青・壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究

文献情報

文献番号
199900844A
報告書区分
総括
研究課題名
青・壮年者を対象とした生活習慣病予防のための長期介入研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
上島 弘嗣(滋賀医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 飯田稔(大阪府立成人病センター)
  • 岡山明(岩手医科大学)
  • 笠置文善((財)放射線影響研究所)
  • 川村孝(京都大学)
  • 日下幸則(福井医科大学)
  • 児玉和紀(広島大学)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学)
  • 島本和明(札幌医科大学)
  • 中川秀昭(金沢医科大学)
  • 中村正和((財)大阪がん予防検診センター)
  • 中村保幸(滋賀医科大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 馬場園明(九州大学健康科学センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
27,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
(1)一般目的:短期間の生活習慣の是正による循環器疾患の危険因子の改善効果は、「生活習慣病班」のなかで明らかにされた。そこで、次の段階として青壮年者を対象に高血圧、脂質代謝異常、喫煙、多量飲酒、耐糖能異常等の危険因子に対して、生活習慣の改善を目的とした1-5年の長期間にわたる生活指導を集団全体及び個人に実施し、個人のみならず集団全体の循環器疾患予防の危険因子是正方略(High risk strategyとPopulation strategy)を確立すること、及びその長期の改善効果を明らかにすることを目的とした。
(2)個別目的:
1)組織的な生活習慣への介入により、循環器疾患の危険因子の水準および高危険度者の割合の低下を明らかにする。1年から5年の長期間の介入効果を検証する。
2)介入の効果としての高血圧と関連する生活習慣(食塩、カリウム排泄量および摂取量、飲酒量、運動量)、肥満度との変化を明らかにする。
3)介入の効果としての脂質代謝異常(高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症)と関連する生活習慣(食品摂取量、栄養素摂取量)、肥満度との変化を明らかにする。4)介入の効果としてのHbA1cの改善度と関連する生活習慣(食品摂取量、栄養素摂取量、肥満度、運動量)、肥満度との変化を明らかにする。
5)介入群と対照群における総合的な循環器疾患による死亡危険度の低下を健康度評価から明らかにする。
6)高血圧、高コレステロール血症、糖尿病服薬治療者の割合の変化を介入群と対照群で比較する。また、コントロール良好者の割合を介入群と対照群で比較する。
7)意識と態度の変化について、介入群と対照群で比較する。
研究方法
本研究では、青壮年者6000名を対象として1-5年間にわたる長期の生活習慣の是正による危険因子の改善効果を明らかにする。そのため、事業所ごとに介入群と対照群の6対を作り、介入群には個人指導と職域全体への環境改善を含む介入を実施する研究を今年度から開始した。対照群は、従前通りの保健指導とし、我々の開発した教材のみを提供することとした。介入群の生活指導は、最初の6カ月間は2カ月ごとに実施し、その後は希望に応じて支援を行い、対象者に望ましい生活習慣が継続できるように支援する。生活改善のための保健医療従事者と対象者を支援するための教材は、前年度までに教材開発班で開発されたものを使用する。また、初年度には教材改善のための予備的介入研究を地域においても実施した。
対策の評価は、介入群、対照群の両群に対して、介入開始前と1年ごとの悉皆調査の健診成績により、血圧水準、高血圧の有病率、総コレステロール値、高コレステロール血症の有病率、喫煙率、多量飲酒者の割合、耐糖能の改善率、生活習慣調査結果、肥満度、意識調査結果、等を用いて行う。また、初年度と3年次および最終年度には、ランダムサンプルに対する1日分の24時間蓄尿と24時間思いだし法による栄養調査を実施して、栄養摂取状況と食塩摂取状況を評価する。このランダムサンプル数は、調査開始時に合計600名を確保する。
地域・職域における教材改善のための介入小試験は、50名単位の無作為割り付け試験として16カ所で実施した。
結果と考察
(1)初年度・今年度に実施したこと
1) 研究体制づくり、スタッフの養成研修、実施要項等の策定を実施した。実施要項としては、喫煙・栄養・運動対策の集団介入方略を作成した。これは、ワークショップを開催して行った。また、問診票・アンケート票の作成を行った。さらに、血圧測定、血液検査の標準化の方法を定めた。
2)対象集団の募集を行った。22ヶ所の応募があった。その後、研究内容の説明と介入の方法についての研修説明会を実施した。これには、22カ所から39人の参加者があった。この研修参加機関から最終的な応募を行った。
3)最終的には17箇所の応募があり、その中から介入事業所6ヶ所、教材提供事業所6ヶ所(対照事業所)を決定した。現在、介入3360名、対照群4001名、総計7361名が研究に参加している。
