高齢者の健康寿命を延長するための手法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900813A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の健康寿命を延長するための手法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉武 裕(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 徳山薫平(筑波大学)
  • 浅井英典(愛媛大学)
  • 新開省二(東京都総合老人研究所)
  • 川久保清(東京大学)
  • 田中宏暁(福岡大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会に突入したわが国においては、75歳以上の後期高齢者の増大による虚弱高齢者や要介護者の増大が危惧されている。しかし、高齢者の大部分は要介護認定を受けず、自立した生活を送っていることが報告されている。このこようなことから、これからの高齢者対策の1つとして、介護を必要としない高齢者の自立期間をできるだけ長くすること、つまり健康寿命の延長が重要となる。
しかし、高齢者の身体的自立に必要な体力水準およびその保持・増大のための手法については明らかにされていない。
そこで昨年度は、高齢者の自立に必要な体力目標値を提示した。さらに、一般高齢者に対する軽運動や身体活動の筋量と骨密度の保持効果ならびに虚弱高齢者に対するレクリエーション活動の体力向上について明らかにした。
本年度は、さらに虚弱高齢者や地域在住の一般高齢者の日常生活活動状況、日常生活動作遂行能力及び体力を調査するとともに、これらの相互関連から健康寿命の予測因子を明らかにすると同時に、虚弱高齢者と一般高齢者に対するレクリエーション活動や軽運動の身体的自立、体力および体組成(筋量、骨密度、脂肪量)などの身体面や精神面への影響についても検討する。
研究方法
1.体力からみた高齢者の健康寿命の予測因子について
1)地域在住の80歳高齢者1,813名(男性710名、女性1,103名)を対象に体力と日常生活動作遂行能力との関係について検討した。
2)基本的ADL5項目すべてに自立していた地域高齢者736名(年齢:65~89歳)の6年間を追跡調査し、その間の体力の変化について検討した。
3)都市部高齢者80名(男性33名、女性47名、平均年齢74.8±6.9歳)を対象に、問診、ADL調査、体力測定を行い、転倒と体力および手段的ADLとの関連について検討した。
2.虚弱高齢者の健康寿命の保持・延長について
施設(ケアハウス)入居高齢者30名を対象にトレーニング(レクリエーション活動とレジスタンス、ストレッチなどの軽運動)の手段的ADL、老研式活動能力指標、体力および精神的レベルへの影響について検討した。トレーニングは1週間に2回、10ヶ月実施し、トレーニングの体力および身体的自立度への影響について検討した。
3.高齢者の身体活動の筋量と骨密度への影響について
1)中高年テニス愛好者196名を対象に、従来のDEXA法では測定できない骨の3次元構造の解析が可能なpQCT法を用いて長期間運動習慣(中高年テニス愛好家)の骨構造(海綿骨と皮質骨の体積骨密度、皮質骨、骨内膜周囲長、骨外膜周囲長、力学的特性など)への影響について検討した。
2)フィットネスクラブで平均7年間軽強度の有酸素性トレーニングを継続している中高年者男性18名(47~88歳)と女性10名(49~73歳)を対象に軽強度の長期間運動トレーニングの筋量、筋力、骨密度への影響を検討した。
結果と考察
研究結果=1.体力からみた高齢者の健康寿命の予測因子について
1)地域高齢者において、体力測定項目の中で開眼片足立ち時間は前期および後期高齢者の将来のADL障害の発生が少なかった。
2)地域の80歳高齢者において、下肢筋力に優れている者ほど、日常生活動作遂行能力に優れていた。また、80歳高齢者の身体的自立の体力目標値として、脚伸展パワーは男性では9W/体重kg女性では6W/体重kg、脚伸展力は男性では0.9kg/体重kg、女性では0.7kg/体重kgであった。
3)都市部高齢者において、歩行能力と転倒との間に有意な関係が認められた。また手段的ADLは、前期高齢者では重心動揺の安定性と歩行能力、後期高齢者では筋力と歩行能力との間に関連性が認められた。
2.虚弱高齢者の健康寿命の保持・延長について
施設入居高齢者に対するトレーニングは体力、手段的ADL、高次の生活機能、抑うつ度などに一定の改善効果が認められた。
3.高齢者の身体活動の筋量と骨密度への影響について
1)テニス愛好者では、利き腕の骨密度は骨端部の海綿骨において体積密度の増大が男女、年齢を問わず認められた。しかし、対象者においてはそのような左右差は認められなかった。
2)女性において、運動時間と骨密度および脚伸展力との間に有意な相関関係が認められた。
考察
1.体力からみた高齢者の健康寿命の予測因子について
在宅高齢者では、前期および後期高齢期を問わず、開眼片足立ち時間が長い者ほど基本的ADLにおける非自立(ADL障害)の発生が少なかった。また、手段的ADLと歩行能力、重心動揺、筋力との間に関連がみられたが、これらの関連は前期高齢者と後期高齢者ではやや異なる傾向にあった。一方、80歳高齢者においては、下肢筋力は日常生活動作遂行能力と有意な相関関係が認められた。
以上の結果から、立位バランス能、下肢筋力、歩行能力および全身持久力は高齢者の身体的自立の指標として有用であることが示唆された。また、80歳高齢者おける身体的自立に必要と思われる筋力水準は、脚伸展パワーは男性では9W/体重kg女性では6W/体重kg、脚伸展力は男性では0.9kg/体重kg、女性では0.7kg/体重kgと推定された。
2.虚弱高齢者の健康寿命の保持・延長について
虚弱高齢者に対するトレーニングは体力、手段的ADL、高次の生活機能、抑うつ度などに一定の改善効果が認められた。しかし、これらの効果はトレーニング開始3ヶ月でプラトーになることが明らかにされた。
3.高齢者の身体活動の筋量と骨密度への影響について
1)成長期が過ぎた中高年においても、長期的間の運動習慣が骨強度を増大させ、骨鬆症の予防として効果がみられた。しかも、骨の適応は大きな力のかかる部位と小さな力しかからない部位とでは異なる可能が考えられる。
2)女性において、運動時間と骨密度および脚伸展力との間に有意な相関関係が認められた。しかし、週あたりの運動時間を補正すると年齢と骨密度および骨量/体重の間には有意な相関関係がなくなった。このことから、軽強度(速歩程度)の運動は、加齢に伴う筋量(および筋力)および骨塩量の低下を遅延させる可能性があることが示唆された。
結論
本研究により下記のことが明らかになった。
1.80歳の在宅高齢者において、下肢筋力は身体的自立の指標として有用であり、それに必要な体力水準が明らかにされた。
2.地域在住の高齢者において、開眼片足立ちは前期および後期高齢者の将来のADL障害発生の予測因子として有用であることが明らかにされた。
3.都市部高齢者において、歩行能力は重心動揺の安定性、筋力、転倒および手段的ADLとの間に関連性が認められたが、これらの関連性は前期高齢者と後期高齢者では異なる傾向であった。
4.虚弱高齢者においては、週2回程度の低強度で低頻度のトレーニング(レクリエーション活動とレジスタンス、ストレッチなどの運動)による 体力、手段的ADL、高次の生活機能、抑うつ度などに一定の改善効果が認められた。
5.長期間の運動トレーニングは骨強度(pQCT法)を増大させるが、その適応は骨の部位により異なることが明らかにされた。
6.軽強度(速歩程度)の有酸素運動トレーニングは加齢に伴う筋量(および下肢筋力)および骨塩量の低下を遅延させる可能性があることが示唆された。

公開日・更新日

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