脳卒中の一次予防、二次予防、病態及び治療に関する研究(脳ドッグ発見の未破裂脳動脈瘤の治療成績の検討-EBMの基礎データ製作のため)(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900858A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中の一次予防、二次予防、病態及び治療に関する研究(脳ドッグ発見の未破裂脳動脈瘤の治療成績の検討-EBMの基礎データ製作のため)(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
塚原 徹也(国立京都病院)
研究分担者(所属機関)
  • 桜井芳明(国立仙台病院)
  • 米倉正大(国立長崎中央病院)
  • 高橋立夫(国立名古屋病院)
  • 井上亨(国立病院九州医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では脳ドックによる脳動脈瘤のスクリーニング検査が普及し、比較的高率(約5%)に未破裂動脈瘤が発見されるようになったが、その治療指針が確立されていないのが現状である。そこで、本研究では多施設共同研究により未破裂脳動脈瘤に対する手術件数、内容、及び治療成績を調査し、治療指針を確立するための基礎資料を提供することを目的とする。
研究方法
国立病院内で脳血管手術を積極的に行っている5施設を選択し、各施設より新たに作成した登録票により現在までの未破裂動脈瘤のデータを収集し、retrospectiveに未破裂脳動脈瘤に対する手術件数、内容、及び治療成績を検討する。その際特に、各未破裂動脈瘤症例を1. 破裂動脈瘤に随伴したグループ、2. 他の中枢神経疾患に随伴したグループ、3. 症候性のグループ、4. 脳ドッグ等で発見された無症候性のグループの四つに分類し、各グループでの治療成績、予後に関与する因子を検討した。また、同時に未破裂動脈瘤の出血率を検討するため、未治療症例も登録しその自然経過を調査した。
(倫理面への配慮)近年わが国では、脳ドッグ等により、脳動脈瘤のスクリーニング検査が広くおこなわれるようになった結果、比較的高率(受診患者の約5%)に、脳動脈瘤の存在が指摘されている。破裂動脈瘤によるクモ膜下出血の予後は必ずしもよいものでないことにより、5mm以上で手術リスクが比較的低い未破裂動脈瘤に対しては、積極的に外科的治療を行うことが主流となりつつあるが、現在のところ、明確な治療指針はない。これら脳ドッグ検診で発見された無症候性の脳動脈瘤の治療成績はmorbidigy:5%以下、mortality:1%以下であるとの報告もあるが、未破裂動脈瘤の治療成績は、動脈瘤の部位、年齢、基礎疾患や治療施設により異なるため、治療方法はこれらを視野に入れ施設ごとに十分にインフォームドコンセントを行い決定されるべきである。この臨床研究においては、治療方法を制限していないので、十分なインフォームドコンセントは前提になるが、研究対象となることにより治療方法が影響を受けることはなく、施設ごとに個々の例ごとに最も適切と考えられる方法を選択可能である。
結果と考察
本年度中の登録症例は257例で、そのうち開頭手術例が189例、血管内手術例が8例、経過観察(未治療)例が60例であった。全体の治療成績では、経過不良例が開頭手術で31例(16.4%)、血管内手術で1例(12.5%)であった。経過不良例は、女性例(25例)、多発動脈瘤例(15例)、海綿静脈洞部、内頚動脈-眼動脈分岐部動脈瘤例、15mm~24mmの大きさの動脈瘤例で有意に多かった。高血圧や脳梗塞の既往などは有意な危険因子とはならなかった。一方、経過観察した未治療脳動脈瘤は60例、79個であり、総フォローアップ期間は2310ヶ月(192.5年)であった。その間2症例、2個の脳動脈瘤に出血を認め、1例は死亡、1例は要介助となった。したがって、年間の未破裂脳動脈瘤の破裂率は、2/192.5=0.0104(1.04%)であった。各グループでの検討では、グループ1の破裂動脈瘤に随伴した症例では経過不良例が12.8%に対し、未治療群での出血例がなく今後の手術適応には充分な検討が必要と考えられた。グループ2の他の中枢神経疾患に合併した症例では、2例(2.9%)に症状の悪化を認めたのみで、脳梗塞の既往は予後不良因子とはならなかった。一方、未治療例の1例(6.1%)で動脈瘤の破裂を認め、手術適応を十分検討すれば手術が有用な治療手段となり得ることが示唆された。グループ3の症候性脳動脈瘤は、動脈瘤のサイズが大きいためにその治療成績は必ずしも良くないが、症候性であるため未治療例が4例しかなく手術の有効性についての検討は出来なかった。グループ4の無症候性脳動脈瘤は、93%で経過良好であったが、12例の未治療例での出血例もなく今後は本グループ未治療例の登録を増やし自然経過を明らかにすることが重要と考えられた。本研究全体としては、術後に何らかの症状の悪化を認めた症例が16.4%存在し、未治療例の年間破裂率が1%強であることを考えると、治療成績として十分なものとはいえない。しかし、この結果をもって、すべての未破裂動脈瘤の手術治療を否定するものでなく、本研究結果は充分とは言えないが個々の脳動脈瘤の特徴による手術の危険度と自然経過を推し測るデータとして有用であると考えられる。また、未破裂脳動脈瘤の年間破裂率も1.04%と現在までの多くの報告に一致したが、これも症例数60例と少なくさらにその2/3が10mm以下の動脈瘤であり、症候性の動脈瘤も4例しかなく、すべての動脈瘤の破裂率を推し測るには今だ不充分と言わざる得ない。したがって、本研究結果を有効な未破裂脳動脈瘤の治療指針とするには、更なる詳細な検討が出来うるような十分なデータの蓄積が引き続き重要であると考えられた。
結論
未破裂脳動脈瘤の登録表を新たに作成し、257例の登録を実施した。個々の症例を脳動脈瘤の発見経緯によって4グループ分類し、各グループごと治療成績と予後不良因子を検討した。また、未治療未破裂脳動脈瘤60例の自然経過を追跡調査し、その年間破裂率も検討した。今後、更に登録を増やし詳細な検討を加えることで未破裂脳動脈瘤の治療方針を決定する際の有用なデータに成り得
るものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-