健康日本21計画の基本概念と推進手段に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900809A
報告書区分
総括
研究課題名
健康日本21計画の基本概念と推進手段に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 敏彦(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長)
研究分担者(所属機関)
  • 高本和彦(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部主任研究員)
  • 久保内智子(国立医療・病院管理研究所医療政策研究部協力研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年は、「健康日本21」の策定のまとめとして、5つのテーマに区分し2年度用の計画を執行した。
(1)その基本的な概念、特に計画の最終的な目的である健康概念を確立すること、
(2)「健康日本21」で取り扱うべき健康問題の優先性の決定、
(3)具体的な推進方法の提示、
(4)地方での計画策定を含めた計画の策定、実施、評価のプロセスの提示、
(5)諸外国の健康政策のわが国での応用と比較、を目的にしている。
この目的にしたがって、(1)健康概念の整理と基本概念の提唱、(2)健康問題の定量的分析、(3)ソーシャルマーケティング、(4)計画策定論、(5)海外健康政策の分析、の5つのテーマに区分し研究を進めた。
研究方法
以下のような研究方法で行った。
1)健康概念の整理と基本概念の提唱
5つのテーマについて、文献検索、研究分析を行った結果、以下の10点について、「健康日本21」計画の基本概念と推進手段について提言をすることが可能となった。
2)健康問題の定量的分析
協力研究者の平尾らは、生命表を用いて、人口動態統計、患者調査、国民生活基礎調査、国民栄養調査、障害者調査等から、実際の計画策定に際して、健康概念を応用する方法について分析した。
3)ソーシャルマーケティング
協力研究者の永田らは、喫煙、飲酒、休養、栄養、医療に関する歴史的出来事との関係を分析し、各世代の健康に関する意識と行動に関して検討した。また、インタ-ネットを含めて、各世代に有効なチャンネルについて考察し、さらに社会マーケティングの概念の再定義を試みた。
4)計画策定論
他諸計画と「健康日本21」の政策的位置付け、特に軍事や経営で用いられる戦略計画の概念の本計画への応用を試みた。計画の策定論、戦略および評価方法について、文献的に調査し、具体的な計画策定のプロセスについて提言した。
5)海外健康政策分析
協力研究者の岡村は昨年度に引き続き計画策定、最終的段階にあるアメリカ(「Healthy People 2010」を現地調査した。また、協力研究者の近藤もイギリスも引き続き(「Our Healthier Nation」)の内容について、協力研究者の藤沢はニュージーランドの目標?理念健康政策について現地調査し、その情報を入手・分析し今後の「健康日本21」における適応について検討した。
外国人研究者招聘事業により、米国「Healthy People」の創設者マクギニス氏を日本に招待し、「Healthy People」の創作過程から現在進行中の「Healthy People 2010」の策定課程について意見を交換をし、さらに「健康日本21」に関する比較研究を行った。
結果と考察
以下のような結果と考察が得られた。
1)健康概念の整理と基本概念の提唱
世代や年齢ごとに健康の概念は異なっており、またこれからの日本はさまざまな異なった価値観を持つコホ―トから成立するいわば世代連邦国家の様相を呈すると考えられる。従って、健康の基本概念としては、それぞれ自らが、その健康観を発見し、身の回りの資源を利用し、生涯に渡る自らの健康を設計して、実現してゆくという考えが必要である。一方、一人で健康を実現することは不可能で、社会的な諸グループ、古典的には健康専門家や保険者、地域、職域、家庭の場における支援、新たには、NPOやメディア、さらには企業などの支援によって実現可能となることが、分析され、提唱され、これが重要であることが判明した。
2)健康問題の定量的分析
