若年成人への栄養・食教育の診断・評価の指標に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900850A
報告書区分
総括
研究課題名
若年成人への栄養・食教育の診断・評価の指標に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
武見 ゆかり(女子栄養大学)
研究分担者(所属機関)
  • 丸山千寿子(日本女子大学)
  • 山本妙子(神奈川県立栄養短期大学)
  • 朝倉隆司(東京学芸大学)
  • 吉田亨(群馬大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,550,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
早期からの生活習慣病予防のために、20歳代から40歳代の若年成人への栄養・食教育における診断・評価のための指標の開発を目的とする。初年度は、身体面(栄養状態)、食物摂取面、食行動・食態度の面、ライフスタイルとQOL、生活の自己管理能力の形成といった多側面の個別指標について、各指標間の関連を横断的に検討し、必要性と妥当性を検討した。2年度である今年度は、介入を実施して、縦断的に各指標の必要性と有効性の検討を行うことを目的とする。
研究方法
初年度の結果をふまえ分担班毎に個別指標を修正、共通の総合指標(第1案)を作成した。4事業所で介入を実施し、総合指標(第1案)を用いて評価を行い、総合指標の各側面について、栄養・食教育の評価指標としての必要性と有効性を縦断的に検討した。具体的には、
1)身体面(栄養状態)に焦点を当てた介入:都内A事業所において、身体所見があるが重篤な疾患を有しない20~49歳の男性53名を無作為に2群に配置、個別面接による栄養指導群25名(面接群)と、電子メールを用いた栄養指導群28名(メール群)とした。栄養教育に際して、両群とも同一の印刷媒体を用いた。特にセルフケア行動を高めるために、改善に有効な方法を複数提示し、変容させる行動内容や行動変容の方法を自己選択させるための媒体を新たに作成した。身体測定、血液生化学検査を、指導前、指導開始1ヶ月後、4ヶ月後に行い、栄養・食教育の効果を検討した。質問紙調査(総合指標の項目中心、以下同様)および指導は1ヶ月後、2ヶ月後、4ヶ月後に行った。
2)食行動・食態度の変容に焦点を当てた介入:都内2事業所において、参加型栄養・食教育を実施し、主に食行動・食態度・食スキルの変容を検討した。B事業所では、社内メール等により募集した「健康・栄養セミナー」参加希望者45名を、本人の日程的な希望を考慮し、参加型学習群28名(男性15、女性13)、個別指導群17名(男性8、女性9)の2群に分けた。参加型学習群は、就業時間後50分×3回、自己の食生活へのニーズの確認と学習プログラムの企画への参加、バランスのとれた食事法(主食・主菜・副菜の組合せ、脂質エネルギー比、栄養成分表示等)の学習、生活の改善目標の設定を、小グループで参加者同士の話し合いを重視して実施した。個別指導群には産業医による1回(15分)の面接指導と文書によるフォローで、参加型学習群と同様の情報提供を行った。セミナーの事前、事後、3ヶ月後に身体計測、血液生化学検査、質問紙調査を実施し、診断と評価を行った。3回の調査すべてに回答の得られた参加型学習群21名、個別指導群14名を解析対象とした。C事業所では、定期健康診断結果で軽度所見がみられた20歳代~40歳代に対し、個別に声がけ、及び社内メールによる全員への通知により、参加希望の得られた45名を、本人の日程希望を考慮して、参加型学習群25名(男性20、女性5)、集団指導群20名(男性16、女性4)の2群に分けた。参加型学習群に対しては、就業時間後60分×3回、B事業所での介入と同様のプログラムを実施した。集団指導群には、就業時間後60分×3回、講義と演習形式で参加型学習群と同様の情報提供を行った。セミナーの事前、事後、3ヶ月後に身体計測、質問紙調査を実施し、診断と評価を行った。3回の調査すべてに回答の得られた参加型学習群11名、個別指導群10名を解析対象とした。
3)食物供給と入手面に焦点を当てた介入:神奈川県内D事業所において、「食と栄養のヘルスアップセミナー」(本セミナー2回、フォローアップセミナーが直後、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後の1年間コース。集団指導方式)を企画、3ヶ月後のセミナーまで今年度に実施した。セミナー開催と同時期に質問紙調査、食事調査、並びに身体計測を実施した。今回はセミナー参加者及び社内配送便を利用して情報提供を行った者のうち、継続して調査協力が得られた20歳代から40歳代の男性29名について、食物供給面としての職場給食の利用との関連、並びに食物摂取状況の変化を中心に解析を行った。
