医療施設受診喫煙者の多施設大規模追跡調査(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900819A
報告書区分
総括
研究課題名
医療施設受診喫煙者の多施設大規模追跡調査(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
浜島 信之(愛知県がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 福光隆幸(碧南市民病院)
  • 臼井利夫(名古屋市中村保健所)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喫煙者を減らすことが、多くの疾患予防に有効であることは言うまでもない。しかし、多数の喫煙者を簡易な方法で禁煙へと導く効果的な方法はほとんどなく、わが国の喫煙率は未だに高率のままである。本研究費による一連の研究は医療施設での禁煙支援方法の確立を目的としたものであり、主要な研究調査は、医療施設受診喫煙者の3つの追跡調査である。これらの調査は異なる医療施設、禁煙支援の中でどの程度喫煙者が受診を契機に禁煙するを調べるものである。
研究方法
追跡調査(A)は6施設による大規模追跡調査で、愛知県がんセンター病院と碧南市民病院内科の初診患者、碧南市保健センター、安城市保健センター、名古屋市中村保健所、岐阜市保健所が実施する検診の受診者を対象とした。愛知県がんセンターでは初診患者に対して実施している生活歴調査票より、4つの検診実施施設の検診受診者では受診票にある問診項目より喫煙者を特定し参加の依頼を行った。碧南市民病院では内科の調査担当医師が診察時に喫煙者かどうか尋ねて喫煙者に参加を依頼した。参加者には参加申込書に名前と調査用紙郵送先住所を記入していもらい、お礼のボールペンを渡した。2ケ月後と1年後に、愛知県がんセンターよりすべての参加者に疾病の有無、喫煙状況、禁煙への関を尋ねる調査用紙と切手を貼った返信用封筒を郵送した。参加者募集は愛知県がんセンター病院では1997年9月15日から1998年9月11日までの1年間、岐阜市保健所では1998年7月から1999年3月まで、他の4施設では1998年4月から1999年3月までの1年間である。未回答者への催促は愛知県がんセンター病院での1年後調査のみ行い、2ヶ月後調査および1年後調査での他施設では行わなかった。
追跡調査(B)は、愛知県がんセンター病院の1999年1月から2月までの初診喫煙患者を対象としたもので、募集の方法は追跡調査(A)と同じである。ただし、参加者には「たばこはがんの原因です」と書かれたボールペンを渡すのに加えて、「禁煙セルフヘルプガイド」(中村正和、大島明著)、とたばこで汚れた肺の絵のついたパンフレットを渡した。追跡調査は6ヶ月後の郵送調査である。未回答者への催促は行わない。
追跡調査(C)は、大阪府立成人病センターにがんまたは循環器疾患で入院し、入院当日も喫煙していた者および禁煙31日以内の者が対象で、1998年6月に募集を開始した。2つの循環器病棟と1つの耳鼻咽喉科病棟の入院患者全員に、自記式問診票にて喫煙状況、エゴグラム、ニコチン依存度、禁煙を成功させる自信度、禁煙経験の有無、家族や医療従事者からの支援、期待度を尋ねた。喫煙者のステージ(無関心期、前関心期、関心期、準備期、実行期)に応じて、保健婦が調査対象者のベッドサイドに赴き、資料を用いて禁煙支援を行った。追跡調査は退院6ヵ月後と1年後に自記式調査用紙を郵送し行った。未回答者への催促はそれぞれ1回まで行った。
結果と考察
