高齢期等居住移動者の保健等ニーズと地域保健医療福祉の供給に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900840A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢期等居住移動者の保健等ニーズと地域保健医療福祉の供給に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
豊川 裕之(社団法人エイジング総合研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 中原俊隆(京都大学医学部公衆衛生学教室教授)
  • 渡辺武(社団法人エイジング総合研究センター委嘱研究員)
  • 武村真治(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
  • 佐々佳子(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
  • 吉田成良(社団法人エイジング総合研究センター理事)
  • 薩摩林康彦(社団法人エイジング総合研究センター)
  • 東川薫(社団法人エイジング総合研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の保健福祉問題ではゴールド・プラン及び介護保険サービス等に見られるように、地域社会を基盤とする保健福祉供給体制づくりが益々重要視されている。また一方、住民側も地域保健福祉に対する住民側の関心を急速に高めており、高齢者の居住移動や居住地選択に、地域の医療環境や保健福祉サービスの状況が係わっているので、その度合いを明らかにすることを意図した。具体的には、高齢者の居住行動の実態調査を実施して、高齢社会における、①居住行動の頻度・形態・要因、②この要因に関与する保健・医療・福祉ニーズの実態、③ 地域保健・医療・福祉の供給状況などを明らかにすることを意図した。この実態調査を通して、今後に求められる「高齢者対策に必要な地域保健医療福祉供給」に資することを目的とする。
研究方法
平成10年4月1日~平成11年3月31日(平成10年度)に江戸川区において転出、転入、及び区内移動した高齢者を対象とし、質問票を郵送した。調査項目は以下に示す18項目:①性、年齢、②転居前・後の住所、③前住地居住期間、④配偶関係、⑤子どもの数、⑥就業状況・経験、⑦生活費の源、⑧転居前・後の世帯主、⑨転居前・後の家族構成、近居状況、⑩転居前・後の住居、⑪健康状態、⑫江戸川区の高齢者施策の周知度、利用状況、⑬転居前・後の交流の変化、⑭転居前・後の介護者・支援者の変化、⑮転居前・後の通院、福祉サービス利用、学習、活動の変化、⑯疾病、⑰転居理由、⑱転居の自主的・依存的の各項目である。
結果と考察
高齢者の居住移動に係わる要因すなわち居住移動を促す要因及び居住移動によって生ずる環境変動要因について、単純集計と多変量解析を行った。ただし、単純集計(クロス集計)は膨大な図表になるので資料篇に収載し、本報告は多変量解析の結果を中心とする。
数量化理論Ⅲ類によると、満足感の充足に係わっているのは、①定常就業(定職・常勤に限らないがパートであれ、非常勤ながらも職についていること)、②活動参加(趣味・学習活動に参加すること、及び福祉サービスを利用すること)、③自宅に住む(施設ではなく)、④健康状態が良い、⑤介護人がいる(特に、肉親・知人・他人の区別なく)、及び⑥福祉サービスを利用していない、の順番である。逆に、不満足感の原因となっているのは、①施設に住み、②健康状態が悪く、③福祉サービスを利用しており、④介護人が居ない、の順であり、上記の条件を補足している。しかし、今調査を通して分かったことは、意外に思われるのだが、配偶者の有無、生活費の源、家族構成などの条件は満足感に関与していないことである。
また、判別分析によると、高齢者の孤独感の判別式は、
孤独感に関する判別式 = 0.80*配偶者有無 + 0.35*移転後住居形態
+ 0.47*介護人有無 - 1.48*不安感有無 + 1.38*満足感有無
但し、配偶者有無:有=1、無=0
移転後住居形態:自宅=1、借家=2、施設=3
介護人有無:有=1、無=2
不安感有無:有=1、無=2
満足感有無:有=1、無=2
である。判別率は70%であり、高くはないが、今後はさらに改善して政策決定に役立つようにしたい。
上記の式の係数に注目すると、最も強く孤独感に寄与している(係数が最大)のは「不安感の有無」であり、不安であれば孤独感は増大する。次いで「満足感の有無」である。「不安感の有無」とは「身体が弱って日常的な介護が必要になった時の不安感がない」ことであり、不安感があれば孤独感は増大する。次に、此処でも配偶者がいることが孤独感に寄与している。常識に反することのようにみえるが、これは新しい発見かも知れない。次年度にも追跡してみたいことである。次いで、「介護人の有無」(介護人のいないことが孤独感に寄与している)、「移転後の住居形態」(施設より自宅が孤独感を削減する)の順番になっている。
なお、これらの高齢者のニーズを充足することが必ずしも行政だけの努力では出来るものではなく、当事者の自己実現(Self-Actualization)の意欲と地域社会の協力がなければならないが、そのための行政側の環境づくり施策が望まれる。そして、地域自治体では、今後増大する高齢居住移動に伴うサービス供給(量及び内容)に対応した在り方が課題となる。
結論
多数にのぼる要因を全体的に把握するために、多変量解析の手法を用いて、それらの要因間の複雑な関係または因果関係を明らかにした。
要約すると次のようになる。高齢者の居住移動に関する地域社会的要因の中で、直接的に行政施策によって改善が期待されるものとして、①定常就業(定職・常勤に限らないがパートであれ、非常勤ながらも職についていること)の増加、②活動参加(趣味・学習活動に参加すること、及び福祉サービスを利用すること)の便宜を図る。③現在のような形態の施設ではなく、もっとQOLを高める住居を提供する、④介護保険制度の充実が挙げられる。また、当事者の改善と努力が期待されるものとしては、⑤健康状態が良いことがある。さらに、行政側の改善と同時に当事者側の意識改革も要求されるものとして、⑥福祉サービスを利用する・しないが挙げられる。これは「利用する」が満足感を減弱して孤独感を増強する要因になっているので、福祉サービスの質がQOLを高めるものに改善される必要がある。すなわち、高齢者のQOLを高めると同時に、高齢者の自己実現への意欲を高めるものでなければならない。
本研究においては、今年度医療環境等には恵まれないが、保健・福祉サービスには積極的な地域(自治体)での調査を基に研究したものであり、次年度は、医療環境等に多様な格差のある広域な地域自治体(横浜市)での調査研究を行うことで、更なる究明を行うものである。そして、介護保険制度実施の下での保健福祉サービス供給の格差等による高齢者移動形態と、それに伴い必要とする保健・福祉サービスの総量等について究明する。

公開日・更新日

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