国民栄養調査の再構築に関する研究

文献情報

文献番号
199900852A
報告書区分
総括
研究課題名
国民栄養調査の再構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉池 信男(国立健康・栄養研究所成人健康・栄養部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学公衆衛生学教室)
  • 伊達ちぐさ(大阪市立大学医学部公衆衛生学教室)
  • 能勢隆之(鳥取大学医学部公衆衛生学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の国民栄養調査は、歴史的には第二次世界大戦後の食料政策のために創設されたもので、世帯単位の食物消費調査を中心として50年余にわたって実施されてきた。また、栄養改善法の下では、国民の低栄養状態の改善を主たる目的としてきた。1990年以降は、各種血液検査項目、飲酒・喫煙、運動習慣等の質問項目、歩数調査等が追加され、個人別食物摂取調査も開始されたが、生活習慣病の一次予防の観点から、国民の生活習慣および栄養・健康状態を総合的にとらえるためには、今なお十分とは言えない。この点に関して、(1)“行政の調査"という枠組みの中でより良い調査手法および運用方法を検討すること、(2)“行政の調査"ではカバーしきれない部分を、補完的な調査研究(多施設共同研究による定点観測=“ライフスタイルモニタリング")によってデータを収集し、疫学的に記述・分析を行うこと、の2点を本研究の目的とする。
研究方法
(1)食事調査の精度に関する検討:現行の“比例案分法"による食事調査に関して、秤量記録法によるデータと比較することにより、個人別摂取量の推定精度を検討した。また、精度に影響を与える要因について、統計学的な検討を加え、精度向上のための具体的な方法についての考察した。(2)食事調査のためのデータベースの開発:食事調査データを処理し栄養素計算を行うためのコンピュータプログラムを開発した。管理栄養士を対象とした実験を行い、本プログラムがデータの質や作業効率に及ぼす効果を定量的に検討した。すなわち、20世帯分の調査票について、旧来の手作業(A法)およびコンピュータプログラム(B法)を交互に用いてコード化を行い、その作業に時間を実測するとともに、過誤の種類および頻度を分析した。また、保健所等において本プログラムの導入が可能かどうかについて、県民栄養調査等の現場において予備調査を行った。さらに、食品成分・外食・加工食品、料理レシピ、ポーションサイズに関してデータベースの開発を進めた。(3)食事、身体活動などの生活習慣に関する多施設共同疫学調査(“ライフスタイルモニタリング"調査)の実施:北海道、東北、北関東、首都圏、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州の各ブロックから1ないし2集団を選択し、無作為抽出により得られた40-59歳の男女を対象として、24時間思い出し法による食事調査、余暇・労働の定量的身体活動調査、生活習慣および生活習慣病にかかわる知識・態度・行動、および循環器疾患危険因子等に関して、フィールド調査を実施した。その際、研究者と市町村等の保健行政担当者との間で、調査の実施、データ管理、被対象者に対する結果返し等に関して協議を行うとともに、各研究機関における倫理規定を遵守した。また、個々の被対象者に対しては、事前の説明を十分に行い、同意を得るとともに、得られたデータが対象者個人の健康管理に役立てることが出来るように、事後の結果説明あるいは保健指導を行った。(4)国民栄養調査にかかわる情報の調査対象者等への提供方法に関する文献的検討:米国の全国健康・栄養調査ではどのような情報提供がなされ、調査が実施されているかについて具体的な事例を検討した。                
結果と考察
(1) 食事調査方法の精度に関する検討:案分法による推定値から個人別栄養素摂取量を推定すると、秤量法による実測値と強い相関関係(r=0.90~0.98)を示した。しかし、2法の平均値を比較してみると、案分法による推定値は秤量法による実測値に比し、全料理で94kcal、分離した形態で摂取される料理で35kcal、その他の料理で68kcalと
