健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防のための地域連携システムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900821A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりセンターを活用した生活習慣病予防のための地域連携システムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 尚平(岡山大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋香代(岡山大学教育学部)
  • 槇野博史(岡山大学医学部)
  • 藤井昌史(岡山県南部健康づくりセンター)
  • 田中茂人(岡山市医師会)
  • 高木寛治(岡山市保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康づくりセンターを活用した生活習慣病の一次予防を地域で効果的に展開するための方法論及びシステムの開発。
研究方法
その1.内臓蓄積型肥満の客観的・科学的病態評価法に関する研究
本プロジェクトに参加したBMIが26.4以上の者を対象に体組成と血液検査を行った。
その2.生活習慣病の運動療法の研究
対象1:かかりつけ医、産業医から紹介され、岡山県南部健康づくりセンターを利用したBMI26.4以上の肥満者、この群の性と年齢を一致させた過体重者(BMI24.2以上26.4未満)、正常体重者(BMI19.8以上24.2未満)の3群(各群155人)。
対象2:同様に紹介された合併疾患のない肥満者、この群の性、年齢と体格を一致させた高脂血症肥満者、高脂血症と高血圧症の両方を持つ肥満者の3群(各群60名)。
体組成と体力テスト結果を群間で比較した。
その3.健康づくりセンターの拠点機能
健康科学センター12施設と健康増進施設41施設の計53施設を対象とし、業務実施状況と地域連携を調査した。
その4.かかりつけ医と保健所との連携
岡山市医師会所属の444施設を対象とし、基本健康診査の実施状況、要指導への指導状況と効果、保健所などとの連携を調べた。
その5.運動普及員講座の評価と運動普及員推進員のマンパワーとしての可能性
平成8年度~11年度開講の受講者110名を対象とし、現在の病気や受講後の感想、普及活動、受講前後の自覚的体調、運動体力観、生活習慣、運動習慣に関する質問紙調査を行った。
その6.生活習慣病予防のための生活習慣と運動習慣の捉え方
岡山県在住の女性297名(22~85歳)を対象とし、体調や運動に対する感情、自覚的体力、生活習慣、運動習慣を調べた。
その7.生活習慣病予防対策のマニュアルの作成
BMI26.4以上、年齢30歳以上60歳未満の男性61名を対象とし、体組成、血液検査、心電図、血圧、腹部CT、体力を測定した。日常生活活動量は、歩数計による1日歩数で評価した。運動プログラムは、各人の活動量と体力測定結果に基づいて作成した。この運動プログラムを6ヶ月間継続できた46名の測定結果を運動前後で比較し評価した。
結果と考察
その1.内臓蓄積型肥満の客観的・科学的病態評価法に関する研究
1)腹部CTで内臓型肥満と判定したV/S比0.4以上の人は114人中94人であった。
2)肥満者は空腹時インスリンが高値でありインスリン抵抗性が示唆された。
3)内臓脂肪面積(V)、皮下脂肪面積(S)はBMI、ウエスト、W/H、体脂肪率と相関したが、V/Sはヒップとのみ相関した。
4)IRIとレプチンはそれぞれ内臓脂肪と(S)と相関を認めたがV/Sとは相関がなかった。
5)インスリン抵抗性の指標HOMA指数は(S)とのみ相関が認められた。
6)50代ではV/SとIGF-1が有意に高値であり、30代ではIGF-1と(V)との間に負の相関があった。
7)BMI、体脂肪率、W/Hから内臓脂肪や皮下脂肪を分別評価する事は困難であり、CTに代わる簡便な方法の開発が望まれる。
その2.生活習慣病の運動療法の研究
対象1での結果
1)肥満者は男女とも体脂肪率、W/H、皮脂厚和のいずれも過体重者、正常体重者より高値を示した。
2) 全身持久力をVTで評価すると、男女とも肥満者は正常体重者より有意に低値を示した。
3)肥満者群の筋力は比較的高値を示したが、体重支持指数で評価すると相対的な筋力低下があった。
4)男性では平衡性、女性では柔軟性、平衡性、敏捷性が正常体重者より有意に低下していたが、男性の柔軟性と敏捷性には有意差がなかった。
5)男女とも肥満者のGOT、GPT、γ-GTPは正常体重者より有意に高値を示した。女性の総コレステロールは正常体重者より有意に高値を示した。
対象2での結果
1)男女とも体脂肪率、皮脂厚和、W/Hのいずれも3群間に有意差はなかった。
2) 男性では、高脂血症と高血圧症の両方を持つ群が合併症のない群よりVTが低かったが、他の指標は男女とも合併症の有無での有意差はなかった。
