公衆衛生専門医の養成と確保の方策に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900822A
報告書区分
総括
研究課題名
公衆衛生専門医の養成と確保の方策に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
久道 茂(東北大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会に伴う医療・福祉ニーズの増大、国民の健康意識と生活習慣の変化と多様化、新興・再興感染症の増加など、保健医療をめぐる諸問題は山積しており、予防医学と健康増進サービスの役割に対する期待は大きい。一方、公衆衛生の行政と教育・研究に携わる医師の現状を見るに、わが国では量的にも質的にも国民の期待に応えるレベルに達しているとは言い難い。その背景の1つとして、公衆衛生従事者に対する養成・生涯教育のシステムが、わが国で未整備であることが挙げられる。その問題を解決するには衛生学・公衆衛生学の教育に携わる者の組織的な取組みが不可欠である。衛生学・公衆衛生学教育協議会は、全国の医育機関における衛生学・公衆衛生学の教授により構成され、公衆衛生専門医の養成と確保の方策に向けて調査研究を実施するとともに、様々な提言を行ってきた。同教育協議会の代表世話人である主任研究者(久道)は、同協議会会員を研究協力者に組織し、本年度は以下の研究をタ施した。第一に、衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方に関する研究を行った。具体的には、全国の衛生学・公衆衛生学教授を対象とする実態調査をもとに、衛生学・公衆衛生学教育の位置付け、医学教育と福祉・介護教育との連携のあり方、私立医科大学の社会医学教育のあり方などを検討した。第二に、衛生学・公衆衛生学の卒後教育のあり方について研究を行った。具体的には、平成16年度の導入を目指して検討が行われている医師の臨床研修必修化における公衆衛生研修のあり方について検討した。第三に、衛生学・公衆衛生学の教育研究の将来構想に関する研究として、社会医学のアイデンティティに関わる諸問題、衛生学・公衆衛生学教授選考のミニマム・リクワイアメントなどを協議した。これらの研究を通じて公衆衛生従事者の教育・研究システムを整備することが本研究の目的である。
研究方法
衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方に関する研究では、稲葉教授(順天堂大学医学部)を中心に企画と調査の実施が行われ、その結果の解析にあたっては、多田羅教授(大阪大学医学部)、川口教授(昭和大学医学部)の分担を得た。平成10年11月下旬に教育協議会全員182人に対してアンケート調査票を郵送し、回答への協力を求めた。調査票は、教授個人用と大学用(大学としての回答)との2部構成とした。教授個人用では、講座の沿革や名称についての意見、授業対象学年についての意見、授業内容についての意見、大学院についての意見などが調査された。大学用では、現状のカリキュラム、福祉サービス関連のカリキュラム、国際保健の教育カリキュラム、地域保健実習、衛生・公衆衛生学実習、その他の関連授業、大学院の教育に関するものなどが調査された。私立医科大学の社会医学教育のあり方に関する研究は、川口教授(昭和大学医学部)を中心に行われた。全国の私立医科大学の社会医学系教授からなるワークショップを開催し、これからの社会医学教育のあり方を検討し、さらに郵送法によるアンケート調査を実施した。調査項目は、以下の通りであった。講座体制、任用基準、教育年次、衛生学・公衆衛生学のアイデンティティなどであった。医師の臨床研修必修化における公衆衛生研修のあり方に関する研究は、川口教授(昭和大学医学部)を中心に行われた。平成11年6月19・20日に臨床研修のあり方に関するワークショップを開催し、全国の衛生学・公衆衛生学教授の参加のもとに議論を行った。その後、関係教授との協議を数回実施し、検討を深めた。衛生学・公衆衛生学教授選考のミニマム・リクワイアメントに関する研究は、三角教授(大分医科大学)を中心に行われた。衛生学・公衆衛生学の教育研究を担
う人材を確保するには、その学問のアイデンティティを確立し、衛生学・公衆衛生学教授のミニマム・リクワイアメントを確立する必要がある。以上の認識に立って、大分県湯布院町での会議や日本公衆衛生学会総会の自由集会での議論を通じて提言をまとめた。
結果と考察