系統的にやや過小評価する傾向を示した。この過小評価について検討を加えると、ごはん由来のものが5割を占めることが明らかになった。「ごはん」の取り扱いについて国民栄養調査必携上は秤量記録が原則になっているにもかかわらず、実際には秤量されていない場合が多いで、この点を改善することが重要であると考えられた。(2) 食事調査のためのデータベースの開発:今回開発したコンピュータプログラムが作業効率にどの程度寄与するものかを検証するための実験では、A法およびB法による作業時間はそれぞれ平均59分、71分であった。また、B法では完全に防ぎ得る過誤(例:食品番号の記入ミス等)の頻度は、A法で0.77箇所/世帯であった。すなわち、国民栄養調査方式による食事データの処理時間は、A法よりもB法で約10分間多く要したが、A法においては過誤が発生する可能性が高く、その後の見直しやコード化された数値のパンチ入力・栄養素計算などの作業がさらに必要であり、それらを含めるとB法のメリットは大きいと考えられた。(3)食事、身体活動などの生活習慣に関する多施設共同疫学調査:厚生科学健康増進調査研究「健康運動習慣等の生活習慣が健康に与える影響についての疫学的研究」(主任研究者:田中平三、平成3年~9年度)における“ライフスタイルモニタリング"を継続し、“後期"断面調査(C-3)を開始した。また、“前期"および“中期"断面調査(C-1、C-2)に関しては、それぞれ約2000名の調査データをデータベース化し、疫学的解析作業を継続中である。解析の結果、健康に関する知識・態度についてのいくつかの指標が、血圧管理にかかわる行動や余暇の身体活動量を規定する重要な因子であることを見出した。また、食事調査から得られたデータを用いて、料理レシピやポーションサイズ等に関するデータベースを開発しているところである。(4) 国民栄養調査にかかわる情報の調査対象者等への提供方法に関する文献的検討:米国の全国健康・栄養調査は、生後2ヶ月以上の施設に入所していない米国人約40,000名を対象として、4台のトレーラーを使用した移動検査センターが全土を巡回することにより調査が行われている。そして、1988~94年の第3回目の全国調査においては、面接調査および検査に対する受診率は、それぞれ86%、78%であった。米国保健省は、インターネットのホームページ(http://www.cdc.gov/nchs/nhanes.htm)上に国民一般や調査対象者に対して、Q&A様式で調査の有用性(例:「全国健康・栄養調査は、アメリカ国民全員の健康の改善にどのように役に立つのですか?」)、対象者選択の方法(例:「私はどうして調査対象者に選ばれたのかしら?」)、個人情報保護(例:「私個人の情報の秘密はきちんと守られるのかしら?」)や、実際の調査・検査内容(3次元のイメージにより、検査室の中を仮想体験できるようになっている)が、非常にわかりやすいかたちで示されている。このような先進的な事例は、わが国の国民栄養調査においても学ぶべきところは大きいと思われた。
結論
21世紀の生活習慣病予防対策のために、国民栄養調査をより有効に活用するためには、調査設計の見直しおよび運用方法等の再検討が必要である。すなわち、標本抽出方法、食事調査方法、身体活動調査方法、行動科学的な視点からの生活習慣評価方法等に関して、学問的、技術的な検討を行うことが必須である。また、実際の運用に関しては、調査協力率、各種調査手法の標準化および調査者の訓練、食事調査データの処理、血液検査等の精度管理等の解決方法を得るためにさらなる検討が必要である。一方、国レベルの疫学調査においては、選択バイアスを小さくするためには、協力率を高める努力が必要となる。そのためには、調査の意義や内容、あるいはデータや血液試料等の管理方法に関して、対象となる国民にわかりやすく説明し、同意と協力を得ることが大切である。この点に関して、米国における全国健康・栄養調査では、インターネットのホームページ上で、見やすくそしてわかりやすく一般向けの情報提供を行っている。このような先進的な事例を参考にし、わが国の国民栄養調査に関する情報提供の
新たな方向を検討する必要があると思われた。

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