糖尿病性腎症の診断指針・治療指針の作成

文献情報

文献番号
199900865A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性腎症の診断指針・治療指針の作成
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 隆一(滋賀医科大学第三内科)
研究分担者(所属機関)
  • 堺秀人(東海大学腎臓内科)
  • 富野康日己(順天堂大学腎臓内科)
  • 大橋靖雄(東京大学生物統計学)
  • 山田研一(国立佐倉病院臨床研究部)
  • 羽田勝計(滋賀医科大学第三内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
33,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本透析医学会の統計によると、1998年に透析療法に導入された糖尿病性腎症患者数は全導入患者数中35.7%を占め年々増加しており、医学的・社会的問題となっている。従って、糖尿病性腎症の早期診断指針を確立するとともに、血糖制御のみにては治療困難な顕性腎症以降の症例に対する治療法を確立することにより透析療法に導入される糖尿病性腎症患者数を減少させることが本研究の目的である。
研究方法
1)糖尿病性腎症の治療指針の作成
本研究遂行のため、「糖尿病性腎症に対する蛋白制限食の効果」に関する多施設共同研究を行う。糖尿病罹病期間5年以上の70歳未満の2型糖尿病症例、ただし、65歳以上70歳未満の症例は、糖尿病発症年齢が60歳未満の2型糖尿病患者で、かつ顕性腎症を有し、血清クレアチニン値(Cr) 2.0 mg/dl未満の症例を対象とし、通常蛋白食群(蛋白摂取量1.2 g/kg/day以上)と蛋白制限食群(蛋白摂取量0.8 g/kg/day)にランダム化により2群に分ける。文書で同意を得た後、前観察期(3ヶ月)、続いて5年間の観察期に以下の項目に関して解析する。主要解析項目は、1) Ccrの低下速度および1/Crの傾き、2) 血清Crが前値の倍になる症例の頻度とし、副解析項目を、1) GFRの低下速度、および2) AERあるいは尿蛋白量およびCcrの絶対値あるいは変化率とする。また、群間比較のみでなく、達成された平均蛋白摂取量を4段階に分け、蛋白摂取量に基づく解析を各項目毎に行う。食事指導は、献立の雛形および献立例を各症例に呈示して行うこととする。蛋白摂取量は、食事記録および尿中尿素窒素排泄量から算出するが、データ・センター内の管理栄養士および主任・分担研究者間で検討し、適切な指導が行われるよう適宜注意を喚起する。さらに、可能な限りDEXAを用いたlean body massの測定を行い、栄養状態を評価すると共に、各症例のQOLをSF-36を用い経年的に評価する。なお、毎年中間解析を行い試験の続行・中止に関して検討する。
2) 糖尿病性腎症の診断指針の作成
全国5施設の健診センターから、各年代別の計667例の健常人随時尿を採取し、尿中アルブミン濃度、及び尿中アルブミン/クレアチニン比を測定した。さらに、これらの内273例においては早朝尿の尿中アルブミン濃度、および尿中アルブミン/クレアチニン比も測定した。
3)糖尿病性腎症の発症・進展に関する遺伝子解析に関する研究
1171例の2型糖尿病症例の末梢血より抽出したDNAよりPCR法を用いアンジオテンシン変換酵素(ACE)、アンジオテンシノーゲン(AGT)、アンジオテンシン受容体タイプ1(AT1R)の遺伝子多型を決定した。
4)生物統計解析
平成11年度の東京都K区役所職員3162名(35~65歳)から健診結果に基づき、糖尿病群98人、高脂血症群196人、両者合併群89人、及び対照群209人に分類し、自記式食事歴質問表による方法で、大規模な集団に対して栄養摂取状況を食事歴調査票で行い得るかをケース・コントロール研究を実施した。
結果と考察
1.糖尿病性腎症の治療指針
平成12年3月22日現在、選択基準を満たす103症例(男;57名、女;46名)が前観察期に仮登録されており、それら症例の内74名を、データ・センターにて、通常蛋白食群(1.2g/kg/day)と蛋白制限食群(0.8g/kg/day)の2群に振り分けた。本年度は、観察期間が1年を経過した症例数が未だ50例であり、主要解析項目・副解析項目に関する解析、そしてIndependent Study Monitoring Committeeによる中間解析は行わなかった。観察期における食事調査からの蛋白摂取量は、蛋白制限食群で通常蛋白食群より低値であった。登録症例数が103例と目標登録症例数200例に達しておらず、推進委員の協力を得て、さらに登録を推進する。観察期における問題点は、尿中尿素窒素から算出した蛋白摂取量と食事調査からの蛋白摂取量に差が認められたことである。しかし、食事調査からの蛋白摂取量は、観察期3ヶ月を除くと、1~12ヶ月の各観察期で両群に差が認められ、蛋白制限群(0.8g/kg/day)と通常蛋白群(1.2g/kg/day)の2群に振り分けらていた。尿中尿素窒素から算出した蛋白摂取量に関しては、24時間蓄尿であるため、その不正確さが存在するとも考えられる。また、食事調査からの蛋白摂取量は、3日間の聞き取り調査を基に算出されるが、聞き取り時に十分調査できたか等の疑問がある。いずれにせよ、本研究の目的である食事蛋白摂取量を蛋白制限群(0.8g/kg/day)と通常蛋白群(1.2g/kg/day)の2群に分けるためには、上述した問題点を解決する必要がある。そこで、栄養士による食事指導を少なくとも1ヶ月に1回のペースで継続すること、さらに、写真撮影による食事指導を導入するとともに、蛋白摂取量の結果を各施設に送付・指導することとした。また、24時間蓄尿に関しては、蓄尿時間のばらつきがある可能性が推察されることより、蓄尿方法の徹底化が望ましいと考えられた。
2.糖尿病性腎症の診断指針
対象は667例(年齢;21-71歳、男;365例、女;301例、不明;1例)で、年代別では、21-30歳;12例、31-40歳;91例、41-50歳;324例、51-60歳;199例、61歳以上;40例であった。平均値+2SDから求めた随時尿の正常上限値は、尿中アルブミン濃度で23.4mg/l、尿中アルブミン/クレアチニン比で18.6mg・g Crであった。また、早朝尿の正常上限値は、尿中アルブミン濃度で16.5mg/l、尿中アルブミン/クレアチニン比で12.3mg/g Crであった。
3.糖尿病性腎症の発症・進展に関する遺伝子解析に関する研究
ACEのDD genotypeを有する症例は、経過中に血清Crが2.0mg/dlを越える、あるいは透析に至ったprimary endpointに達する時間がIDないしIIを有する症例に比し有意に短かった。また、顕性腎症を有する群においては、AT1R遺伝子多型AC/CCをもつ女性患者のprimary endpointに達する時間が、AA遺伝子型をもつ患者に比し有意に短かった。
4. 生物統計解析
質問表の回収率は67.7%であった。糖尿病、高脂血症、両者合併群において、食事療法あり群の栄養素摂取量は食事療法なし群に比し+309.6kcalの差が見られたが、充足率に両群間で差はなかった。
結論
糖尿病性腎症の治療指針に関する研究は、「糖尿病性腎症に対する蛋白制限食の効果」に関する多施設共同研究を開始し円滑に推移しているが、食事指導の徹底化を行うとともに、目標症例数200へ向けて登録をさらに推進する。糖尿病性腎症の診断指針の作成に関する研究は、随時尿による尿中アルブミン濃度および尿アルブミン/クレアチニン正常上限値の早期診断における妥当性を前向き研究で評価していく。

公開日・更新日

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