健康文化のまちづくり推進に関する政策科学的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900832A
報告書区分
総括
研究課題名
健康文化のまちづくり推進に関する政策科学的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
山根 洋右(島根医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 杉村 厳(旭川厚生病院)
  • 林 雅人(平鹿総合病院)
  • 丸地信弘(信州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本のコミュニティは、極めて多様化し地域コミュニティの健康福祉ニーズも複雑化している。本研究では、より効果的なヘルスプロモーションをコミュニティレベルで推進するため、健康文化のまちづくりのための政策に関する方法論と理論を体系的に、且つ実証的に明らかにすることを目的とした。国外、国内における健康都市、健康なまちづくり活動の動向、成果、課題を文献レビ ュー、インタビュー、フィールド調査などで明らかにした。健康なまちづくりの活動は、多くの成果と経験を蓄積しつつ、同時に実践課題、研究課題、政策課題を明らかにしている。また、健康なまちづくりプロジェクトは、ヘルスプロモーションやHealth for All in the 21st Centuryの潮流と合流しつつ、コミュニティ発展Community Development、コミュニティ活動Community Actionなどコミュニティにむけて収斂しつつあり、21世紀に向けての多くのコミュニティ科学の課題に対し、学際的な研究が緊要な課題となっていることを本研究において明らかにした。
研究方法
最近の健康都市および健康コミュニティに関する文献を検討し、健康都市・コミュニティプロジェクトの現状、課題など国際的な動向を整理分析した。また、2000年2月JICA研修「高齢社会と健康なまちづくり」コース参加者へのインタビュー調査を行った。出雲市をJICAスタッフ、10カ国から研修生が訪問し、大学スタッフ、福祉・医療・行政・保健関係スタッフ、市民グループ、ボランティア、高齢者グループと交流を行った。研修を行ったブラジル、インドネシア、パナマ、フィリピン、タイ、ウルグアイからの参加者10名のカントリーレポート及びインタビューにより、それぞれの国における健康な地域づくりの課題と現状を高齢者対策に焦点を当て調査を行った。
また、国内で1960年代から永年にわたり、地域の健康対策を継続している北海道鷹栖町、秋田県増田町、長野県松本市、島根県出雲市を対象に、健康なまちづくりの現状を調査分析した。北海道鷹栖町では、地域農業発展とライフスタイルを、秋田県増田町では、脳卒中対策から高齢者ケアシステムへの発展を、長野県松本市では、健康なまちづくりのパラダイムチェンジモデルの開発を、島根県出雲市では、健康なまちづくりの市民参画、ベンチマーキングによるヘルスプラン21を焦点として調査を行った。
結果と考察
今回の健康なまちづくりフィールド調査では、多くの成果が明らかにされた。すなわち、活動や政策の評価を長い目で弾力的に包括的に行うこと、硬直化した住民自治組織や活動組織を解消し、しなやかで多様な市民主体の社会的ネットワークの力量を高めること、コミュニティの生活像、すなわち経済、環境、健康、医療、福祉、景観、産業、建築、道路、教育、コミュニティ心理、政策、文化などを絶えず分析すること、行政部局間のセクショナリズムを解消し、横断的で包括的なサービス計画を開発すること、住民によるシステムへの介入と公正さを絶えず保障すること、市民の生活上の変化とニーズを絶えず把握し、政策や計画や活動の継続的評価を行い、そのモニタリングシステムを作りあげること、サービス提供者の力量形成と質の保障を図ることなどである。
本研究調査により対象とした市町村の取り組みにおいて、以下のような具体的成果を生み出した。
1.健康福祉行政・学術協力体制の誕生:市町村の健康福祉部局、教育委員会など行政と大学、短大など学術機関と住民との共同研究会が設置され、健康なまちづくりの科学的共同作業が進められ好評である。(例:コミュニティケア研究会、在宅ケア研究会など)
2.健康福祉行政の効果的経営と行政評価の試み:健康福祉行政の効果的展開、経営、評価の重要性が認識され、例えば国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO9000)による健康福祉サービスの品質保証システムの導入の検討が始まった。
3.介護保険制度を核とする重層的住民ネットワーク活動の展開:自立判定の高齢者に対する住民ボランティアデイサービスなどが健康福祉のまちづくりの視点から、重層的にネットワーク化された。(JAなどのふれあいデイサービス、縁側デイサービスなど)
さらに、政策実践課題としては、多様な活動モデルの形成、住民の政策参加のプロセスと成果分析、専門職集団と住民との協働の在り方、絶えず変貌する多様な社会ニーズへの対応と問題解決の方法、市民の自立性の保障と市民性の成熟、コミュニティ発展への住民参画、住民グループ・関係スタッフ・施設機関のネットワーキング、ボランティア活動の成熟化、民間活動と公的活動の融合、専門的スタッフの資格向、関係者の協議の重視、教育研修の重視、地域特性の把握とまちづくりへの適用などが明らかとなった。
また、研究課題として、参加行動研究と政策分析、コミュニティ・ネットワーキング、コミュニティのダイナミクス、住民と関係スタッフの力量形成、市民の健康福祉政策形成事例の豊富化、広範な地域活動能力の養成、有効な社会的資源の開発、健全なプロジェクト展開、行政部門間協力とセクショナリズムの克服などが、健康なまちづくりの学際的研究方法論の確立とともに緊要な課題であることが明らかにされた。
結論
国外、国内における健康なまちづくりの動向、課題を文献レビュー、インタビュー、フィールド調査で明らかにした。健康なまちづくりは多くの成果と経験を蓄積しつつ一方、同時に健康なまちづくりプロジェクトが収斂しつつあるコミュニティ発展、コミュニティ活動などの課題に対する学際的な研究が緊要な課題となっている。

公開日・更新日

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