衛生学・公衆衛生学に関する卒前教育のあり方に関する研究では、182人の対象のうち129人(70.9%)から回答があった。教育協議会が1995年に作成したコアカリキュラムは、約60%で肯定的に捕らえていた。臨床教育と協力して統合講義のようなものをしているかという問いには、約半数がしており、やっていないという中にも、総合カリという別のシステムの存在が理由となっているものがあった。コアカリキュラムの追加項目に関する意見は、肯定的なものが多かった。ただし、時間枠の問題、学年の問題はかなり大きいと思われる。国試との関連で、教育内容を検討することに関しては、否定的意見が強かった。福祉サービスに関する講義が「事実上、ほとんど行われていない」と答えた大学が20%であった。講義を行っている大学では、衛生・公衆衛生学の講義の中で行っている大学が大部分であった。社会学・福祉学の専任教授をおいて系統的に講義を実施している大学もあった。講義の時間は「90~180分」、対象学年は「4年次」の大学が最も多かった。福祉サービスの施設見学・実習について、「事実上、ほとんど行われていない」大学が26%存在した。今後の福祉サービス関連のカリキュラムの方向について、「極力」あるいは「一定程度」充実させる必要があると答えていた大学は80%であった。福祉サービス関連のカリキュラムの充実に当たって、大部分の大学では、衛生・公衆衛生学関連講座を中心に充実させていくことが必要であると考えていた。私立医科大学の社会医学教育のあり方に関する研究では、33校のうち24校(72.7%)から回答が得られた。講座の体制としては、衛生学と公衆衛生学の2講座2教授制をとっている大学が3分の2を占めた。医師の臨床研修必修化における公衆衛生研修のあり方に関する研究では、平成11年6月19・20日に昭和医科大学で開催された「臨床研修のあり方に関するワークショップ」で議論し、さらに関係教授との協議で検討を深めたうえで、「臨床研修制度における公衆衛生研修カリキュラムの参入について」という要望書を作成し、平成11年12月15日に厚生省健康政策局長に提出した。要望事項として以下の4項を挙げた。第1項 卒後臨床施設における研修カリキュラムの企画と運営にあたっては、社会医学系衛生学・公衆衛生学の分野の指導者の代表も構成員とする委員会の協議で行なうようにしていただきたい。第2項 保健と福祉に関する知識と理解を高めるよう卒後臨床研修カリキュラムの改訂を行なっていただきたい。第3項 スーパーローテーションの拡大とそのための研修体制の整備を図られたい。第4項 スーパーローテーションの指導体制の整備を図られたい。衛生学・公衆衛生学教授選考のミニマム・リクワイアメントに関する研究では、全国の衛生学・公衆衛生学担当教授の話し合いをもとに提言「衛生学・公衆衛生学関連講座教授選考にあたって」を作成した。
この文書は、21世紀の研究教育を担う衛生学・公衆衛生学教授に求められる要件をまとめたものである。これにより、全国の大学医学部・医科大学における衛生・公衆衛生学の教授選考の際に考慮の材料としてもらうことを目的としている。
衛生・公衆衛生学関連教授に求むべき要件として、一般的な要件と具体的な4つの要件とに整理した。一般的な要件として、public health minded な素養、行政・地域社会との連携能力、創造性や先見性などを示した。具体的な4つの要件として、教育能力、研究能力、学会活動、そして地域社会活動について、その細目を示した。
結論
優秀な人材を公衆衛生分野(教育・研究職および行政職)に確保し、公衆衛生従事者の行政能力と調査・研究機能を強化するためには、衛生学・公衆衛生学教育体制(卒前および卒後)の強化が必要である。そこで、全国の医科系大学の衛生学・公衆衛生学教授により構成される衛生学・公衆衛生学教育協議会の会員を研究協力者に組織して調査研究を行った。全国の担当教授に対する実態調査結果によると、衛生学公衆衛生学の教育年次が低学年化したり、講義時間数が短縮される傾向が見られる。また、福祉サービスや国際保健など新しい分野の教育の必要性も強まっているが、それらへの対応は必ずしも十分とは言い難い状況にあった。これらの実態把握に基づいて、よりよい衛生学・公衆衛生学(卒前・卒後)教育のあり方に関する提言を行った。さらに、医師の臨床研修必修化における公衆衛生研修のあり方や衛生学・公衆衛生学関連講座教授選考にあたってのミニマム・リクワイアメントについて協議を深め、提言を行った。

公開日・更新日

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