我が国における冠動脈インターベンション治療の実態調査とガイドライン作成

文献情報

文献番号
199900854A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における冠動脈インターベンション治療の実態調査とガイドライン作成
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
竹下 彰(九州大学大学院医学系研究科附属心臓血管研究施設内科部門教授)
研究分担者(所属機関)
  • 山口 徹(東邦大学大橋病院第三内科教授)
  • 吉川純一(大阪市立大学第一内科教授)
  • 上松瀬勝男(日本大学第二内科教授)
  • 藤原久義(岐阜大学第二内科教授)
  • 山口 洋(順天堂大循環器内科教授)
  • 古瀬 彰(JR東京総合病院長)
  • 小柳 仁(東京女子医大循環器外科教授)
  • 上田 一雄(九州大学医療技術短期大学部教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
55,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
虚血性心臓病に対する経皮的冠動脈形成術(PTCA)は、手技の確立と用具の改良のため比較的安全に施行できるようになり我が国においても非常な勢いで普及している。同様に、冠動脈バイパス手術(CABG)もセンター病院以外の施設でも実施される傾向にある。しかし、PTCA・CABGが今日我が国において、どのような施設で、どのような適応の下に実施されているか、治療成績や予後はどうか、についての全国規模の調査は未だない。PTCA・CABGは心筋虚血の改善にきわめて有効な治療法であるが、安全に実施されるためには高度の医療技術が要求されかつ高額の治療費を要する。従って、これらの治療が適切に選択され実施されることが福祉の向上に不可欠であり、かつ医療費の抑制につながると考えられる。本研究は、PTCA・CABGが今日我が国においてどのように実施されているかを初めて全国規模で調査し、それに基づいて我が国の実状に則した実効性のあるガイドラインを作成しようとするものである。本研究は虚血性心臓病に対する厚生行政のための重要なデータベースを提供するものであり、患者の福祉の向上や厚生行政に大きく貢献しうるものである。
研究方法
本研究は大規模な調査研究であり、主任研究者および分担研究者が共同で実施することとした。これまでに個々の主要な施設におけるPTCA・CABGの適応や治療成績の報告は数多くなされており、またインターベンション学会や日本胸部外科学会による治療件数や治療成績の調査も行われているが、いずれも多様な施設や異なる見解を包含する全国的な調査にはなり得ておらず、学会に所属しない施設は調査対象外となっている。本研究は、全国のPTCA・CABG治療を実施している全施設の中からランダムに調査対象施設を抽出し、今日の我が国におけるPTCA・CABGの実態、予後への影響を調査するものである。
1. PTCA・CABG治療実施施設の実態調査
全国のPTCA・CABG実施施設を対象として以下の項目を調査する。1) PTCA・CABGの治療の年間件数、2) PTCA・ CABG治療に関与する医師数、3) 心臓外科の有無
2. PTCA・CABG受療患者の患者背景と急性期治療成績の調査
全てのPTCA・CABG治療実施施設の中からランダムに抽出した調査対象施設において、患者のプライバシー保護に配慮し、以下の項目を調査する。1)性別・年齢、2)患者の主要な病態:急性心筋梗塞、急性期以外の心筋梗塞、安定期狭心症、不安定狭心症、無症候性心筋虚血など、3) 受療患者に存在するリスク因子(高脂血症、糖尿病、高血圧、喫煙など)、4)PTCA治療について:施行枝数と対象とした病変の狭窄度・手技、CABG治療について:バイパス血管数と使用血管の種類、5) 急性期成績(PTCAについては開通の有無、CABGについては開存の有無)と合併症(死亡、心原性ショック、急性心筋梗塞、緊急冠動脈形成術など)。
3. PTCA・CABG受療患者の予後調査
全ての登録患者について1年(~以上)後に追跡調査を実施し、死亡(その原因)、急性心筋梗塞発症、狭心症、再PTCA・CABG施行の有無を調査する。冠動脈造影検査を再検した症例について、PTCA後再狭窄率、バイパス血管閉塞率を調査する。2.3. の調査を基に急性期治療成績および予後の規定因子を解析する。
4. PTCA受療患者の患者背景・急性期成績・予後の最近の動向に関する予後調査
近年、本邦ではPTCAにおけるステントの使用が急速に一般化しつつあるため、平成9年におけるPTCA・CABG治療の実態調査を施行する施設の中から一部の施設を抽出し、平成11年におけるPTCA受療患者の患者背景、急性期成績および予後について調査する。平成9年と平成11年におけるPTCA受領療患者の患者背景・急性期成績・予後を比較解析する。
5. 内科的治療患者の患者背景と予後調査
PTCA・CABG治療の実態調査を施行する施設の中から一部の施設を抽出し、同施設で冠動に治療を受けた患者間で、内科的治療とPTCA・CABG治療患者間の患者背景・予後を比較解析する。
6. PTCA・CABG治療の選択・実施についてのガイドライン作成
PTCA・CABG治療に関連する7つの学会の代表者により構成するガイドライン作成委員会を設ける。本調査成績に基づいて、治療法の選択・実施および実施施設に関するガイドラインを関連学会が共同で作成する。
7. 倫理面への配慮