追跡調査(A)では愛知県がんセンター病院1,131人、碧南市民病院214人、碧南市保健センター392人、安城市保健センター642人、名古屋市中村保健所440人、岐阜市保健所733人、計3,552人が参加した。2ケ月後調査までに2人が死亡し、16人が異なる住所を書き調査用紙が返送された。1人は参加時に既に喫煙者でなく、その結果、3,533人が2カ月後の時点での適格参加者となった。各施設それぞれ、1,124人、214人、391人、639人、435人、730人である。適格参加者の施設別性年齢分布を見ると、愛知県がんセンターは40歳未満が男性で16.2%、女性で40.7%、碧南市民病院は40歳未満が男性で41.4%、女性で66.7%で、愛知県がんセンター病院での参加者のほうが年齢は高いほうに偏っていた。碧南市保健センターと安城保健センターの検診受診者は30歳代、40歳代が中心で、名古屋市中村保健所と岐阜市保健所の検診対象者は60歳以上が中心であった。2ケ月後調査での回収率は、男女あわせると愛知県がんセンターでは57.3%(644/1124)、碧南市民病院では59.3%(127/214)、碧南市保健センターでは74.7%(292/391)、安城市保健センターでは71.5%(457/639)、名古屋市中村保健所では80.2%(349/435)、岐阜市保健所では76.4%(558/730)であった。病院2施設をあわせると回収率は57.6%となり、4つの検診施設での75.4%より有意に(p<0.001)低かった。愛知県がんセンター病院ではがん患者と調査票に回答した参加者が232人(男性201人、女性31人)あり、このうち喫煙を止めたと回答した者が、男性で155人(77.1%、95%信頼区間71.3-82.9%)、女性で18人(58.1%、40.7-75.5%)あり、禁煙率は有意に男性のほうが高かった(p<0.05)。調査に回答しなかった480人の参加者をすべて非がん患者の喫煙継続者とすると、男性554人中51人(9.2%、6.8-11.6%)、女性338人中14人(4.1%、2.0-6.2%)が喫煙を止めたと回答した。禁煙者は男性のほうが有意に多かった(p<0.01)。碧南市民病院では214人の内25人(11.7%、7.4-16.0%)が喫煙をやめたと回答した。有意ではないものの男性のほうが女性より禁煙率は高かった。検診をしている4施設をあわせると、禁煙率は2,195人中2.5%(1.9-3.2%)であり、愛知県がんセンター病院での非がん患者・無回答者と碧南市民病院の患者をあわせた禁煙率(8.1%, 90/1,106)より有意に(p<0.001)低かった。検診受診者での禁煙率は、40歳未満で1.8%(6/331)、40-59歳で2.5%(18/724)、60歳以上で3.4%(24/715)、女性でそれぞれ、3.4%(3/218)、1.4%(3/218)、0.9%(1/117)であった。1年後調査については現在実施中である。
追跡調査(B)では、934人(男性584人、女性350人)が参加し、6ヶ月後調査を現在実施中である。これまでに255人からの回答を得ている。
追跡調査(C)の調査対象者は335人で、実入院患者数1,397人の24.0%であった。無関心期は対象者のうち22%、前関心期は25%、関心期は5%、準備期は5%、準備期は17%、実行期は26%であった。喫煙本数が10本以下の者の割合は、喫煙中であった者の中では30%、禁煙実行期であった者では12%であった。ニコチン依存度は喫煙中であった者と実行期であった者の間で差はなかった。6ヶ月後の回収率は67.4%(145/215)、12ヶ月後の回収率は73.3%(99/135)で、退院6ヶ月後の禁煙率は38.1%(82/215)、1年後の禁煙率は42.2%(57/135)であった。
結論
6施設の外来受診者に対する追跡調査(A)には3,552人の喫煙者が参加し、2ケ月後の喫煙状況郵送調査から、禁煙するものはがん患者で最も多く、次いで病院外来受診患者で、検診受診者は少ないことがわかった。がん病院1施設で行っている禁煙支援のためのパンフレットを手渡す追跡調査(B)では934人が参加し、現在6ヵ月後の調査を実施中である。成人病センター入院患者に対する禁煙支援を行った追跡調査(C)には335人が参加し、上記がん患者での禁煙率よりは低いものの外来患者よりも高いことが判明した。医療受診後の喫煙者の追跡調査はわが国では少なく、総計5,000人の参加者の本研究にける調査から得られる結果、わが国にとっての貴重な資料と言える。これまでの集計により医療施設受診を契機に禁煙する者の率は状況により異なっていることが判明した。それぞれの状況において更に禁煙率を高める手法の開発、導入が必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-