健康増進を目的とした実践的生活改善プログラムの開発および疫学的評価(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900826A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進を目的とした実践的生活改善プログラムの開発および疫学的評価(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
児玉 和紀(放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 能勢隆之(鳥取大学医学部)
  • 佐々木英夫(広島原爆障害対策協議会健康管理増進センター)
  • 種田行男(明治生命事業団体力医学研究所)
  • 竹島伸生(名古屋市立大学自然科学研究教育センター)
  • 萱場一則(大和町農村検診センター)
  • 谷原真一(自治医科大学)
  • 笠置文善((財)放射線影響研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
壮年期から老年期にかけての運動の実践と生活習慣の改善は老年期の活動能力の向上と生活習慣病の予防に役立つと考えられている。そこで、壮年期までの運動の実践および活動的な生活習慣が老年期における社会活動能力などに及ぼす影響を疫学的に評価し、高齢期の自立した生活能力を維持する上で必要な運動の強さと頻度を明らかにするとともに、簡便でかつ実践的な生活習慣改善プログラムを開発することを目的として本研究を企画した。
研究方法
1) 長期縦断追跡集団における生活習慣病ならびに老化予防に関する疫学研究
原爆被爆者集団についてPhysical Activity Index(PAI)の情報を用いて26年間の全死因死亡率ならびに老人性痴呆有病率を解析することにより、身体活動の生活習慣病予防効果について検討を加えた。
2) 身体活動度と循環器疾患危険因子との関連に関する研究
新潟県Y町の老健法基本健康診査受診者を対象にPAI の情報を収集し、PAIレベルと5年間の検診成績の変化との関連を検討した。
3) 農村住民の追跡による生活習慣病抑制因子の解明に関する研究
栃木県M町住民を対象に生活習慣病発生を捉える機会としての老健法基本健康診査の特質を悉皆調査の結果と比較検討した。
4) 健康増進センターコホートにおける運動の意義に関する疫学的研究
広島原対協健康増進センター受診者のコホートを形成し、ベースライン検査時の最大酸素摂取量とその後の高血圧罹患との関係について検討した。
5) 運動指導による地域の中高年住民の健康および体力向上に関する研究
米子市の健康教室に参加した地域住民を対象に運動処方し、運動の継続による身体ならびに心の健康および体力への効果を調べた。各個人に2週間毎に実技指導や健康教育を行い、5か月後における1日の歩数の増減と生活体力ならびに社会的機能との関連を調べた。
6) 高齢者のための運動習慣の形成・継続プログラムの開発
神奈川県K市の地域在宅高齢者を対象に運動実践に対する動機の強化、負担の軽減および運動継続への自信の向上を意図した5ヶ月間の運動習慣改善プログラムを実施し、生活体力や運動エネルギー消費量の改善の有無について、対照者と比較検討した。
7) 活動能力向上を目的とした身体運動の具体的方法に関する研究
運動習慣を有さない高齢者を対象に運動プログラムを取り入れ、1年後の運動の継続状態と身体機能年齢を測定した。また、筋力作りのための簡便な運動方法の開発も試みた。
8) 老化指標および活動能力指標の作成
地域住民へのアンケート調査により、日常活動ならびに社会活動に関する項目の調査を行い、生活活動を反映した因子を把握するとともに、指標化を試みた。
結果と考察
1)長期縦断追跡集団における生活習慣病ならびに老化予防に関する疫学研究
身体活動不足が心・血管疾患の重要な危険因子であることは欧米の疫学研究では既に明らかにされている。ただその結果がそのまま日本人にあてはまるかどうかには疑問が残る。そこで身体活動指標(PAI)のレベル、性、年齢、教育歴、喫煙、飲酒、血圧、糖尿病既往などを説明変数、26年間の全死因死亡を目的変数として解析を行った。その結果、睡眠を除いたPAIでは全死因死亡とU字型の関連を示した。つまり、身体活動が低すぎても高すぎてもその後の死亡率が高くなるといった結果が得られた。このことは生活習慣病予防のための身体活動にも適切なレベルのあることを意味しており、今後の具体的な対策樹立に大いに寄与できる知見と考えられる。なお、身体活動以外にも喫煙、多量飲酒、血圧上昇などがいずれも死亡のリスクを増しており、やはり総合的な対処の必要性があることが確認された。 老人性痴呆と身体活動については関連性が認められなかった。
2)身体活動度と循環器疾患危険因子の変化との関連に関する研究
PAIレベルと5年間の検診成績の変化との関連を特に循環器疾患リスクファクターの観点から検討した。その結果、仕事時PAIレベルが高いほど5年間にBMIが低下する傾向がみられた。また、PAIのレベルが高いほど5年間に総コレステロールレベルが低下する傾向が認められた。運動習慣を有すと循環器疾患リスクファクターレベルに改善が見られることがBMIと総コレステロールに認められたことは、生活習慣病予防の観点から重要な所見と考えられる。
3)農村住民の追跡による生活習慣病抑制因子の解明に関する研究
基本健診受診者において女性の受診者が男性の約3倍であった。男性の60~69歳でも受診者が多かった。悉皆調査で得られた情報と基本診査で得られた情報の一致度について検討した結果、高血圧と肝臓病で一致度がやや低く、いずれも悉皆調査より基本健康診査で把握率が低い傾向にあった。また、転居や寝たきりになった場合には基本健康診査を受診せず、基本健康診査情報は有効な追跡手段にはなり得ない。死亡や転居の情報を基本健康診査データに統合する方策を開発することが、生活習慣病抑制因子の解明には不可欠と思われた。