4)より早期からの介入の可能性の検討:より早期からの栄養・食教育の可能性と、その評価指標の検討を目的に、C事業所において、1999年度新入社員研修の一部として栄養教育を1コマ(45分)実施し、その効果を検討した。学習内容は、自己の必要エネルギー量の把握、バランスのとれた食事法(主食、主菜、副菜の組合せ)及び職場給食の利用に関する学習、食生活の改善目標の設定である。事前、1ヶ月後、6ヶ月後に質問紙調査を実施、身体面については、介入1ヶ月後の時期に行われた定期健康診断結果を流用した。3回の調査すべてに協力の得られた男性23名、女性9名、計32名を解析対象とした。以上の介入にあたっては、事前に対象事業所内の安全衛生委員会等にて審査を受け、対象者本人からは、必要に応じてインフォームド・コンセントを得て実施した。
結果と考察
1)面接群は体重、BMI、ヘマトクリット値、トリグリセライド濃度が開始時に比べて1ヶ月後に低下がみられ、4ヶ月後にさらにこれらの低下と血糖値の低下およびHDL-コレステロール濃度の増加がみられた。メール群は開始時に比べて1ヶ月後にヘマトクリット値が低下し、4ヶ月後にヘマトクリット値、血漿レプチン濃度、血糖値の低下がみられた。すなわち両群とも指導により、肥満、高脂血症が改善し、糖代謝および脂質代謝改善効果が認められ、面接群に強く認められた。身体状況の変化は、食物摂取状況の変化のみならず、食行動、食態度の変容を伴なっており、栄養表示を利用するなどの社会的あるいは環境的サポートと関連していた。また、精神健康の指標であるGHQ-12がBMIに影響している可能性が明らかになった。従って,個別に指導を行う際には,精神健康をチェックする必要があること,また単に健康習慣の変容のみに重点を置くのではなく,精神健康度、すなわちQOLの改善も含めた取り組みが,より効果的であることが示唆された。また、高栄養状態に対する教育効果判定のために、簡便で有用な身体状況診断指標を明らかにすることを目的に、測定指標の変化量の検討を行った。介入後の経時的変化で平均値の有意な差は得られなかったにもかかわらず、体重変化量やBMI変化量よりも臍部周囲径および臍部周囲径/身長比は、多くの生化学検査項目の変化量との相関を示し、食教育効果判定のための有効性が示唆された。
2)参加型学習群は、個別指導群、集団指導群に比べ、食態度(食生活変容段階、望ましい食行動のセルフエフィカシー(SE)、栄養・食教育への参加意欲)、食スキル(栄養成分表示が上手に利用できる、食生活に問題があるかないかを診断できる、など)で良好な変化を示す者が多く、さらにその変化が3ヶ月後も維持されている者が多かった。食行動、食物摂取面ではすべての群で、良好な方向への変化がみられたが、有意な変化ではなかった。身体面では、B事業所では介入前で肥満の者、総コレステロール高値の者は改善の傾向がみられたが、C事業所ではBMIの変化は少なかった。また、参加型学習群は、家族や同僚への学習内容の伝達、職場給食改善への積極的な関与といった行動がみられた。以上から、参加型学習は、より主体的、積極的に健康づくりや環境づくりに取り組む態度の形成に有効と示唆され、こうした変化をとらえる指標の必要性が確認された。
3)D事業所の社員食堂が提供する給食の利用者は、1日の栄養素等摂取状況において不足の問題は少なかったが、長時間残業に伴う間食や夜食の摂食によるエネルギー量の摂取過剰傾向がみられた。セミナー前と3ヶ月後を比較すると、栄養素等摂取状況では、エネルギー、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミンB1の平均摂取量で有意な減少がみられ、食品群別摂取量では野菜類、果物類が増加した。料理では副菜料理の出現数が増えた。また、食物摂取頻度得点とSE得点,特に朝食摂食のSE得点との間に有意な正相関がみられた。
4)新入社員に対する介入では、学習内容を職場での日常生活に積極的に活用しようとする者は、そうでない者に比べ、介入6ヶ月後の食態度・食行動、食物摂取頻度、GHQ-12が有意に良好で、早期からの栄養・食教育の有効性が確認された。また、関係者(人事、健康管理部門)の栄養・食教育への関心が高まる等、周囲への波及効果を生じた。
結論
4事業所での介入研究を実施し、各指標間の関連が介入前後で縦断的に確認され、教育目標に合わせた効果をとらえるには、多側面からなる評価指標が必要かつ有効であることを確認した。

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