DALYによる国民疾病負担の再評価に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900812A
報告書区分
総括
研究課題名
DALYによる国民疾病負担の再評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 勝美(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 池田俊也(慶應義塾大学医学部)
  • 濱島ちさと(聖マリアンナ医科大学)
  • 岡本直幸(神奈川県立がんセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の健康づくり運動として、健康日本21が本年4月より開始される。この運動の特徴は、国民の健康負担をて定量的に把握して、必要な保健サービスを提供することにある。保健事業の第一歩として、対象地区の健康負担の程度を定量的に把握する指標として、DALY(Disability-adjusted life years)が提唱されている。保健サービスを選択するに際しては、一定以上の疾病負担量が存在しているとともに、保健サービスの介入により疾病負担の改善が期待されるかが判断根拠になる。DALYは、Murrayにより提唱されたGlobal burden of diseases(GBD)を評価するための指標であり、損失生存年数(Years of life lost due to premature death)と障害共存年数(Years of life lived with a disability)を併せた複合健康指標である。DALYでは、死亡と障害を一つに指標として表現しているが、対象疾患の障害分類がわが国国内での疾病負担を把握する場合に問題になることが指摘されており、本研究ではわが国の疾病構造を考慮して保健サービスを提供する上で必要とされる障害分類について検討することを目的としている。
研究方法
本年度は、Murrayらにより開発されたDALY(Disability adjested life years)は、国際間での疾病負担を比較評価し、医療資源を配分する指標として有用視されている。しかしながら、DALYを構成する障害生存年については、障害分類による重み付けについて問題視議論されているところである。ことに、我が国のような先進諸国における疾病負担を考える場合には、現在のDALYによる障害分類では問題を表現できないことが指摘されている。そこで、本研究では、昨年度は従来のDALYの障害分類による問題点を整理するとともに、癌患者を対象として疾病負担の現状を客観指標から算出するためのフィールド調査環境を構築してきた。
院内がん登録と院内情報とのマッチングを行い、疫学解析が可能な環境を整備した。
神奈川県立がんセンター外来受診 2372例について、EuroQOLおよびSF-36の2種類のQOL調査票を配布し、2070例の回収を得た。
院内がん登録とアンケート回収症例とのマッチングを行い、最終的に1361例の解析対象を得た。
池田班員は、EuroQOLの結果をタリフおよびVAS(visual analogue scale)を指標として、性別、年齢、部位別癌、術後年数などとの関係を疫学的に検討した。
池田班員は、あわせてDALYの障害分類を決定した person-trade offによる障害分類の批判を文献的に整理した。
濱島班員は、person-trade offによる障害分類のついて、専門家へのインタビュー調査をもとに簡便計測する方法を検討した。原法で対象となる22疾患について、個別に順位つけを行う方法、7グループに分類し順位つけする方法などを比較してもらい、グループ化が再現性も高く、順序付けの代替法として有用であることを明らかにした。
岡本班員は、在宅療養中における疾病負担の変化を諸指標との関連で検討することにより、障害分類決定に影響する要因を疫学的に明らかにした。関連要因として、宿主要因としてエゴグラムや日常意識や行動、環境要因として生活習慣や食品摂取状況などを用いた。
結果と考察
DALYの障害分類は、専門家のperson-trade off法によって決定されたものであり、患者サイドのquality of lifeを考慮した指標から演繹することが可能であるか否かを検討した。
