エネルギー消費量の評価法および基準値作成に関する研究 (総括報告書)

文献情報

文献番号
199900853A
報告書区分
総括
研究課題名
エネルギー消費量の評価法および基準値作成に関する研究 (総括報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
田中 宏暁(福岡大学スポーツ科学部 教授)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 慎一(筑波大学体育科学系 助教授)
  • 吉武 裕(国立健康・栄養研究所健康増進部 室長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
16,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病の中でも、糖尿病や肥満の予防や治療においては、長期間の日常生活でのエネルギー消費量とエネルギー摂取量の評価が必須となる。欧米諸国では、エネルギー消費量の測定に国際的なゴールデンスタンダードである二重標識水(DLW)法やメタボリックチャンバー(M C)法が用いられ、エネルギー代謝にかかわるこれまでの仮説の再検討がなされ、特に肥満の予防や治療のための貴重なデータが蓄積されている。DLW法は、実測値と数パーセントの誤差で、長期間(約2週間)無拘束で日常生活のエネルギー消費量を測定できる。一方、MC法は個室との制限はあるものの、さらに精度高く測定できる。このことは、精密な両測定法を用いることによって、長期間のエネルギー消費量と摂取量の両面から正確な検討が可能であるといえよう。
わが国でも、肥満や糖尿病の予防や治療、ならびにこれら疾患を含めた生活習慣病の生活指導のための適正な栄養所要量やエネルギー所要量の基準値作成および一般人の1日の総エネルギー消費量の正確な値の蓄積が急がれている。しかし、エネルギー消費量の測定には、精度が著しく劣る推定法が用いられており、栄養所要量やエネルギー所要量の算定のみならず、肥満者や糖尿病患者の生活指導の現場において支障を来しているのが現状である。
そこで本研究では、DLW法とMC法により一般人の1日の総エネルギー消費量を測定し、その水準を明らかにするとともに、これまでわが国で用いられているエネルギー消費量推定法を両測定法との比較において精度検定を行い、より精度の高い普及用の推定法の開発も行う。
研究方法
1.二重標識水法による一般人の1日の総エネルギー消費量の測定(斉藤) 二重標識水法を用いて青年男子12名の1日の総エネルギー消費量を測定した。
2.簡易エネルギー消費量測定法による1日の総エネルギー消費量の測定およびその精度についての検討(吉武、齋藤)
生活時間調査法(RMR法)、心拍数法および歩数計法により1日の総エネルギー消費量の推定値を行い、これら推定値と二重標識水法による1日の総エネルギー消費量の測定値との比較を行い、これら推定法の精度について検討した。
3.1日のエネルギー消費量の簡易測定方法の開発とその検定(田中、吉武)
1)屋内フロアー楕円コースにおいて、歩行運動時のエネルギー消費量推定法について検討した。
2)メタボリックチャンバーを用いて加速度計による微小運動時のエネルギー消費量推定法について検討した。
結果と考察
1.二重標識水法による一般人の1日の総エネルギー消費量の測定(斉藤)
青年男子の1日の総エネルギー消費量は2971±478kcalであった。 また、 身体活動レベル( Physical Activity Level: PAL )の平均値は1.94±0.32であった。
2.簡易エネルギー消費量測定法による1日の総エネルギー消費量の測定およびその精度についての検討(吉武、齋藤)
二重標識水法による1日の総エネルギー消費量は2971±478 kcal/日であった。一方、 心拍数法、加速度計法および生活時間調査法による1日の総エネルギー消費量推定値はそれぞれ2996±612 kcal/日、2669±488 kcal/日、2705±149 kcal/日であった。 3つのエネルギー消費量推定法の中で加速度計法のみDLW法と有意な正の相関関係が認められた。
3.1日のエネルギー消費量の簡易測定方法の開発とその検定(田中、吉武) 2.4~4.3km/hでの歩行時のEEは、0.5~0.55 kcal/kg・kmであり、Margaria法と同じ値が得られた。歩行時の加速度センサーから推定したEEと実測EEとの間および加速度センサーで算出した微小運動の運動強度レベルとメタボリックチャンバーで測定したEEとの間に高い相関関係が認められた。
考察=ヒューマン・メタボリックチャンバー法および二重標識水法によるヒトのエネルギー消費量測定は国際標準とされている。しかし、これまでわが国において実施されておらず、このことから、わが国で用いられているエネルギー消費量推定法の検討も行われていない。そこで本研究では、DLW法とMC法により一般人の1日の総エネルギー消費量を測定し、その水準を明らかにするとともに、これまでわが国で用いられているエネルギー消費量推定法をDLW法とMC法との比較において精度検定を行い、より精度の高い普及用の推定法の開発についても検討した。
1.二重標識水法による日本人男子の1日の総エネルギー消費量の測定(斉藤)
1)本研究における青年男子の1日の総エネルギー消費量は2971±478kcalであった。この値を第六次改訂日本人の栄養所要量と比較すると、男子当該年齢の食事基準の高いに相当するものであった。また、 身体活動レベル( Physical Activity Level: PAL )の平均値は1.94±0.32であり、これを第六次改訂の生活活動指数からみると1名は低く、1名はやや低く、適度は4名で、残り6名は身体活動が活発なライフスタイルを示していた。
2)測定期間を7日間と14日間の場合に1日の総エネルギー費量に差があるかどうかを検討したが、測定期間による1日の総エネルギー消費量の差は個人のライフスタイルと関係することが分かった。 
2.簡易エネルギー消費量測定法による1日の総エネルギー消費量の測定およびその精度についての検討(吉武、齋藤)
集団のエネルギー消費量の推定には、心拍数法が、個人間の比較には加速度計法が有用であることが明らかにされた。
今後は、心拍数、加速度などの複数の指標を組み合わせることにより、より精度の高い推定法の開発が可能であると考えられた。
3.1日のエネルギー消費量の簡易測定方法の開発とその検定(田中、吉武)
歩行速度4.3km/hまでのEE推定にMargaria法の有用性が認められたが、それを超えると速度に依存してEEも増加しており、使用限界を考慮する必要性が示唆された。加速度センサー法も同様に、歩行速度5.4km/h以上では測定誤差が大きくなる傾向にあり、使用限界が示唆された。また、加速度センサー法は、メタボリックチャンバー内での微小運動および歩行の実測EEを反映しており、低強度の生活活動のEEの推定に適していることが示唆された。
結論
二重標識水法(DLW法)とヒューマン・メタボリックチャンッバー(MC法)による日本人の1日の総エネルギー消費量を測定した。また、DLW法とMC法との比較による心拍数法、加速度計法(加速度センサー法)および生活時間調査法による1日の総エネルギー消費量推定の精度について検討した。その結果、下記のようなことが明らかになった。
1)DLW法を用いて、無拘束下に日本人青年男子12名(25±2歳)の日常生活時の1日の総エネルギー消費量(TEE)を測定した。第六次改訂日本人の栄養所要量と比較すると、男子当該年齢の食事基準の「高い」に相当するものであった。また、TEEの差は個人のライフスタイルと関係することがわかった。
2)DLW法に比べて、心拍数法は同程度に、加速度計法と生活時間調査法は低く推定された。また、3つの推定法の中で加速度計法のみDLW法との間に有意な正の相関関係が認められた。
3)歩行運動時の簡易エネルギー消費量推定法として、Margaria法と加速度センサー法の有用性を確認した。また、日常生活における微小運動時の簡易エネルギー消費量推定法として、加速度センサー法の有用性を確認した。

公開日・更新日

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