区間死亡確率(LSM)を指標として用い、県別の主要疾患、がん、心疾患、脳卒中など14疾患につき、65歳以下の区間死亡確率を算定した。さらに、患者調査から年齢階級別の総患者数や退院回数を算出、国民栄養調査から、健康リスクである、高血圧、肥満、高脂血症、喫煙、飲酒などの割合を算定した。さらに、国民生活調査から健康行動や主観的健康観を算出した。これらをそれぞれの項目に渡って、比較分析し、47都道府県の順位を選定した。これらにより、地域別に疾病のパターンやリスクの現状が分析された。次いで、各世代ごとのリスクについて、国民栄養調査を用いて、喫煙や飲酒、高血圧や肥満、羸痩の歴史的変化を分析し、若い女性の羸痩、若い男性の肥満、若い女性の喫煙が近年急増しており、重要であること。さらには、それらの持つ社会的背景を各世代が共有している歴史的な体験とともに分析した。職域の分析では、農業が自殺や事故とともに他の職業よりも多く、また若人並びに女性の管理職の死亡が一般住民より高いことが判明した。民族の分析でも、日本に在住する韓国人の死亡率が他の民族に比しても高く、男性の場合、日本の約1.7倍を示していた。
3)ソーシャルマーケティング
高リスクではなく、集団アプローチの方法として、社会マーケティングの手法が提案され、その方法論について、企業などで使われる狭義のマーケティングではなく、法律、教育や技術などの社会装置などを含めたマーケティングで直接行動変容を目指すものではなく、本人の気づき、いわゆる、エンパワーメントに執するマーケティングの手法が提案された。方法論的には、世代ごとの特質を世代が経験した歴史的イベントを食事や喫煙や運動等の項目に分けて抽出し、特徴付けた。
4)計画策定論
軍事や経営で使われた、戦略計画を「健康日本21」計画に応用した場合、分野の同定、関係者の分析、そして問題の設定などによる健康問題の状況分析を経、優先順位を設定、さらには、資源の確保、そして執行評価とつながる戦略サイクルのフォーマット化が完成した。自治体においても、支援グループにおいても、あるいは個人においてもこのような戦略計画とそして具体的な活動計画(執行計画)を持つこと、自らそれを評価しなおして、もう一度計画につなげることの重要性が確認された。
5)海外健康政策分析
新公衆衛生運動をレビューした結果、 英米の国民健康計画は、この運動の影響を  受けていることが判明した。米国は「Healthy People 2010」が完成し、新たな目標を提案しており、英国の「Our Healthier Nation」では、労働党政権の成立とともに、NHS改革の変更をともなって、地域の目標の立て方の変更が見られた。ニュージーランドの場合、英米のごとく国ぐるみの独立した政策として健康政策を策定していないが、10の目標が設定され、戦略が立てられていることが判明した。
シンポジウムやグループ討議の結果、アメリカの「Healthy People」は比較的権限の弱い中央政府が地方政府や民間団体を巻き込んで健康政策を浸透させるために目標を中心に開発したことが判明した。特に、「Healthy People 2010」では国民全体にメッセージを送ることを目指している。マクギニスの評価によると「健康日本21」は最も寿命の長い日本を背景としており、特にコホートに基づく健康政策のあり方は国際的に見ても全く新しい発想であるとの評価を得た。
結論
以上の研究成果をふまえ、「健康日本21」には従来の政策にはない以下の新たな  10の特徴を基本概念として提出できた。
①策定:専門家により根拠に基づいて作成
②背景:近代3度目の舵取り、超高齢少子社会支える、個を支える社会づくり
③目的:健康増進は古い考え ⇒ 健康実現が目的早死、QOL,自分の健康観の実現
④理念:住民参加は古い考え ⇒ 参加ではなく自らが主役、グループが支える
⑤支援:保健医療外分野の重要性、健康の決定要因と参加グループ
⑥範囲:健康づくりから生きがいづくり、その為の社会づくり町づくり
⑦目標:目標の共有、その為の新しい指標。9分野55、69(60の目標)、97数値目標
⑧手法:高リスク(健診)アプローチではなく、集団(一次予防)アプローチ。その為の社会マーケティング(エンパワーメント、社会装置づくり)。健康教育は古い考え ⇒ 自らの健康学習とそれへのグループ支援必要
⑨世代:ライフステージ(年代)からコホート(世代)へ
⑩戦略:戦略計画と行動(執行、活動、実行、推進)計画を分けて

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