農村における健康増進活動の費用・効果分析に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900808A
報告書区分
総括
研究課題名
農村における健康増進活動の費用・効果分析に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
松島 松翠(佐久総合病院)
研究分担者(所属機関)
  • 杉村巌(旭川厚生病院)
  • 松島松翠(佐久総合病院)
  • 山根洋右(島根医科大学)
  • 宮原伸二(川崎医療福祉大学)
  • 小山和作(日本赤十字社熊本健康管理センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、健診活動及び健康増進、生活改善を含む健康教育活動を実施することによって、それが疾病予防及び医療費の軽減にどの程度役立つかを、上記活動に積極的に参加している個人と、参加していない個人との比較によって明らかにすることが目的である。
研究方法
今回の研究方法は、国保診療における個人のレセプト分析が主の予定であったが、県によってはプライバシー保護を理由にその閲覧乃至はコピーを許可しない地域があった。レセプト閲覧が可能な地域では、国保加入者について、過去5年間継続して健診を受けている群(受診群)と、5年間全く健診を受けていない群(非受診群)について、または過去5年間、健康づくり活動に参加している群(参加群)と全く参加していない群(非参加群)について、国保レセプトの分析によって、一人当たりの年間国保医療費を算出し、比較検討した。
レセプト閲覧が不可能な地域では、一つは地域における胃癌登録を利用し、過去5年間入院治療した患者について、胃検診(胃X線集団検診、胃内視鏡検査)の受診者と非受診者について、胃癌死亡率、入院医療点数、胃癌一人発見に要する経費、胃癌患者の逸失利益等について検討し、胃検診の費用・効果について分析した。もう一つは、農村地域の町村を対象に、介護保険導入にともなう各資料の分析により、介護サービスの需要および供給予測、第1号被保険者の保険料の設定、町・県・国から支出される介護保険予算の試算、介護保険導入による町民への利益と負担等について検討し、介護保険導入に関する費用・効果について分析した。
結果と考察
まず、国保加入者における健康増進活動への参加・非参加別にみた医療費の分析では、北海道、高知、熊本の3研究機関のいずれにおいても、健診を積極的に受診しているものは、そうでないものと比較して、一人当たりの年間国保医療費が低いという結果が得られた。非受診者の一人当たり医療費を 100とした場合、受診者の医療費は北海道では43、高知では75、熊本では52という結果であった。その差は、健診経費(健診受診料)をはるかに上回るものであった。
ここで注目すべきことは、医療機関の受診動向をみると、健診受診者の方が医療機関受診率が高いことである。その理由として、一つは健診で疾病を早期に発見し、早期に医療機関を受診していることがあげられる。この場合は外来治療がまず主になり、入院治療を受けるものは比較的少なくなる。熊本の調査でも、基本健診受診回数が多いほど、入院医療費の占める率が少ないという結果が出ている。また北海道の調査で、健診未受診者では受診者に比較して高額医療費を要するものが多いという結果が出ているが、入院医療が多いかどうかということが、医療費の動向を左右する重要な要因である。健診受診は重病を予防し、とくに高額な入院医療費の低減に効果があることを示している。
一方、健康づくり活動と医療費との関連では、健診報告会参加、健康づくりに関連のある委員の経験、日常的な運動の有無等については、いずれもそれらの活動への参加者、実施者のほうが医療費は低い傾向にあったが、有意となったのは運動のみであった。
胃癌集団検診の費用効果については、胃癌死亡率では検診受診者と非受診者とでは、後者に死亡率が有意に高かった。検診受診との関係では、検診受診者は胃X線集団検診にせよ、内視鏡検査にせよ、非検診者に比べ、いずれも入院医療費が低く済んでいるが、検診で発見された胃癌は進行癌が少ないために、入院期間も短縮され、医療費が軽減しているものと考えられた。ただ費用効果を考える場合、集団検診によって胃癌患者一人発見に要する費用を計算してみると、胃間接X線検査では二次精検も含めて 605万円、内視鏡検査では 815万円であり、当然検診受診の方が費用がかかる。しかし胃癌死亡による逸失利益を計算すると、胃間接X線検診では 9,602千円、胃内視鏡検診では10,511千円、非検診者ては16,198千円と、検診非受診のほうが費用がはるかに多い。このように死亡が関連する場合には、逸失利益を含めて考えることが必要である。検診の実施は本人のみならず、社会経済的にも大きな利益をもたらすことを認識する必要がある。
介護保険導入に関する費用効果分析では、介護保険導入にともない、被保険者の保険料と介護サービス利用の一部負担金が本人にとっての費用増加となるが、一方では、在宅介護サービスの強化、特別養護老人ホームの開設、短期入所の設置、デイサービス開設など、要介護者にとってサービスの拡大が図られ、その内容は飛躍的に充実し、利益が多いと分析された。さらに周辺の社会開発が行われつつあり、政策立案、住民参加など地方分権を担う力が強化されると予想された。
介護保険の問題は実際のところこれからの課題であるが、それがどうなるのかということは、多くの市町村の関心事であり、島根における研究結果はそのモデル的な分析として興味深いものと思われる。一方、被保険者にとっては、保険料の負担が増え、さらにサービスに対する1割の負担があるわけだから、それでどの程度のサービスが受けられるかということが関心事である。介護保険の費用効果には、金銭的なこととともに、利用者の満足度も考慮に入れる必要があると思われる。
結論
国保加入者について健康増進活動への参加・非参加別にみた医療費の分析では、健診を積極的に受診している者、あるいは健康づくり活動に参加している者は、そうでないものと比較して、一人当たりの年間国保医療費が低いという結果が得られた。両者の差額は、費用としての健診受診料をはるかに上回るものであり、費用効果は十分あると考えられた。前者が後者にくらべて医療機関受診率が高いにもかかわらず、医療費が低かったのは、入院医療費が少なかったためであり、健診受診は重病を予防し、とくに高額な入院医療費の低減に効果が期待できることを示した。
胃癌患者の検診受診・非受診別にみた入院医療費の分析では、胃検診(胃X線集団検診、胃内視鏡検査)受診者は非受診者にくらべて、胃癌による死亡率が低く、入院医療費が低いという結果が得られた。これは胃癌の早期発見により、進行癌が少ないために、救命出来る者が多く、また入院期間が短縮され、医療費が軽減されるためと考えられた。また費用損失については、検診費用、入院医療費、胃癌で死亡した場合の逸失利益等を総合して比較した結果、受診者に利益が多いことが分かった。
介護保険導入による費用効果の分析では、被保険者の保険料と介護サービス利用の一部負担金が費用増加となるが、一方では、在宅介護サービスの強化、特別養護老人ホームの開設、短期入所の設置、デイサービス開設など、要介護者にとってサービスの拡大が図られ、その内容は飛躍的に充実すると考えられた。さらに周辺の社会開発が行われつつあり、政策立案、住民参加など地方分権を担う力が強化されると予想された。

公開日・更新日

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