文献情報
文献番号
199900824A
報告書区分
総括
研究課題名
疲労の実態調査と健康づくりのための疲労回復手法に関する研究(総括研究報告)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
木谷 照夫(市立堺病院)
研究分担者(所属機関)
- 今井浩三(札幌医科大学)
- 赤枝恒雄(赤枝医学研究財団)
- 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
- 松田重三(帝京大学)
- 合地研吾(帝京大学)
- 橋本信也(国際学院埼玉短期大学)
- 田中朱美(東京女子医科大学)
- 筒井末春(東邦大学)
- 西海正彦(国立病院東京医療センター)
- 伊藤保彦(日本医科大学)
- 松本美富士(豊川市民病院)
- 松村潔(京都大学)
- 山西弘一(大阪大学)
- 倉恒弘彦(大阪大学)
- 生田和良(大阪大学)
- 渡辺恭良(大阪バイオサイエンス研究所)
- 井上正康(大阪市立大学)
- 田中英高(大阪医科大学)
- 志水彰(関西福祉科学大学)
- 西連寺剛(鳥取大学)
- 増田彰則(鹿児島大学)
- 三池輝久(熊本大学)
- 久保千春(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、急速な社会構造の変化に伴い、労働の質や環境が大きく変わり、一方家庭生活においては食生活や運動、睡眠などの生活習慣がこれまた著しく変化してきている。このような今日の生活環境は心身両面への負荷やストレスを増加させている。そこには疲労に悩まされている人たちが多くみられ、学童、生徒では疲労感は不登校の要因となり、疲労への社会的、個人的対策は労働衛生、教育問題としても、また生活の質の面からも重要な課題である。また強度な疲労病態を示す慢性疲労症候群(CFS)は感染症を疑う病因への社会的不安と生活活動能力低下者の増加を生み、医療、生活、労働面での対策が求められ、欧米では大規模な調査、研究が行われている。本研究班では上記の種々の問題への対応を策定するうえでまず基本となる資料を得るために、我が国社会における疲労の実態を知ることを第一の目的とした。これには疲労の有症率、強さ、ならびに疲労と生活習慣、職業、疾病、環境因子などの背景因子との関連を知ることが必要であり、これらの設問から疲労と関連する危険因子が明らかになれば今後の厚生行政において疲労予防を推進するうえで、有益かつ貴重な資料となるに違いない。また疲労を主徴とする慢性疲労症候群は疲労研究の好個の病態モデルとなるもので、この病態の研究は疲労の発現メカニズムを解明するうえで重要な知見をもたらすものと考える。特にこの疾患の疲労が中枢性と考えられることから、この研究により、中枢性疲労の大脳での関与領域や疲労発現物質など疲労発現のメカニズムの解明が期待できる。これらの成果は保健、医療、社会生活などにおける健康増進のすべての分野で寄与すること多大なるものと考えられる。
研究方法
疲労自覚者の実態調査については郵送法によるアンケート調査を行うこととし、まず詳細な設問をもうけた調査票を作製した。調査内容は現在の疲労の有無、疲労の原因と程度、持続期間、既往症、飲酒、睡眠、ストレス、食生活などの生活習慣、ライフイベント、性、年令、職業、学歴などとし、付帯する自覚症はCFSの症状クライテリアの項目も含めて作製した。対象は15-65才の男女4,000人を愛知県の豊川地域から無作為抽出した。疲れを感じている期間が6ヶ月を越える疲労を慢性疲労と分類した。解析方法は疲労のない人の自覚症状の有症率を1とし多重ロジスティクモデルによる慢性疲労者のオッズ比を求めた。なお、この調査とは別に女子短大生における疲労の実態調査を400人について上記と同じ調査用紙を用い行った。疲労発現のメカニズムについては疲労自覚者の自律神経機能やうつ状態との関連を調べ、CFS患者についてはウイルス感染との関連を明らかにするためボルナ病ウイルスの感染実態について検索し、またマイコプラズマ感染についても検討した。疲労惹起物質候補として血中のTGFβなどのサイトカインの測定を行った。更にこれまでの研究の継続課題としてアシルカルニチンの低下の意義について脳内攝取や局所的取り込みの低下について詳細な解析を行った