4)健康増進センターコホートにおける運動の意義に関する疫学的研究
体力指標のなかで閉眼片足立ちと最大酸素摂取量と高血圧罹患との関係をみたが、閉眼片足立ち高値群で高血圧罹患が低値群に比して有意に低いとの傾向はみられなかった。最大酸素摂取量については、高値群で高血圧罹患が低値群に比して有意に低い傾向がみられた。心肺持久力を維持・向上させることによって、高血圧の罹患が予防できる可能性が示唆された。
5)運動指導による地域の中高年住民の健康および体力向上に関する研究
運動指導5ヶ月後に歩数の増加した高齢者では生活体力が有意に改善しており、特に起居能力や身辺作業において改善が著明であった。歩数の増加は平均一日2000歩程度とそれほど多くないが、生活体力において有意な改善が見られたことは注目に値する。また歩数増加群では生活の満足度および社会への関心がより高まっていることも判明し、歩行といった軽い運動によっても心理的・社会的機能の改善が見られることが判明した。
6)高齢者のための運動習慣の形成・継続プログラムの開発
介入前後における生活体力の変化を検討した結果、介入群の生活体力(起居能力、歩行能力、手腕作業能力)および体力要素(筋力、持久力、柔軟性)に明らかに改善が認められた。本プログラムで指導した歩行、柔軟体操および筋力強化運動は体力要素を高め、このことが各生活体力の改善に寄与したものと推察された。
7)活動能力向上を目的とした身体運動の具体的方法に関する研究
運動の継続状況ならびに1年後の身体機能年齢を測定し、トレーニング効果の残存性について調査した。その結果、被検者の身体機能体力は1年後においても維持されていたが、全身持久性、筋力、柔軟性、平衡性などは有意に低下していた。ホームベースドエクササイズのプログラムとしては筋力作りを中心にする必要性が判明した。
8)老化指標および活動能力指標の作成
高齢者の生活活動度を評価する簡便な指標の作成は、老化防止や高齢者の健康増進を集団で行うに際して極めて重要となる。しかしながら、このような指標は有用なものが開発されていないのが現状である。そこで生活活動度を計る簡便な指標作成を目的として、地域在住高齢者からアンケート調査により、日常活動ならびに社会活動に関する項目について回答を求めた。 回答を求めた項目は、日常的な活動10項目、社会参加や奉仕活動の6項目、学習活動の4項目からなっている。得られた回答より、主成分分析により生活活動を反映した有意な因子を把握するとともに、重みづけをおこない指標化を試みた。さらに、得られた指標と食事、排泄、着替え、入浴、歩行などのADLと生活活動指標の関連性をみたが、両者に有意な関連性を認めた。つまり、活動度のスコアが高い程ADLがよく保たれており、本指標は高齢者の生活活動の把握に有用であると推察された。今後いくつかの集団にこの指標を適用し、集団の老化度ならびに生活活動度を測定するとともに、老化抑制因子、生活活動促進因子の解明を計ることが非常に重要であると考えられた。
結論
1) 原爆被爆者の長期追跡集団では、身体活動指標(PAI)のレベルと26年間の全死因死亡ならびに老人性痴呆有病率との関連性について検討した。その結果、PAIと全死因死亡とにU字型の関連が認められ、生活習慣病予防のための身体活動には適切なレベルがあると判明した。PAIレベルと老人性痴呆有病率との関連はみられなかった。
2) 新潟県Y町の老健法による健診受診者では、PAIレベルと5年間の検診成績の変化との関連を検討した。その結果、PAIレベルが高いほど5年間にBMIならびに総コレステロールレベルが低下する傾向が認められ、運動習慣の循環器疾患リスクファクター是正効果が確認された。
3) 農村住民の調査では、悉皆調査と比較して基本健康診査での各種疾患既往の把握率はまずまずのレベルであったが、転居や寝たきりの情報は脱落しており、今後は有効なデータ統合法の確立が必要と考えられた。
4) 健康増進センターコホートの調査では、体力水準と高血圧罹患との関係をみた。最大酸素摂取量の多い群で高血圧罹患率が低い傾向を認め、心肺持久力を維持・向上させることによって、高血圧の罹患が予防できる可能性が示唆された。
5)地域の高齢者を対象にした介入研究では、運動指導により1日の歩数が増加し、それに伴って生活体力総合得点、心の健康ならびに社会性の改善がみられた。歩行といった軽い運動によって心理的・社会的機能に改善が見られることは注目に値する。
6) 高齢者のための運動習慣の形成・継続プログラムの開発研究では、運動プログラムを継続した群では対照群と比較して運動エネルギー消費量の有意な増加が認められ、また生活体力にも有意に改善がみられた。プログラムで指導した歩行、柔軟体操および筋力強化運動が体力要素を高め、生活体力の改善に寄与したものと推察された。
7) 活動能力向上を目的とした身体運動の具体的方法に関する研究では、トレーニングに参加者の運動の継続状況と1年後の身体機能年齢を測定した。身体機能体力は1年後においても維持されていたが、全身持久性、筋力、柔軟性、平衡性などは有意に低下していた。特に筋力の低下が著明であったことより、プログラムとしては筋力作りを中心にする必要性が判明した。
8) 老化指標および活動能力指標の作成
日常的な活動10項目、社会参加や奉仕活動の6項目、学習活動の4項目からなっている簡便な質問票に基づき生活活動指標の作成を試みた。主成分分析により生活活動を反映した有意な因子を把握するとともに、重みづけをおこない指標化を試みた。今後いくつかの集団にこの指標を適用し、集団の老化度ならびに生活活動度を測定するとともに、老化抑制因子、生活活動促進因子の解明を計ることが非常に重要であると考えられた。

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