健康づくりにおける身体活動の効果とその評価に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900810A
報告書区分
総括
研究課題名
健康づくりにおける身体活動の効果とその評価に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
太田 壽城(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岡田邦夫(大阪ガス株式会社)
  • 前田清(愛知県健康づくり振興事業団)
  • 衛藤隆(東京大学大学院)
  • 石川和子(国立健康・栄養研究所)
  • 内藤義彦(大阪府立成人病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、身体活動の効果を疾病の発症予防、疾病の改善と進行の抑制、若年者の身体活動能力の向上、高齢者の健康度の向上などから検討すること、及び身体活動量の把握において適切な指標づくりのための評価を行うことである。
研究方法
各研究者の有するコホートデータおよび断面研究データを整備し、異なった対象、身体活動について、身体活動と臨床検査値、疾病の発症、身体能力の関連を検討した。対象者は、観察研究約1万名、介入研究185名、断面研究約700名である。
結果と考察
太田は、同一企業の男性労働者3,106名に、4年間の観察研究を行い、新規高血圧発症と身体活動との関連を検討した。その結果、定期的運動の頻度が週3回をこえた者、一日の歩数が8000歩以上の者、勤務中立ち仕事が多い者で、それぞれ新規高血圧発症の相対危険度が、0.39(95%CI: 0.16-0.94、vs. 定期的運動なし)、0.67(95%CI: 0.48-0.92、vs.4000歩未満)、0.76(95%CI: 0.58-0.98、vs. 座位)と低く、日常の歩行や勤務中の作業状況のような、軽度な身体活動でも高血圧発症予防に有効であることが認められた。
また、185名の中高年者を対象者に、運動開始前の血圧とその後の血圧変化の関連について検討する目的で8週間の運動プログラムによる介入研究を行った。開始前の収縮期血圧から7群、拡張期血圧から5群に分類し、血圧、体重、栄養素摂取量の経時的変化を観察したところ、収縮期血圧の上位4群と、拡張期血圧の上位2群でプログラム終了時に有意な血圧低下が認められた。開始前の値が高いものほど低下量が大きく、収縮期血圧が140-149mmHgの場合で7.0mmHg、150-159mmHg、160mmHg以上の場合でそれぞれ11.4mmHg、15.7mmHgの低下が認められた。また、拡張期血圧が90-99 mmHg、100 mmHg以上の場合では、それぞれ6.6 mmHg、10.1 mmHgの低下が認められた。血圧低下は特に運動開始から4週間以内で大きく、収縮期血圧が150-159mmHgの場合で、第4週時点で終了時の71%、拡張期血圧が100mmHg以上では86%まで改善していた。
さらに、30歳代~60歳代の成人709名を対象に、日常生活の歩数及び運動習慣と、健康関連体力指標であるpeakVO2、換気性閾値(VT)及び脚伸展パワーの関係を検討した。その結果、1)運動習慣、歩数は体力指標と正の相関を示し、2)性・年齢別では、すべての性・年代グループで、peak VO2とVTは「定期的運動」群が「運動しない」群より有意に高く、3)運動習慣がない群では歩数とVTが深い関係を示した。
岡田は、35歳から60歳の企業労働者6,013名を対象とした長期コホート研究の結果を解析した。その結果、1週間に1度以上の積極的な運動をする群では、しない群に比し、多変量補正後の2型糖尿病発症の相対危険度は0.75(95% CI, 0.61-0.93)で有意に減少した。また、平日に積極的な運動をすると報告した1659名を除いて検討したところ、週1回休日のみに積極的な運動をする群では、しない群に比し、相対危険度は0.55(95% CI, 0.35-0.88)で有意に減少していた。