3) 運動療法には、低目に設定した有酸素運動、下肢筋力の維持、強化が必要と考えられた。
その3.健康づくりセンターの拠点機能
1)拠点機能
健康科学センター12施設の業務実施状況は、①健康づくりプログラムの開発は11施設、②モデル的体験事業は11施設、③各種研修は10施設、④関係機関への技術的支援は10施設、⑤各種情報の収集提供は10施設、⑥調査研究は10施設、⑦広報普及は10施設であった。
2)健康増進施設の地域との連携
(1)市町村・保健所と連携状況
96%の施設が連携し、内容は、施設利用、講師の派遣、健康づくり事業の企画・共催であった。共同研究は健康科学センター3施設で取り組んでいた。
(2)医師会との連携状況
91%施設が医師会や地域医療機関と連携していた。内容は、治療・精密検査を紹介(66%)と、患者の受け入れ(32%)であった。岡山県南部健康づくりセンターでは医師会健康スポーツ医講習会を実施して連携している。
(3)他の健康増進施設との連携状況
3施設の健康科学センターを含む施設が連携していた。
(4)大学等の研究機関との連携状況
27施設が連携しており、内容は、指導や助言を受けている(19施設)、共同研究(11施設)、施設のデータ分析依頼(7施設)であった。
その4.かかりつけ医と保健所との連携
1)444施設中151施設が基本健康診査を行っていた。
2)診療科目は大半が内科であり、形態は診療所であった。
3)年間の基本健康診査実施数は、約6割が100人以下であった。「要指導」となった人への生活習慣改善指導は、「具体的かつ個別の指導」あるいは「一般的な注意指導」が8割強であったが、「ほとんど行っていない」も1割強あった。
4)指導の効果は、「改善」あるいは「ある程度は改善」ありはそれぞれ約4分の1(24.3%)であった。また「要医療」の人の90%以上は医療継続中であった。
5)基本健康診査に関する保健所との連携
生活習慣改善指導での役割分担は、「医療機関が実施し保健所が支援する」と「医療機関と保健所が特色を生かして別々に行う」が各々約3分の1であった。
6)医療機関が患者と住民に対する生活習慣改善指導の主体となり、保健所やセンターと連携して予防対策を進めていく必要があると考えられた。
その5.運動普及員講座の評価と運動普及員推進員のマンパワーとしての可能性
1)運動普及推進員は一般の人と年齢、身長、体重に差はなく、平均的な運動・生活習慣を持った人達であった。
2)講座内容では、ウォーキングと筋力トレーニングは高い評価を得たが救急法については難しいとの回答もあり、今後の課題と考えられる。
3)運動行事の企画や運営を約3割の者が実施しており、ボランティア活動の実践母体としての可能性が示された。
その6.生活習慣病予防のための生活習慣と運動習慣の捉え方
1)因子分析の結果、生活態度を『体調』・『運動体力観』・『生活習慣』・『運動習慣』の4因子に分類できた。
2)パス解析の結果は、体調因子へは運動体力観因子が、運動体力観因子へは生活習慣因子が、生活習慣因子へは運動習慣因子が強い関連を示した。
3)運動習慣因子から生活習慣因子への関連では、「ストレッチやラジオ体操などを行う」は「運動不足と感じたら体を動かす」へ、「筋力トレーニングを行う」は「朝少し早く起きて歩く」と「仕事や家事でよく体を使う」への関連が認められた。
4)体調へは運動体力観と生活習慣、運動体力観へは生活習慣と運動習慣、生活習慣には運動習慣が関連するという流れが明らかになった。
その7.生活習慣病予防対策のマニュアルの作成
1)運動プログラム作成のコンセプト
中年男性が参加し易い金曜夜、土曜午前、土曜午後に時間帯を設定し、頻度は週1回とし、歩数計や健康手帳を併用した。運動種目は、エアロビクス、水泳などとした。
2)運動プログラムの作成
第1~2期の内容は、下肢と体幹の筋力アップと、有酸素運動が実施できる体力づくりとした。第3~4期では活動的な日常生活への転換と生涯スポーツへの展開を目標に種目を選択した。
3)運動プログラムの評価
実施6カ月後の変化では、体重、体脂肪率、脂肪量、ウエスト、W/H、皮下脂肪面積、内臓脂肪面積、V/S比が有意に減少した。歩数は平均約2500歩増加し、脚伸展力、上体おこしは有意に増加した。総コレステロール、中性脂肪、空腹時血糖とインスリンは有意に減少した。
4)以上の結果は、週に1回の運動習慣であっても有効なプログラムであったと結論できる。
結論
肥満に基づくインスリン抵抗性症候群の予防には、3つの課題が明らかとなった。
1.若年の小太りはリスクが高いので、早めに第1次予防を開始することが重要。
2.健康づくりセンターの機能を生かして、医師会、保健所、地域とが連携すれば、効果的に予防できる。
3.活動的な日常生活への変容には生活習慣と運動習慣の両方からのアプローチが必要。

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