づくTAが重要であるので、このデ-タベースはインターネット上に公開し、更新を頻回に行われることが望まれる。
(6)組織再生企業化の米国状況調査
米国では皮膚培養、軟骨培養の企業化に成功し、既に臨床現場において自家培養軟骨の移植が行われていた。バイオテクノロジー産業として、相当の収益も既にあげ、将来を見込んだ事前TA対象とも考えられた。また同時に感染などの不安全状態の発生についてはFDAばかりでなく、米国規格試験協会のようなところでも自主的に全国から専門家を集めて検討し、安全性を考慮した体制が整っている。
技術評価(テクノロジー・アセスメント、TA)には、通常、次の三つの視点が与えられている。
a)医学的評価
b)経済的評価
c)社会的評価
このような医療技術を評価するための諸外国の評価機関における評価は、欧米諸国での場合、医療政策の決定過程に対して、マクロ的な立場から大きな役割を果たしているといわれている。我国では、医療技術評価を厚生省健康政策局が中心になって導入しており、個人と集団の健康増進、予防、診療、リハビリ等の改善のための、保健医療技術の普及と利用の意志決定を支援する目的として行っている。ここにおける評価の手法・方策としては、評価対象となる技術の選定、その技術に関するデータ収集、その検証、各側面からの総合的な評価、その結果についての関係者の合意形成、というようなプロセスが考えられ、評価の過程については十分な情報公開が求められる。
本研究において得られた特色の一つは、医療機器に関するTAにおいて、様々な立場の違いを区分けしたこと、そして各々の立場における評価項目、優先順位等の違いなどを考慮してできるだけ網羅的に評価項目を洗い出したこと、それらの全景を概観できるよう図表化したこと等である。
次に主としてISO/TC210において議論されている医療機器のリスクマネジメント(RM)について考察した。RMは、TAの一因子として欠くことのできない要素であり、国際整合の観点からも将来はTAとRMとが医療機器の開発・実用化における不可欠な過程となる可能性があることが十分に予測できる。医療製品使用のRMついては、FDAにおけるリスクマネジメント・タスクフォースからの報告に、
FDAは対象者全員の便益/リスクを評価する。
医療提供者は一人の患者の便益/リスクを評価する。
患者は患者個人の値に従って便益/リスクを評価する。
と記されており、各立場別のポイントが記されており、我々の研究におけるそれぞれの立場別のTAというスタンスと同様の考え方があることが推測される。RMという一種の科学的手法を利用した技術によって測定され評価されるのは、統計的なリスクである。そのリスクの現実の場における許容については、それぞれのコミュニティによって差異が生じ、受ける便益のバランスによって決まることが多い。RMにおけるリスク・便益のバランスは難しい問題であり、そこに立場上の違いが顕在化するのであり、本研究においてTAを立場によって区分分けして考察した意義は大きいと考えられる。
また、TAにおいて医療機器の効果や副作用をみるには、疫学的・生物統計学的手法による臨床的判断、すなわち臨床疫学的方法論が基盤となっているEBMを重視せざるを得ない。
結論
医療機器の医療におけるTAのガイダンスを作成するための基礎情報として資するために、TAを行う際の評価項目をマクロ(巨視的)的、中間(メゾスコピック)的、ミクロ(微視)的な三つの視点に分けて、それぞれの立場においてTA因子を洗い出した。また特に、医療におけるリスク管理とTAの関係を結びつけ、広義の安全と医療機器製造側との一帯化に道筋をつけた。さらに企業の望むTAの内容を具体的に示し、またEvidence Based Medicine(EBM)に関わる医療機器関連のEvidenceのデータベース化を検討した。今後は、リスクあるいはベネフィットを規定するため、障害や便益の半定量的な程度付けと医療機器TAの応用例を検討し、さらには近い将来、我国において医療機器TAの専門部門を構築する場合に必要となる、その目的、指名、役割、組織、運営等について具体的な姿を提示して検討したい。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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