健康増進活動のための健康外来システムの開発とその評価(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900818A
報告書区分
総括
研究課題名
健康増進活動のための健康外来システムの開発とその評価(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
馬場園 明(九州大学健康科学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大柿 哲朗(九州大学健康科学センター)
  • 藤野 武彦(九州大学健康科学センター)
  • 畝  博(福岡大学医学部公衆衛生学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
健康外来の目的は生活習慣病の予防であり、ライフスタイルの改善が必要とされる。そのためには、まず、本人が問題を認識し、本人自身が行動を改善しなければならない。専門家の役割は本人が行動変容するよう助けることが重要である。この支援の内容が「健康処方」であり、それは苦痛でなく、実行可能であり、しかもその行動変容によって生活の質も改善する必要がある。
健康外来では、従来の食事制限や運動療法を強制する方法ではなく、「自分で自分を禁止、抑制することをできるだけしない」こと、「自分にとって心地よいことをひとつでも開始する」という2原理を行動変容に活用している。また、健康に関しては、「健康に良いことで自分の好きなことを行う」、「たとえ健康に良くても、嫌いなことは最初は決して行わない」、「たとえ健康に悪くても、好きでたまらないことは最初はやめず、とりあえず現状を認める」という3原則を指導している。さらに、実際の食事については、1日1回は満足するまで食べる「1日1快食」をすすめているが、他の食事は水分中心や補助食程度でもかまわないと指導している。従来、肥満者を対象とした栄養処方はカロリー計算に基づいて1日3食を制限するものであった。しかしながら、多くの対象者にとってはそれが苦痛であり、リバウンドなどの問題を起こしていた。「1日1快食」をすすめているのは1日3食カロリー制限を行うよりも、1日1食は好きなだけ食べることの方がより苦痛が少ないと考えられるからである。
本年度は「健康外来としてのヘルスセミナー」が高脂血症に与える影響を明らかにするために研究を行った。
研究方法
1998年度の定期健康診断でのコレステロールが220mg/dl以上である対象者100人を介入群とコントロール群に50人づつ割り付け研究を行った。介入群50人のうちインフォームドコンセントを得られ実際にヘルスセミナーに参加した36人であった。今年度は介入実施群のヘルスセミナーの前後のライフスタイル、精神の健康度、血液検査データの比較を行った。
2原理3原則の実行については、ヘルスセミナーの3ヶ月後のフォローアップで聞き取り調査を行った。ライフスタイル、自覚的ストレス感についてはヘルスセミナー時とフォローアップ時に同じ調査票を使い調査を行った。血液生化学的検査については、ヘルスセミナー時とフォローアップ時に同じ項目の調査を行った。介入の対象者は36人であったが、ライフスタイルと自覚的ストレス感の調査票はフォローアップ時に1名回収できなかった者がいたために、35人で集計を行った。なお、血液生化学的検査項目としては、脂質代謝の指標として総コレステロール、HDLコレステロール、HDL2コレステロール、HDL3コレステロール、LDL、中性脂肪、アポ蛋白:A1, B, E, BA1、LCAT、糖、尿酸代謝および肝機能の指標として空腹時血糖、HBA1c、尿酸、GOT、GPT、γ-GTP、細胞性免疫の指標としてCD4、CD8、CD19、CD16、CD57とした。
結果と考察
介入実施群は、男性が22人(61.1%)、女性が14人(38.9%)であった。 40歳未満が8人(22.2%)、40歳台が 17人(47.2%)、50歳以上が 11人(30.6%)であった。男性と較べ女性では40歳台が多く、40歳未満および50歳以上が少ない傾向があった。平均年齢(標準偏差)は、男性は44.7(7.9)歳、女性は44.6(6.3)歳、全体では44.7(7.2)歳であった。
「自分で自分を禁止、抑制することをできるだけしない」ようにしていると答えた人は36人(100%)、「自分にとって心地よいことをひとつでも開始した」と答えた人は31人(86.1%)であった。また、「たとえ健康に良いことや、良い食べ物でも、嫌いであれば決してしないし、食べない」と答えた人は36人(100%)、「たとえ健康に悪いことでも、好きでたまらないか、やめられないことは、とりあえずそのまま続けている」と答えた人は36人(100%)、「健康に良くて、しかも自分がとても好きなことをひとつでもよいから始める」と答えた人は29人(80.6%)であった。この結果から、受講者のほとんどが2原理3原則を理解し、実行していることが明らかになった。
