移動ミニジムを利用した生活習慣改善指導事業のパソコンネットワークによる支援と管理(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900815A
報告書区分
総括
研究課題名
移動ミニジムを利用した生活習慣改善指導事業のパソコンネットワークによる支援と管理(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 裕行(石川県能登中部保健所羽咋センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田嶋隆俊(石川県保健環境センター)
  • 菊地修一(石川県石川中央保健所河北センター)
  • 南睦男(石川県厚生部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣に問題がある者は成人の 50%にもみられ、住民の健康管理上の重要な課題となっている。60歳未満では食べ過ぎなどの食生活の偏りと運動不足の両方が、60歳以上では主として運動不足が問題となっている。平成10年度から、公民館などにダンベル・バーベルなど数種類の運動機器を設置した移動ミニジムを開設し、ストレッチ・徒手筋力トレーニングなどの手軽におこなえる運動と、食事記録に基づく食事指導(運動・食事指導を健康運動指導と呼ぶ)を開発してきた。平成11年度は、健康運動指導による生活習慣の改善効果(行動変容)の評価を健診データの変化、生活習慣についてのアンケート結果の2つの指標から試みた。また、移動ミニジムによる健康運動システムを普及させるために、指導内容をまとめた健康運動テキスト、指導の実践状況を記録する生活習慣日記を作成し、生活習慣改善指導事業の支援について検討した。
研究方法
移動ミニジムによる健康運動指導には健診から生活習慣の改善指導が必要と判定された者を対象とした。平成10年度の参加者は32名、平成11年度は23名であった。指導が必要と判定された理由には、肥満、血圧が高い、血中コレステロールが高い、あるいは、血糖値が高いなどがあった。移動ミニジムでの健康運動教室(1回に2-3時間)に4回以上参加させ、生活習慣の問題点の分析と食事・運動指導を栄養士、保健婦、健康運動指導士、医師がチームを組み個別指導した。移動ミニジムには、ダンベルセット(1-5kg)50組、バーベルセット(5-40kg)2組、ベンチプレス台(レッグエクステンションも含む)2台、シットアップ台2台、姿見1台、ステッパー2台、エルゴメーター1台、万歩計50個、自動血圧計20台(オムロンデジタル自動血圧計HEM-722C)、ハートレイトモニター20個(ポーラーハートレイトモニター:ビート;キャノントレーディング株式会社)を設置した。食事指導は、自分の食べた食事を食事分析シートに記録させ、それを基に指導した。料理を、主食、主菜、副菜、汁物、間食の5つに大きく分け、更に、主食は、ごはん、めん、パンの3種類に、主菜は、なま物、いため物、あげ物、焼き物、むし物、煮物、なべ物の7種類に、副菜は、なま物、いため物、煮物、ひたし、あえ物、酢の物・つけ物の6種類に、汁物は1種類に分けた。また、間食は、乳製品、果物、菓子(菓子パン)、ジュース、アルコールの5種類に分けた。更に、市販の料理栄養評価データベース、[目で見る食品カロリー辞典 おかず・素材編、市販食品&外食編:1999、上村泰子監修;学習研究社]、食事記録用テキスト、万歩計、デジタル料理はかり(デジタルクッキングスケール 1145ミード・B;タニタ)を貸し与え、食事の料理名とその量、食材名とその量、料理のエネルギーなどを記録させた。運動指導には、日常の身体活動の分析から生活活動強度を求め、強度が中等度(0.5)以上になるように、例えば、家の中で座らず立つ、買い物には歩く、庭仕事をする、散歩をするなど具体的に指導した。ストレッチは肩、腹、背部、大腿前面、後面、側面を中心に10-12種類の体操を指導した。筋力トレーニングとしては、徒手筋力トレーニング(器具を使わない)、ダンベルやセラバンドチューブを使ったトレーニングを指導した。徒手筋力トレーニングは腹筋と大腿四頭筋を中心に3-4種類(例えば、シットアップ)、ダンベルトレーニングは1-2kgのダンベルを使用し、上腕と肩の周囲の強化を中心に、セラバンドチューブはストレッチの補助や大腿四頭筋など下肢の筋力トレーニング
に用いた。トレーニング方法を示したストレッチ・ダンベルトレーニングのポスター、ダンベル、セラバンドチューブをわたし、家庭でのトレーニング継続を促した。また、珠洲の健康な老人23名の日常の食生活や運動習慣の管理方法などをまとめた珠洲健康談話冊子(平成10年度厚生科学研究補助金により作成)を配布し、健康管理の動機づけとした。ストレッチやダンベルトレーニングの際には、デジタルビデオカメラでトレーニング姿を撮り、姿勢に問題がないかチェックした。間違った姿勢はディスプレイで説明し、姿勢の矯正を図り、トレーニングによる事故を予防した。移動ミニジムでの指導を終了した者には、運動習慣を継続するために、温水プールを持つ運動施設に開設したセラバンドチューブやダンベルを使った健康体操教室,水中ウォーキング教室への参加を促した。平成10年度の健診で血中総コレステロールが200mg/dl以上と高く、生活習慣の改善が必要と判断され、移動ミニジムで健康運動指導を受けた者は25名いた。その25名の2ヶ年の健診データを比較した。また、生活習慣についてのアンケートを指導終了後(平均3-4ヶ月)郵送し、調査分析した。アンケートには、健康運動指導内容の理解度や実践状況なども加えた。回答結果から食、運動、休養の習慣を質問の回答に点数をつけスコア化し、健康運動指導による生活習慣の改善効果を分析した。更に、スコアを比べる対照として平成11年度の健診で生活習慣の改善指導が必要と判定されたが、指導を受けなかった者29名にも同様のアンケート調査をした。
結果と考察
平成10年度に移動ミニジムでの健康運動指導を受けた者は翌年の健診での血中総コレステロールは、約16mg/dl低下していた(p<0.05)。中性脂肪、HDLなどには変化はなく、総コレステロールだけが低下していた。生活習慣は、10-50%の者が食、運動、休養ともに改善したと答えた。しかし、生活習慣をスコア化し、指導を受けなかった者との比較では、有意な差はみられなかった。また、指導内容の理解度、実践状況などは、内容は概ね理解していたが、実践には不充分な点が多かった。生活習慣改善指導は習慣の行動変容を目的とすることから健診データの変化を指導効果の指標とすべきであると考える。生活習慣を効果的に改善するためには、健康運動指導と並行して地域全体で運動指導を支援する体制の確立が不可欠である。今後、運動・体育施設、健康クラブの運動指導、あるいはスポーツ指導担当者に健康管理としての運動の理解を深め、連携を図り、指導情報の共有化などの担当者間の情報ネットワークを構築することが課題となる。
結論
平成10,11年度の2ヵ年にわたって、簡便なトレーニング機器を設置した移動ミニジムを公民館に開設し、生活習慣の改善が必要と判定された住民(平成10年度32名、平成11年度23名)に健康運動指導(食事指導と健康管理としての運動指導)をおこなった(4-5週間、週に1-2回)。健康運動指導による生活習慣の改善効果を、血中総コレステロールの高かった者の健診での値の変化と、生活習慣の変化から評価した。生活習慣の変化は、生活習慣についてのアンケート回答から分析した。平成10年度の健診で血中総コレステロールが高かった(200mg/dl以上)者の値は231.9±31.5(n=25名、平均値±標準偏差)から平成11年度には216.3±32.0(平均値±標準偏差)と16mg/dl低下した(p<0.05)。生活習慣を食、運動、休養で分析したが、いずれも10-50%は改善したと答えた。移動ミニジムによる健康運動指導には生活習慣の改善効果が認められた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-