本研究は、各調査対象施設の医師がその施設で施行した冠動脈インターベンション治療について調査するものであり、主任研究者や分担研究者が直接患者に関する情報を調査するものではない。また、本研究は、後向き研究であり患者自身の治療に影響を与えることはない。さらに、症例の登録は、施設ごとのPTCAあるいはCABG施行順番位と患者イニシャルで行われており、データ毎の調査票がどの症例のものかはその治療を実施した担当医師のみが把握しており、患者のプライバシーは保護されている。また、データベースにはさらに別の症例コードを入力するためデータベースから患者個人を特定することはできないようになっている。したがって、患者のプライバシーが侵害される可能性は極めて低く、倫理面の配慮を十分に行っている。さらに、今後の追加調査を行う場合には、調査対象施設において患者のプライバシー保護を確実にするため各施設で責任者を定め、倫理委員会を設置し倫理面に対する配慮を行っていただくよう求めることとしている。
結果と考察
研究結果=平成10年度はまず、全国のPTCA・CABG治療実施施設を調査した。全国の内科・循環器科を標榜する病院(8,253施設)を対象に調査用紙を送付し、97%の施設から回答を得た。ただし、日本循環器学会認定循環器専門医研修施設および日本心血管インターベンション学会登録施設からは100%の回答を得た。さらに、CABGに関しては日本胸部外科学会登録施設からも100%の回答を得た。その結果、平成 9年には、全国 1,024施設で PTCA 109,820例、477施設で CABG 17,667例が施行されたことが明らかとなった。
平成11年度には、PTCA受療患者の患者背景・治療成績・予後を明らかにすることを目的に、全 PTCA件数の約10%にあたる10,772件の PTCAを調査することとし、ランダムに 145施設を抽出した。施設の抽出に当たっては、PTCA年間施行件数をもとに分けた上記の5群において、調査対象が各群の総件数の 10%となるように、各群毎に乱数表を用いてランダムサンプリングを行った。ただし、年間 150件以上の群では、1施設につき100件に限って調査することとした。これらの施設で行われたPTCA症例の詳細な調査を遂行中である。現在までに、約80%に相当する8,245件のPTCA施行症例についての患者背景・急性期成績についての調査が終了した。その結果、性別の内訳は男性75%、女性25%であった。年齢の内訳は、40歳以下 1%、41-50歳 8%、51-60歳 20%、61-70歳 36%、71-80歳 28%、80歳以上 6%であった。PTCA施行時の臨床診断名は、急性心筋梗塞(発症後 24時間以内) 25%、急性期以外の心筋梗塞 28%、安定期狭心症36%、不安定狭心症18%、無症候性心筋虚血4%であり、緊急PTCA症例が32%を占めていた。急性期成績に関しては、PTCAの病変成功率は92%であった。しかし、PTCA施行症例の約10%に臨床合併症(心原性ショック、急性心筋梗塞、緊急冠動脈形成術など)が生じており、院内死亡はPTCA施行症例の2%であった。
また、CABG受療患者に関しては、全PTCA件数の約10%にあたる1,905件のCABGを調査することとし、ランダムに62施設を抽出した。これらの施設で行なわれたCABG症例についての調査を遂行中である。現在までに、約87%の調査票の回収が終了しておりそれらの集計を遂行中である。
考察=平成10年度には、全国施設調査を行った。調査対象には、内科および循環器科を標榜するほぼすべての病院が含まれている。従って、調査対象が全国の8,253施設という大規模アンケート調査であり、回収にはかなりの時間と労力・経費を必要としたが、97%という高い回収率を得ることができた。その結果、平成 9年には全国 1,024施設で PTCA 109,820例、477施設で CABG 17,667例が施行されたことが明らかとなった。今回の調査結果において、PTCAとCABGの年間件数の比率はPTCA:CABG=6.4:1であった。これは、アメリカ合衆国の1.1:1(1996年)や、ヨーロッパの1.3:1(1994年)などの報告と比べ、PTCAの比重が大きかった。
平成11年度には、全 PTCA件数の約10%にあたる10,772件の PTCAについての調査を開始した。現在までに約80%のPTCA症例の患者背景・急性期成績についての集計が完了した。その結果、PTCA受療患者は男性に多く、71歳以上が34%を占めていたことが明らかとなった。また、全PTCAの約25%が急性心筋梗塞であり、緊急PTCAが全PTCAの32%を占めることが明らかとなった。急性期成績に関しては、全病変における病変成功率は92%であり高い病変成功率を得ていたが、PTCA施行症例の約10%に何らかの臨床合併症が生じており、PTCAの適応を決定する際には十分な検討が必要であることが示唆された。平成12年度にはPTCAおよびCABGについての予後に関する調査と詳細な解析を継続して行うのに加えて、平成11年におけるPTCAについての調査、内科的治療患者についての調査も検討しており前年度以上の労力と経費を必要とする予定である。
現在まで我が国においてはこのような調査研究はなされておらず、本研究によって日本の冠動脈インターベンション治療実施施設の実態が初めて明らかとなった。 虚血性心臓病の罹患患者数は、高齢化や食生活の欧米化に伴い我が国でも増加の一途をたどり、それに対するPTCA・CABG治療件数も急増している。これらの治療が安全に実施されるためには高度の医療技術が要求され、かつ高額の治療費が必要である。本研究は、PTCA・CABGの我が国における実施状況を、初めて全国規模で調査するものであり、虚血性心臓病に対する厚生行政のための重要なデータベースを提供するものである。
結論
冠動脈インターベンション治療の実施施設や実施の状況、PTCAについての患者背景・急性期成績等、我が国の現状が初めて明らかとなった。PTCA受療患者についての予後調査、CABG受療患者の患者背景・急性期成績・予後調査についての調査を遂行中である。

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