高齢者健康増進用の生活強度別運動処方器具と運動プログラム開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900816A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者健康増進用の生活強度別運動処方器具と運動プログラム開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
永田 晟(富山県国際健康プラザ)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 慶朗(国療箱根病院)
  • 室 増男(東邦大学)
  • 森 昭雄(日本大学)
  • 内山 靖(群馬大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疾病が発生しないように健康づくりに励み、生活の充実(QOL)のために未病のままで疾病予防の為の運動処方器具と運動プログラムの開発を目的とする。その疾病と仲良く暮らすためにも運動生活の習慣化は必要であり、特に生活体力、日常生活動作(ADL)の保持増進は急務である。健康・体力づくりには食事・栄養指導、積極的な休養休息法、そして快適な運動実施が考えられ、高齢者の生活状況と強度に応じた各処方箋作りとプログラムの提示が必要である。現在、高齢者の運動処方において、使いやすく楽しい運動処方器具、健康診断付き器具や運動プログラムが見当たらず、青壮年用のトレーニングプログラムを代替えしているに過ぎない。高齢者に最適な健康づくりの方法と住宅や施設で実施可能な易しい運動プログラムの提示を目的とする。
研究方法
1.自律神経機能バランス研究
被験者15名(平均年齢43.1歳)に予備的なアンケート調査(既往歴、現在治療中の疾患、服用中の薬、運動歴、現在実行中の運動、行動習慣など)を行なってから、トレッドミルによる運動負荷実験を行なった。ウォーキングの速度と時間は、5.0km/hのスピードで9分間継続した。測定項目は、血圧、心電図、呼吸代謝(・VO2、・VCO2、・VE)で、これらのデータを経時的に心電計(MAX-1)と呼吸代謝測定器(Vmax)に記録し、RR間隔変動パワースペクトルとCVRRはMemCalcによって算出した。
2.運動負荷後の心拍数減衰応答研究
回復心拍数(HR)の測定は、自転車エルゴメータ運動負荷装置を用いた。ペダリング回転数を60rpmに保ちながら、5分間の固定負荷運動(任意負荷W)を行ない運動中に心拍数を安定化させた。運動中と回復時の心電図と、さらに血圧、血中乳酸測値を測定した。そしてペダリング運動停止直後の心拍間隔をHRに換算し、その値を自然対数HR(lnHR)に変換した。そして回復30秒間の回復率から心拍減衰時定数(HRTC)を求めた。
3.高齢者の平衡機能と外乱の研究
65歳以上の高齢者100名を対象として、平衡機能の測定を行なった。
検査課題は、静的姿勢保持として15cm開脚立位での重心動揺(30秒間)、片足立位保持時間を計測した。外乱応答は徒手的な刺激による姿勢反射の発現を3段階で評価した。随意運動としてFunctional balance scale、Performance oriented mobility assessment、Functional reachの計測を行ない、応用歩行能力はTimed up and go (by Podsiadlo)によって測定した。
4.高齢者の前頭野領域からの脳波の変化
高齢者(65~85歳)男子1名、女子(15名)を対象とした。脳波は前頭領域からプレアンプ内蔵型電極を用い双極法で導出し、周波数の比率および分布状態を調べた。
5.腰痛予防装具
高齢者群の測定は、各被験者居室内で、普段とっている座位姿勢において行なった。コントロール群は当院内で、座面から床までの高さが43cmの木製ベンチ(背当て無し)で端座位にて測定した。
座圧中心は、圧力測定装置Xセンサー(日本アビリティーズ社)に、圧センサーパッド(48×48cm、5~200mmHg、1台)を使用し、サンプリングレート0.2Hzで10分間測定した。得られたデータから、測定時間内の座圧と座圧中心位置を取得し、バックアップ使用有無、高齢者群とコントロール群との比較を行なった。
結果と考察
1.高齢者の快適な運動強度とゆらぎ・フラクタル
