生活習慣に起因する疾病の、生活習慣の改善による一次予防法確立のための運動・栄養・疲労回復の相互作用に関する統合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900814A
報告書区分
総括
研究課題名
生活習慣に起因する疾病の、生活習慣の改善による一次予防法確立のための運動・栄養・疲労回復の相互作用に関する統合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
西牟田 守(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣に起因する疾病の発症、進展の機序は必ずしも明らかではないが、健康に好ましい生活習慣、逆に、健康に好ましくない生活習慣については、おおよその枠組みが捉えられている。本研究では、生活習慣のうち、健康に好ましくない因子(危険因子)を人に負荷し、その生体反応と、回復過程を把握することによって、体内の物質代謝を動的に捉える。具体的には、負荷による必須20元素の体内移行と、体内への吸収、体外への排泄を測定し、過不足の起こる元素を明らかにし、過不足が起きる部位(臓器)を特定する。次に、過不足の起きている部位で、過不足が起きている元素を正常化するための、運動、食事等のメニューを、これまで知られている健康に好ましい生活習慣をもとに開発し、健康指標の改善(疲労回復)を確認する。
これらの研究過程において、過不足の起こる元素、および、部位が特定できるので、過不足のある元素の食事による摂取管理、過不足の起きている部位の活性化による過不足の解消に関して、具体的に方策を提案することを目的とする。
研究方法
大学生女子12名を対象に、国立健康・栄養研究所に宿泊させ、一日当たり、エネルギー:1800kcal、脂質エネルギー比35%以上、カルシウムは所要量を充足させない食事を摂取させ、15日間の代謝実験を実施し、14日間の尿中ミネラル排泄量、3回の基礎代謝等を測定した。出納期間のうち、3日間は、午前と午後に各3時間のストレス(寒冷暴露、単純計算、拘束)を負荷し、ストレスが尿中ミネラル排泄に与える影響について経時的に検討を加えた。また、これまでに集積した86例のカルシウム出納試験の成績を解析し、カルシウムの出納が正になる因子を抽出した。
結果と考察
その結果、ストレス負荷後の基礎代謝変動には個人差があり、全体では有意な変化は観察されなかった。また、カルシウムの摂取量が少ないにも拘わらず、尿中カルシウム排泄量は低下しなかった。さらに、ストレスによるナトリウム排泄の変化とカルシウム排泄量の変化とは相関せず、異なる機序が想定された。
蓄積データ(n=86、男:23、女:63)の解析により、カルシウムの摂取量8.13~23.58mg/kg/日の範囲(20代男子で500~1500mg/日、女子で400~1200mg/日に相当)では摂取量と出納との間には有意な相関は認められなかった。また、カルシウムの出納と最も相関が強かった評価項目は見かけの吸収率であった。
カルシウムの摂取基準は平成12年度から30歳以降では男女とも600mg/日と策定された。この値は、該当年齢の国民のほぼ全てが骨塩を維持させるための値とされているが、一般的には、カルシウムの摂取量を高めることで骨塩の維持が出来ると期待されている。
本年度の研究結果からは、カルシウムの摂取量が低下しても、尿中カルシウム排泄量が低下しない場合があることが明らかになった。また、カルシウムの出納は、カルシウム摂取量に相関するのではなく、見かけの吸収率に相関することも明らかになった。
このことは、骨塩低下の予防には、カルシウムの摂取量を確保するだけではなく、カルシウムの吸収が高まるような身体づくり、環境づくりも重要であることを、科学的根拠をもとに示したことになる。
結論
生活習慣病と関連する運動や休養、食事因子の中で、カルシウムの摂取量が多ければよいという一般的な考え方がある。しかし、その根拠は、日本人を対象にした科学的観察によるものではない。また、カルシウムの摂取量を多くしても骨塩の低下を阻止できないという報告もある。
本研究でカルシウムの摂取量を所要量の基準値以下に設定し、カルシウム排泄が多くなる条件でカルシウムの尿中排泄を測定した。その結果、カルシウムの摂取量が少なくても、尿中排泄が大きくは減少しないことが明らかになった。また、これまでの蓄積データを本年度に解析した結果から、カルシウムの摂取量を多くしても蓄積量は増加しないことが明らかになった。また、カルシウムを蓄積させる要因として、カルシウムの見かけの吸収率が高いことが最も重要であると判明した。
したがって、骨塩を保持するためには、カルシウムの摂取だけではなく、適度な運動や楽しい食事などカルシウムの吸収がよくなる環境づくりも大切である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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