4)自動血圧測定計、コンピュータ等の必要機材を購入し、対象事業所に配布した。
5)教材開発のための地域・職域での6ヶ月間の介入研究は、高血圧・耐糖能異常への介入研究として、計画を大幅に上回る16箇所の参加機関を得て終了した。
高血圧の小規模介入試験では、75名の無作為割付比較対照試験を実施し、生活指導により介入群が対照群より最大血圧が2ヶ月で2.7mmHg、4ヶ月で3.7mmHgより大きく低下した。最小血圧も、それぞれ1.9mmHg、2.2mmHgより大きく低下した。
また、軽症耐糖能異常者233名を対象とした無作為割付比較対照試験では、介入群が対照群に比し2ヶ月の時点で2.1mg/dlより大きく低下した。また、空腹時血糖値が10mg/dl以上の低下者の割合は、介入群では12%有意に多かった。体重の減少も介入群が4ヶ月の時点で0.6kgより大きく有意に低下した。
6)初年度、関東地区の参加事業所と当該事業所に関連している検査機関に対して、介入研究の概要説明と標準化の必要性に関する研修を1日に渡り実施した。関西・北陸地区の参加事業所と検査機関については、中央事務局より研究者が出向し個別に研修を実施した。
7)今年度は、参加事業所連絡会を開催し、参加事業所の責任者、実務担当者を交え、研究参加の意欲向上に務めた。
8)喫煙対策、栄養改善、身体活動の促進、等の集団への対策(Population strategy)のマニュアルを完成させた。このマニュアルに従い、喫煙対策、栄養改善、身体活動促進、等に関する現状の環境評価、集団全体への対策の提言と実践に取り組むこととした。現在、介入4事業所の評価を、一部の項目を除き終えた。また、分煙対策については、既に提言を出し改善が実施されている。
9)集団の塩分摂取量の変化を把握する目的で、スポット尿による食塩、カリウムの排泄量
の推定精度を検討した。その結果、スポット尿によるクレアチニン当たりのNa,K濃度より、集団の1日当たりのNa,K排泄量が把握できることを明らかにした。この検討に基づき、集団の食塩摂取量とカリウム摂取量の推移を、スポット尿によるNa,K排泄推定値から行う予定である。
10)本年度までにベースライン調査が終了したのは、介入群3箇所、対照群1箇所である。
介入はすでに2箇所で実施中である。順次、次年度中に12箇所全てのベースラインデータの収集と介入を開始する予定である。
(2)倫理面への配慮
対照群には教育教材を提供し、従来からの標準的な生活指導をその事業所の判断で実施する。研究計画は、滋賀医科大学の倫理委員会の審査を受け、承認を得た。研究に参加する対象事業所と守秘契約を締結することとした。個人の保健指導については、事前に書面によるインフォームド・コンセントを得た者のみを対象にする。プライバシー保護のため全ての成績はIDを用いて処理することとした。本研究に従事する研究者・研究補助員には、個人の秘密を保護するための研修を実施した。
血液標本は、一部の小規模介入研究(耐糖能)のもの以外は、12事業所7361名のものは保存していない。また、耐糖能介入研究ではHbA1cを測定する予定である。
(3)考察
生活習慣に対する介入研究は、多くの研究者と実務者が協議し研究計画に賛同することが第一である。薬物治療に関する介入研究でもそうであるが、介入研究では参加する対象者が計画通り募集できないことがよくある。それを避けるためには、参加する研究者、実務者、対象者が研究を理解し参加できるものでなくてはならない。この点に配慮して、研究計画はワークショップや研修会を企画し、参加者と研究者の理解が得られるようにした。最終的には、介入研究群6箇所,対照事業所群6箇所、総計7361名の参加を得ることができた。
これらの事業所従業員を対象として、high risk strategyとpopulation strategyの二つの方略により、循環器疾患の危険因子の低減対策に取り組んでいる。Population strategyについては、わが国では、現在まで、評価を目的とした共同研究は他になく、その具体的な方略も含めはじめての経験となった。したがって、方略を作りながらの研究遂行とならざるを得ない部分がある。
個人単位では無作為割付が可能であるが、事業所単位ではそれが困難である。本研究でも、実際に無作為割付は困難であり、事業所の希望と研究班の希望をかなえる形で、6対6に振り分けた。したがって、ベースラインデータである血圧値や喫煙率は、必ずしも同じ値にはならないので、解析の工夫が要り、またその結果の解釈にはその点を考慮する必要がある。
結論
我が国では、生活習慣の改善効果を明らかにするための大規模な計画的介入研究としての無作為割付比較対照試験は、過去、「生活習慣病班」(班長上島)で実施されたものがある。この成果を受けて、本研究では、個人への対策の効果のみではなく、集団全体の対策の効果を検証することを目的として、より長期の大規模共同研究を開始した。現在、介入事業所6箇所、対照事業所6箇所、総計7361名の参加を得て介入研究を実施し、事業所ぐるみの、喫煙対策、栄養改善、身体活動対策、等を実施し、循環器疾患の危険因子の改善効果を立証する比較対照試験となっている。わが国の多くの介入研究が対象者の募集で失敗しているが、本研究では最初の難関を突破し、high risk strategyとpopulation strategyの両方を取り入れたわが国初の研究が立ち上がった。

公開日・更新日

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