高齢者の転倒予防活動事業の実態と評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900830A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の転倒予防活動事業の実態と評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
新野 直明(国立長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 安村誠司(山形大学)
  • 芳賀博(東北文化学園大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の転倒予防のための保健活動事業実施状況とその内容、さらには有効性について検討することを目的に、新潟県中魚沼郡中里村、静岡県浜松市村櫛町の2地域における転倒予防活動の実態を調べた。また、転倒予防活動に関する全国調査をおこなうための調査票を作成し、予備調査を実施した。
研究方法
転倒予防活動の実態調査としては、新潟県中魚沼郡中里村(平成12年1月末現在総人口6567人、男性3286人、女性3281人、老年人口割合25.5%)、および、静岡県浜松市村櫛町(平成10年4月1日時点総人口3123人、老年人口割合23.0%)において、自治体、保健所などを中心としてこれまでにおこなわれてきた活動について、その具体的な内容を調べた。
高齢者転倒予防活動事業に関する全国調査に関しては、初年度は、調査票の作成と十数カ所での予備調査をおこなった。調査票は、市町村の特性(65歳以上人口、スタッフ数など)、転倒予防に対する担当者の認識(転倒予防への興味・関心の程度、など)、転倒予防事業の実施状況(実施の有無、携わる者の資格と人数、事業の内容、実施期間、実施頻度、実施効果の評価の有無、など)、高齢者を対象とする健診・調査活動に含まれる調査事項、結果の住民へのフィードバックの有無とその方法、「閉じこもり予防」および「生活機能低下予防」に関する保健事業の実施の有無、などについて尋ねるものである。この調査票を用い、北海道、宮城県、山形県、長野県、静岡県、愛知県、高知県、沖縄県の計18市町村を対象として、予備調査をおこなった。
結果と考察
中里村における転倒・骨折予防のための保健(介入)活動は、1992年(平成4年)より開始された。1996年までの4年間に高齢者健康基礎調査をはじめとする各種の調査活動が計9回行われた。そして、これらの調査結果に基づく寝たきり、転倒予防関連の健康教育が計9種類実施された。1997年以降の転倒・骨折および一般的健康に関連する調査は計4回行われた。寝たきり・転倒予防関連の健康教育は、1997年、1999年に計2回行われた。さらに、1993年(平成5年)からは、骨粗鬆症関連の検診及び調査が実施され、この検診結果にもとづく健康教育が実施された。また、骨粗鬆症予防のための運動・栄養のあり方についての集中的な研修(中央研修)も企画され、中央研修参加者がリーダーとなって行う地区ごとのグループ研修も自主的に実施された。予防教室参加者に対する体力測定、食事調査も定期的に実施された。
浜松市村櫛町における転倒予防活動は、転倒に関する検診・調査の実施(村櫛町の65歳以上在宅高齢者を対象に、転倒とその関連要因について、面接聞き取りを中心とした調査が、平成8年から10年にかけて検診会場においておこなわれた)、検診調査時の個人指導(検診調査時、転倒に対する意識を高めるための面接指導が、医師と保健婦により実施された)、「転ばぬ先の杖通信」配布(調査結果の報告と転倒予防に関する一般的な知識の普及を目的に、年数回「転ばぬ先の杖通信」が作成され、村櫛町へ全戸配布された)、老人クラブにおける健康教育(老人クラブにおいて、検診調査の結果報告と転ばないための注意点に関するグループ討論などがおこなわれた)、その他(健康イベント時に転倒予防コーナーを設置する、新聞や雑誌で活動の報告する、などの活動がおこなわれた)、がおこなわれた。
いずれの地域も、これまで報告されているとおり、高齢者の転倒予防に力を入れている地域であることは明らかと思われた。活動の効果については、中里村では、転倒割合の減少傾向が認められた。また、村櫛町では、地域への普及という点、および、住民の啓蒙という点で、一定の成果を上げていると考えられた。ただし、転倒減少の効果について、性、年齢、健康状態など、転倒と関連する要因を配慮した厳密な分析はなされていない。来年度以降の課題であろう。
高齢者転倒予防活動事業に関する予備調査では、調査票における用語の使い方、選択肢などに問題点が指摘され、見直しなどいくつかの改善が必要と考えられた。18市区町村における結果をみると、他の保健事業と比較した場合の「高齢者の転倒予防を目的とした保健事業」の重要性については、76%が「非常に重要である」あるいは「重要である」と答えた。また、8割強の市町村が高齢者の転倒予防に関心をもっていた。さらに、「高齢者の転倒予防に関する研究活動」を実施したいと考えている市町村は64%にみられた。しかし、この1年間に「転倒予防を目的とした保健事業」を実施していると回答したのは、2つの町(11.8%)のみであった。また、転倒の危険要因と考えられている「視力」「パーキンソン病」「歩行速度」「白内障・緑内障」「骨折歴」などの項目を健診などに取り入れている市町村はまだ少なく、特に「転倒経験」そのものを調査している市町村は皆無であった。限られた地域についての結果ではあるが、転倒予防活動の実施状況に関しては、改善の余地があると考えられた。なお、この問題に関しては、来年度に予定している全国調査により、さらに確かな結果が得られることが期待される。
結論
高齢者の転倒予防のための保健活動事業実施状況とその内容、さらには有効性について検討することを目的に、新潟県中魚沼郡中里村、静岡県浜松市村櫛町の2地域における転倒予防活動の実態を調べた。また、転倒予防活動に関する全国調査をおこなうための調査票を作成し、予備調査を実施した。その結果、2地域では活発な予防活動が実施され、住民への浸透度も高く、転倒減少にも効果のある可能性が示された。予備調査では調査票の改善すべき点が指摘された。また、今年度調査した地域では、転倒予防活動に対する関心は高いが、実践しているところは少ないことが示された。

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