前田は、地域の高齢者69名を対象に3カ月間の運動教室を開催し、教室前後の身体的、精神的健康、生活満足度等の変化を検討した。参加群は教室前後で血圧、中性脂肪が有意に低下し、HDLコレステロール、脚伸展パワーは有意に上昇した。満足度は参加群でわずかながら向上し、特に精神的健康や活力での変化が大きかった。高齢者に対する心身への適度な刺激は、健康状態の改善、さらには精神状態の向上など、高齢者の心身の健康づくりに寄与することが示唆された。
衞藤は、中・高等学校生徒684名を対象に、日常的運動習慣の実際について調べ、各個人の身体的特徴(身体サイズ、体力・運動能力)との関連を検討した。運動系の部の所属者は、女子より男子の方が多く、体育の授業や部活動以外にも自主的に運動しており、運動をしない者との差が大きくなっていると思われた。体格については、運動部所属者と非所属者に有意差はあまりみられなかったが、皮下脂肪厚は、運動部所属者の方が値が低く、身体活動量の違いが現われていると考えられた。一方、体力・運動能力は、運動部への所属、非所属によって有意な差がみられ、特にPWC150、持久走、などの有酸素能力や50m走、ソフトボール投げで顕著であった。
石川は、20~39歳の女性197名と40-67歳の女性252名を対象に1年間の骨量の変化に与える運動習慣の影響を検討した。骨量の評価は、20~39歳の女性には超音波法による踵骨の骨量、40歳以上の女性にはCXD法による第二中手骨の骨量を用いた。20-39歳の女性では、1年後に運動習慣のある者では、運動習慣のない者に比べ有意に骨量が増加した。また、運動習慣が「あり」から「なし」に変わった者の骨量は減少した。40歳以上の女性では、閉経前では1年後に運動習慣のあった者、運動習慣の継続した者、観察期間に運動を開始した者では骨量が増加した。閉経後0-6年でも、1年後に運動習慣のあった者で骨量の減少が小さく、初回1年後とも運動習慣のない者で減少が大きかった。閉経後7-15年では、初回または1年後に運動を実施している者で骨量の減少は小さかった。閉経後女性でも運動習慣のある者で骨量の減少が抑えられる傾向がみられた。
内藤は、女性の身体活動状況を把握するための質問票を開発、妥当性を検討した。加速度センサー付歩数計を8日間装着し各日の歩数および消費エネルギー量、運動量を自己記入してもらい、身体活動に関する質問項目との関係を求めた。その結果、歩数はBMI、皮下脂肪厚、骨強度と関連していた。歩数と有意な関係を示す質問項目として、身体活動量に関する自己評価、週あたりの掃除回数や洗濯回数が認められた。また、歩数を目的変数として身体活動の質問項目について重回帰分析をおこなったところ、週当たりの洗濯回数、身体活動の自己評価、家で歩く時間、週当たり掃除時間、運動時間が抽出された。家庭にいる主婦の身体活動量の差には家事労働がかなり関与していることが示され、家事労働も考慮した身体活動指導が行われるべきと考えられた。また、身体活動に関する自己評価は、簡便かつ汎用性のある有用な質問内容であると考えられた。
結論
身体活動の増加により1)高血圧、2型糖尿病の発症の抑制、2)高血圧の改善、3)高齢者の精神的健康の向上、4)成人・中高校生の有酸素能力の向上、5)閉経後女性における骨量減少の抑制が認められた。これらの結果は、日本人において身体活動が各種生活習慣病、高齢者のメンタルヘルス、体力に効果があることを示す。
一方、これらの効果と関連する身体活動には、定期的運動の実施、休日の活動量、歩数、勤務中の活動量、体育系運動部への参加の有無などがあり、把握する効果や対象によって影響する身体活動の種類、強度、頻度などが異なっていた。また、女性の身体活動度の把握には、家事労働を把握することが重要で、特に掃除、洗濯などが大きく関連していた。これらの結果は幅広い身体活動の把握の必要性を示した。また国内においては身体活動量の適切な質問紙が未だ開発されておらず、どのような指標を用いるかの選択を検討していく必要がある。

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