食事の回数は介入前は1回が0人(0%)、2回が8人(22.2%)、3回が28人(77.8%)であったが、介入後は1回が3人(8.6%)、2回が21人(60.0%)、3回が11人(31.4%)に変化していた。介入前と介入後の分布は統計学的に有意な差を認めた(p<0.001)。
精神的健康度は日本語版全般健康調査票(Genreral Health Questionnaire, GHQ)30項目を用いて行った。分析はまずGHQ法で集計した得点を介入の前後で対応のあるt-検定で評価した。次に得点が8点以上の者を問題ありとし、介入の前後で問題のありとなしの分布を検定した。GHQ得点の平均値(標準偏差)は介入前が6.2(4.9)、介入後が4.7(5.0)で低下傾向が認められたが、統計学的に有意ではなかった。また、GHQ得点が8点以上の者は介入前が12人(33.3%)、介入後が7人(20.0%)と減少していたが統計学的に有意ではなかった。
総コレステロールは介入前が273.8mg/dl、介入後が263.6mg/dlと有意に低下していた(p<0.05)。LDLコレステロールは介入前が160.3mg/dl、介入後が148.7mg/dlと有意に低下していた(p<0.01)。。HDLコレステロールは介入前が68.1mg/dl、介入後が65.8mg/dlと低下していたが有意ではなかった。HDL2コレステロールは介入前が27.9mg/dl、介入後が26.1mg/dlと低下していたが有意ではなかった。HDL3コレステロールは介入前が21.9mg/dl、介入後が19.3mg/dlと有意に低下していた(p<0.01)。中性脂肪は介入前が162.1mg/dl、介入後が151.6mg/dlと低下していたが有意ではなかった。L-CATは介入前が130.3nmol/ml、介入後が92.7 nmol/mlと有意に低下していた(p<0.01)。アポ蛋白A1は介入前が145.9mg/dl、介入後が142.3mg/dlと低下していたが有意ではなかった。アポ蛋白Bは介入前が111.6mg/dl、介入後が108.5mg/dlと低下していたが有意ではなかった。アポ蛋白B / A1は、介入前後とも0.78で一定であった。アポ蛋白Eは、介入前が5.1mg/dl、介入後が5.2mg/dlと有意変化を認めなかった。
空腹時血糖は介入前が101.0mg/dl、介入後が102.6mg/dlで有意な変化は認められなかった。HBA1cは介入前が5.5%、介入後が5.3%で有意な変化は認められなかった。尿酸は介入前が5.4 mg/dl、介入後が5.3 mg/dlで有意な変化は認められなかった。GOTは介入前が23.7 IU/l、介入後が25.5 IU/lで有意な変化は認められなかった。GOTは介入前が23.7 IU/l、介入後が25.5I U/lで有意な変化は認められなかった。γ-GTPは介入前が57.8 IU/l、介入後が50.9 IU/lと低下していたが有意ではなかった。
細胞性免疫の指標では、CD4は介入前が46.2、介入後が43.0と有意に低下していた(p<0.01)。CD8は介入前が27.2、介入後が28.1と有意な変化は認められなかった。CD4/CD8は介入前が1.89、介入後が1.70と有意に低下していた(p<0.05)。CD16は介入前が12.9、介入後が17.1と有意に増加していた(p<0.01)。CD19は介入前が11.8、介入後が11.4と有意な変化は認められなかった。CD57は介入前が18.8、介入後が25.1と有意に増加していた(p<0.01)。
結論
1998年度の検診で総コレステロールが220mg/dl以上であり、介入群に無作為に割り付けられ研究に同意し、承諾した36人に対して介入を行い3ヶ月後にフォローアップを行った。対象者のほとんどは2原理3原則を実行していた。食事の回数は介入前後で、1回が0人(0%)から3人(8.6%)、2回が8人(22.3%)から21人(60.0%)に増加しており、分布に有意に差を認めた。脂質代謝の指標への影響としては、総コレステロール値、LDLコレステロール値、HDL3コレステロール値、L-CATが介入前に較べ、介入後有意に低下していた。細胞性免疫への影響としては、CD4は低下したが、CD16、CD57は増加しており、NK活性が増加している可能性が認められた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-