べきスペクトルの傾きは、安静状態では1.57であったが、運動の終了前には1.04まで下がり、回復4分30秒後には1.34に上がった。これはLF/HFとHF/TP(Total Power Density)の結果にもあらわれ、LF/HFの割合は心拍数の高い状態(運動中)の時は増加し、心拍数が低くなると(回復期)低下した。
交感神経機能の指標となるLF/HFや、副交感神経機能の指標となるHF/TPと同じようにべきスペクトルの傾き(β)は、1.00に近づくと交感神経機能より副交感神経機能が優位になると考えられる。また本運動中の心拍数が平均107拍(心拍数が安静時の1.36倍、換気量が安静時の2.68倍)を示し、副交感神経優位の運動であったことが推定され、楽しみながら運動できたことが考えられた。
2.運動習慣の有無による心臓迷走神経の変化
心拍数(HR)と血圧(SBP、DBP)は、運動習慣群に比べ非運動習慣群に高い傾向が見られ、特にDBPに顕著な差が認められた。これらの傾向は糖尿病患者にも同様であった。
運動直後の回復心拍数(HRTC)は、運動習慣群と非運動習慣群ともに加齢に伴って増加する傾向が認められた。その延長割合は、運動習慣群に比べて非運動習慣群のほうが顕著に大きく、非運動習慣群は加齢に伴って大きく延長した。
3.高齢者の平衡機能と転倒予防
過去1年間に転倒を経験した者は35%に及び、そのうち半数以上が2回以上の転倒を経験していた。
転倒者と非転倒者とを2群に分けて平衡機能の結果を比較したところ、静的姿勢保持力に両群間で有意な差を認めなかったが、外乱姿勢と随意運動では非転倒群での平衡機能が有意に優れていた。
4.高齢者の脳波α波の変化
中年者の場合は、α波帯域の内10Hz前後であるが、高齢者の場合には、8Hzより低周波化した。また、β波は高齢者の方が中年者よりも出現率が高かった。精神活動中のα波とβ波の比率および積分値からの電位分布は、高齢になるほど類似した傾向を示した。
その結果、高齢者になる程α波帯域が低周波数側に偏ることは、前頭野領域の皮質細胞の欠落によることが考えられる。また、β波帯域の活動が増加してくる傾向を示したことは、その皮質細胞内の抑制の働きが低下し、興奮性のゆらぎが増加している可能性を示唆している。
5.高齢者の腰痛予防装具の検討
端座位、あぐらや長座位において腰椎は後彎する傾向がある。ここで腰椎前彎(骨盤前傾)位を保持するためには、背筋群の筋収縮が必要になる。バックアップの予防装具は、簡素な造りにも関わらず、立位における腰椎の生理的前彎を、座位でも保持させることによって腰痛の予防に効果が期待される。この装具の使用で、座位姿勢の持続性の向上や、背筋群の過剰な収縮を抑制することになるだろう。
結論
軽い運動(ウォーキング)負荷中の心電図RR間隔変動のゆらぎから、自律神経機能バランスを分析し、個人の運動感覚や快適な運動印象を客観的に評価した。そして 運動習慣によってもたらされる心臓の反射性神経調節機構の改善について、運動習慣群と非運動習慣群および患者群のHRTCを比較検討した。
一方、糖尿病患者群のそれは、加齢に伴った延長傾向がみられ、健常者群よりも高い値であった。
平衡機能の測定からみて、高齢者は一定以上の頻度と機関にわたる平衡運動を必要とし、さらに運動に対応した選択的な生活体力の維持・増進の効果が得られる可能性がみられた。そして転倒に対する教育や運動指導が転倒の可能性を低下させることなどが示唆された。
高齢者の生活範囲と活動レベルに大きな影響を与える平衡機能の測定によって、転倒との関連についての資料が得られた。その結果、加齢に伴い低下する平衡機能の要素は異なり、静的姿勢保持力よりも外乱負荷応答や随意運動で転倒との関係が強かった。
高齢者の脳波測定においては、加齢に伴うα波とβ波の比率変動およびそれらの分布変化を簡易型卓上式脳波計を用いて、長谷川式知能テストで聞き取りをしながら脳波を記録することができた。高齢者のうちでも年齢が高い程、α波成分は遅い周波数成分に偏る傾向を示した。
腰痛予防装具の検討において、装着時にベルトの腰部の支持部が、腰椎部に当たるべきところが、ベルトが下がって骨盤帯を支持する形になった。この装具は、腰部の支持が十分に得られない可能性がみられた。その結果、常にベルトの高さを維持するような改良型も開発する必要があると考えられる。

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