地域保健分野における保健婦の新たな活動方法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900837A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健分野における保健婦の新たな活動方法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山田 和子(国立公衆衛生院公衆衛生看護学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険の実施、「健康日本21」の計画、老人保健事業4次計画など地域保健分野が大きく変化する中、公衆衛生活動の新たな展開が求められ、これまでの保健婦活動を整理し、再構築していくことが求められている。しかし、これまで保健婦活動は、母子保健から老人までと範囲が広く、かつ、個別的な対応から地域づくり、施策化と多様な活動であるため、活動方法論が明確になりにくい状況であった。そこで、本研究では保健婦の行う公衆衛生活動の展開方法、展開に用いたスキル等明らかにして活動方法論としてまとめることを目的に研究を実施する。
研究方法
事例検討とワークショップを実施し、その結果を、学識経験者、研究班員により帰納的に整理し、保健婦による公衆衛生活動の展開方法、展開に用いたスキル等を整理し、保健婦が行う公衆衛生活動の要素を明らかにする。①事例検討は、保健婦の活動の特徴が現れている「個別支援から地域全体へ取り組みが発展した事例」あるいは「地域のニーズを明らかにし予防活動に発展した事例」10事例について行った。保健婦と医師、精神保健福祉士、心理職、学識経験者等で4班を構成し、人数は10人~20人で行った。検討に用いた分析枠組みは、平成10年度厚生科学研究費補助金健康科学総合研究事業「これからの地域保健福祉のあり方と保健婦の活動方法に関する研究(主任研究者 湯澤布矢子)」で開発した「問題・課題の気づき」「実態把握」「共有・調整の場の設定」「事業化・施策化」の4段階の展開方法を使用した。②「保健婦活動の展開の方法とスキル」をテーマに、多職種の参加によりワークショップを行った。
結果と考察
保健婦の活動の展開方法は、地域が異なっていてもかなり類似しており、湯澤班の分析枠組みの妥当性は概ね確認できた。しかし、湯澤班では「問題・課題の気づき」「実態把握」「共有・調整の場の設定」「事業化・施策化」の4段階であったが、本研究では「方向づけ・優先順位の決定」、「事業・施策の維持・発展」の2段階を追加し、6段階とし、サイクルとなって活動が展開されていることが明らかにされた。さらに、「問題・課題の気づき」は保健婦が直接かかわった個別の事例だけでなく、関係機関からのヒヤリング、相談などからでも展開が可能であった。保健婦が展開に用いたスキルとして、住民・関係者のニーズを引き出す、住民・関係者の意欲を引き出すあるいは意欲を継続させるコミュニケーションスキルや、地域の施策を把握し必要な事業を見極める、キーパーソンとなる住民・関係者をみつけだす、個人ニーズと地域ニーズを関連させる分析・総合スキル、住民・関係者との調整をはかる、先を見通して方向づけをするコミュニティマネージメントスキルなどであった。保健婦の活動の基盤は、地方自治体に勤務する「行政職」と保健の「専門職」としての2つのアイデンティティに加え、「生活者」のアイデンティティもあり、この三側面を統合して、住民のニーズを医療、福祉、保健等の領域を分割するのでなく、統合して「生活の問題」として状況を分析していることが明らかになった。さらに、活動の展開においては、保健婦だけで実施するのでなく、関係機関あるいは住民と共に連携して行っている。展開の方向は単に住民個人への支援におわるのでなく、地域の「しくみづくり」である事業化あるいは施策化を目指し、予防的な働きかけを中心に行っている。事例の提供者は、保健婦の経験年数が20年以上の中堅者が多く、担当している地域も都市部が多かった。今後の課題として、①個別事例への活動と地域活動との関連のさせ方、②都市部と郡部での展開方法の違い、③新任保健婦あるいは経験年数の短
い保健婦の展開方法について検討する必要が明らかになった。
結論
保健婦だけでなく多職種による事例検討、ワークショップを実施し、その結果を帰納的に整理し、保健婦の活動の展開方法、展開に用いたスキル、活動の特徴を明らかにした。しかし、保健婦の行う公衆衛生活動は、広範囲で、多様な活動であるだけに、様々な活動事例を検討していくことが必要である。そこで平成12年度は、平成11年度の課題も含め新しい事例を追加し、事例検討を継続し、展開に用いたスキル等を技法として整理し、活動方法論としてまとめる予定である。本研究の成果は、①保健婦のみならず公衆衛生従事者が公衆衛生活動を推進する上で参考になり、②公衆衛生の専門性が高められ、③保健婦と他職種の活動方法の違いを明確にし、④今後の保健婦の基礎教育、現任教育のあり方について提言ができると考える。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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