透析合併症の病態解明及びそれに基づく治療法の確立

文献情報

文献番号
199900867A
報告書区分
総括
研究課題名
透析合併症の病態解明及びそれに基づく治療法の確立
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 敏男(東海大学総合医学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 毅(福島県立医科大学医学部 第三講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
29,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年我々は、透析患者においては糖・脂質由来の反応性カルボニル化合物が生体内多量に蓄積し、異常な蛋白修飾をひきおこし、それが透析合併症の大きな誘因となることを報告してきた。そうした状況を“カルボニルストレス"と提唱し、本研究課題において、カルボニルストレスの生化学的解析、病態生理学的解析、及びそれに基づく新規治療法開発の可能性などを検討してきた。また腹膜硬化症、副甲状腺機能亢進症などの合併症に関してはより詳細な発症機序の解明とそれに基づく治療法の確立を目指す基礎研究を行ってきた。
研究方法
健常者、非糖尿病腎不全患者を対象とし、下記の生化学的解析を検討した。健常者と腎不全患者間および透析前後間の血漿におけるカルボキシメチルリジン産生能あるいはペントシジン産生能を比較検討するため、それぞれの血漿を37℃で一定期間インキュベ-トし、生成されたカルボキシメチルリジンは、ガスクロマトグラフィ-質量分析器(GC/MS)にて、ペントシジンは、高速液体クロマトグラフィ-を用いて定量した。また一部の実験においては、カルボニルストレス阻害剤であるアミノグアニジン及びOPB-9195を添加してインキュベ-トを施行し、カルボキシメチルリジン、ペントシジン生成抑制効果について比較検討した。また、両患者群の血漿中に含まれる低分子反応性カルボニル化合物がCMLあるいはペントシジンの前駆物質となりえる可能性を比較検討する目的で、限外濾過法にて分子量5000 Da以上の蛋白を除去した血漿をアルブミンと共に37 oC、一定期間インキュベ-トし、カルボキシメチルリジン、ペントシジン産生量を測定した。
結果と考察
健常者および腎不全患者血漿中のペントシジン、カルボキシメチルリジン量はともに健常者に比べ腎不全患者で有意に高値を示した。インキュベ-ション後の両群検体、あるいは高分子蛋白を除去した後にインキュベ-ションを施行した血漿におけるペントシジン、カルボキシメチルリジン産生量を比較すると、いずれの検体においてもそれらの産生量はインキュベ-ション時間に比例して増加し、その増加程度は腎不全血漿で著明であることが明らかとなった。また透析前後の血漿では透析後でカルボキシメチルリジン、ペントシジン産生量が低下することも判明した。さらにアミノグアニジン、OPB-9195などのカルボニルストレス消去剤添加は、両群血漿におけるペントシジン、カルボキシメチルリジン形成を効率に抑制した。
以上の結果より、腎不全患者血中には健常者に比しカルボキシメチルリジン、あるいはペントシジンが多量に蓄積しているのみならず、ペントシジン、カルボキシメチルリジンの生成前駆物質が多量に蓄積していることが示された。その前駆体の特性としては、限外濾過で除去されない5000 Da以下の低分子で、カルボニルストレス消去剤にてトラップされるカルボニル化合物であることが推測される。
カルボキシメチルリジンは、ペントシジンとは異なり糖だけでなく脂質からも形成される事から、カルボキシメチルリジンの前駆体として低分子カルボニル化合物に加え、不飽和脂肪酸などの高分子カルボニル化合物の関与も考えられる。今後この点もふまえて腎不全患者血清のカルボニル異常修飾産物形成経路についてより詳細な検討を加え、カルボニルストレスを生化学的に検討したい。
結論
腎不全患者血中におけるカルボニルストレスの生化学的解析の結果、腎不全患者血中では健常者に比べペントシジンやカルボキシメチルリジンといったAGEsが著しく蓄積しており、カルボキシメチルリジンの主な前駆物質はペントシジンと同様、低分子のカルボニル化合物である可能性が示唆された。しかし、糖と脂質の両方を前駆体とするカルボキシメチルリジンは、生成経路や蓄積メカニズムに脂質が影響及ぼす事も考えられる。今後この点に関するさらなる解析が必要と考えられる。また、カルボニル化合物蓄積の原因が酸化反応の亢進(産生亢進)や代謝反応系の異常(消去の低下)であるかを明らかにするために、キレ-ト剤添加実験による金属イオンを介した酸化反応の関与、あるいはグリオキサラーゼなどの添加実験によるカルボニル化合物消去系酵素の関与などを検討することが必要であると考えられる。さらに、腎不全血中のペントシジン、カルボキシメチルリジン以外のカルボニル化合物過剰修飾産物を測定し、各種パラメ-タとの相関関係を詳細に検討し、今後のカルボニルストレスの病態生理学的意義の解明に新たな知見を加えていきたい。

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