。その他自己抗体の出現頻度ならびに抗原の同定が行われた。小児においては不登校児と疲労との関連が本研究班の研究で既に示唆されているが、それらの児童の脳認知機能について事象関連電位について検討した。治療の分野では新しい抗うつ剤の効果の検討のほか、香によるアロマテラピーの効果や小児疲労疾患での加圧腹部バンドの有効性が検討された。またCFS患者の予後についても調査が行われた。
。その他自己抗体の出現頻度ならびに抗原の同定が行われた。小児においては不登校児と疲労との関連が本研究班の研究で既に示唆されているが、それらの児童の脳認知機能について事象関連電位について検討した。治療の分野では新しい抗うつ剤の効果の検討のほか、香によるアロマテラピーの効果や小児疲労疾患での加圧腹部バンドの有効性が検討された。またCFS患者の予後についても調査が行われた。
結果と考察
本年の本研究班の最大の成果は一般地域住民の疲労の実態調査の成績である。調査票を郵送するアンケート法であったが、対象4,000人中77%という高率の回答を得た。集計すると現在疲労自覚者は59%で、6ヶ月以上持続する慢性疲労すら35%という予想をこえる高率であった。疲労自覚者を1)病気によるもの、2)長期労働やストレスが多いなどという明確な原因によるもの、3)原因不明のもの、の3群に分類すると明確な原因群が最も多く、しかも35~44才という働き盛りでピークがみられた。疲労を感じつつ仕事やストレスに耐えている現今社会の姿を如実に示されている。慢性疲労者は人口の1/3を越えていたが、しかし休退職に追いこまれたり仕事を休まねばならぬ人は比較的少なかった。しかし作業量の低下をうったえる人は慢性疲労者の40%、全疲労者からみると人口の20%をこえていた。いかに疲労が我が国社会をおかしているかがうかがわれる。この成績を欧米における疲労調査の成績と対比すると、欧米では一般住民の疲労自覚者は15%~30%と我が国よりはるかに少ない。一方CFSという病的疲労状態を示す患者の頻度は本邦に比べはるかに高く100倍を超える値が示されている。この解離の解明は今後の問題である。慢性疲労者では身体的にも各種の症状を示す人が有意に多かった。この調査では多くの設問がなされており、今後これを資料として様々な角度よりの解析が期待される。女子短大生を対象とした調査では慢性疲労者は7%とはるかに少なかったが「だるさ」を感じている学生は82%、原因不明の疲労は51%と女子大生群の特異性がうかがわれた。CFSでの発症原因や疲労物質の研究ではボルナ病ウイルス感染者が有意に多かった。小児疲労児群では特殊な自己抗体陽性者が40%にみられこれは成人CFSでの報告と共通するもので、CFS例でTGFβなどサイトカインが高値とあわせ免疫異常の存在が強く示唆される。疲労の治療は香による治療効果が脳波との相関において報告されまた生きがいを持つことが有用であることが示された。しかし病的疲労を示すCFSでは未だ有効かつ的確な治療法が見い出されていない。
結論
今回の一般社会での疲労の疫学調査により我が国の疲労自覚者の実態が明らかとなった。現在疲労を感じている人は予想以上に高率で地域住民の60%に及んでいる。そのうち仕事が長期、過重や精神的ストレス下にある原因の明らかな群が最も多く約半数を占めている。この疲労は一晩の睡眠では約半数が回復していない。疲労が6ヶ月を超える慢性疲労者も36%という高率であり、ここでも上記の如き原因を自覚している人たちに最も多かった。慢性疲労者では疲労感はあっても約半数が仕事に支障なしと答えたが約40%では疲労のため作業量が低下するとしている。多数の設問の各々の数値が集計されたが、多面的な解析やそれらの意義の検討が今後必要である。CFSについては継続して研究されているが全例に共通した病因や疲労惹起物質は見い出されていない。これは症候群としての姿を示しているものと考えている。治療については残念ながら飛躍的な進歩はみられず、更に一層開発に努めたい。
公開日・更新日
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