EuroQol EQ-5Dは、国際的に利用されているQOLならびに障害度に関する質問表であり、5D(5項目法)ならびにVAS(視覚評価法)から構成されている。今回は、がん患者1222名に対して実施したEuroQolの調査結果を用いて、がんの部位ならびに術式、手術からの期間と、QOLや障害度との関係を検討した。
外来癌患者を対象として、EuroQol EQ-5Dを実施して、部位別癌と術後期間などを検討したところ、ほぼ妥当な結果が得られ、今後quality of lifeからDALYの障害分類を作成するための資料となりうる可能性が示された。
DALYにおけるdisabilityはPTOによる評価に基づいているが、一般の臨床医の感覚とはなじみにくいものになっている。そこで原法の22疾患を7段階にわけ障害度を評価する簡便法を開発した。方法は、22疾患のカードを渡し、分類の立場や理由を限定せずに作業を行ない、政策者の立場に限定し、修正を加えて障害順位とdisability weight を決定したものである。その結果、22疾患および胃癌治療後のdisabilityについて、比較したところ、Murrayの原法と有意差を認めず、簡便法による評価は原法との相関も高く、臨床医の理解を得られやすいものであった。
がん医療の進展や早期発見技術の開発・向上によってがん患者の生存率の延伸も計られているが、この生存率が上昇することによって、再発や第二、第三のがんに罹患する機会も大きく増大したと考えられる。この再発や重複がんの発生は疾病負担の割合を変化させ、医療資源に影響するものである。在宅乳癌患者に対して追跡調査を行い、生活習慣の相違による疾病負担割合を推測する目的で行った。
その結果としては、患者に特有のものとしてエゴグラムによるFC得点が低いこと、環境問題に関する関心が薄いこと、タバコの関する意識は正確な情報もとに構成されていること、また、運動に関しては、がん患者であるためか、あまり実施されていないことが示された。
この調査からは、疾病負担割合を推測する結果は得られていないが、今後、両グループをコホートに設定し、追跡を継続することによって住民からのがん発生や患者からの再発や重複がんの発生を観察することによって、適切な資料が確保できるようになるものと期待している。
以上の成果より、保健サービスの効果的な提供を図るためには、対象とする集団の疾病負担を適格かつ定量的に把握する必要がある。国際的には、MurrayによるDALYが受け入れられているものの、先進諸国の疾病負担に適しているとは言えない。この点から、本研究はわが国の「健康日本21」の地方計画を立案する際に、適切な疾病負担の定量的な把握ができるよう、DALYの障害分類の適切な設定について検討を行った。
国内での比較に関して、わが国での疾病構造上、悪性新生物の疾病負担を定量的に把握することが望まれる。この点で、本年度は、外来癌患者を対象として、標準的なEuroQol EQ-5Dを用いて部位別癌と術式、術後期間が及ぼすquality of lifeの実態を把握して、わが国の癌患者の実態に即した障害分類を提案することにある。また、在宅癌患者を対象として、日常の生活態度、食品摂取状況、喫煙、運動習慣、エゴグラムを指標として、地域一般住民との比較を行い、疾病負担関連因子を明らかにした。
Murrayによる障害分類は、専門家によるperson-trade off法により決定されているが、一般臨床医の臨床感覚と乖離しており、わが国の疾病負担を把握する上でも新たな障害分類測定法が提案されることが期待される。
保健サービスを提供するためには、対象集団の疾病負担を的確に捉える必要があり、従来DALYの複合健康指標が採用されてきたが、慢性疾患が主体を占めるわが国においては従来の障害分類で疾病負担を定量化することは限界があった。
本研究で、癌患者におけるQOLをもとに障害程度を定量化する可能性を認めたことにより、今後患者情報をもとに障害共存年数の障害尺度を作成することが期待される。また、影響因子として、術式や術後年数が影響していることが示され、今後対象集団の疾病負担量の把握する上でも、詳細なデータを収集する必要性が示唆された。
結論
健康日本21を中心とする保健サービス事業を展開するに際して、対象集団の疾病負担を定量的に把握する必要があり、本研究においてDALYの障害分類をわが国の専門家意見を介して、患者の持つQOLを介して算出する方法を検討した。
わが国の保健医療の現状を踏まえた疾病負担を把握することで、地方計画策定に際して客観性の高い指標を用いて検討できるものと期待される。

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