保健サービスによる寝たきり予防活動に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900805A
報告書区分
総括
研究課題名
保健サービスによる寝たきり予防活動に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
池上 直己(慶応義塾大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会における保健婦活動として、寝たきり予防活動が重要な役割を占めることになる。ところが、このような寝たきり予防活動の対象となる者が地域にどのくらい存在するのかは必ずしも明らかではなく、また、どのようなサービスを提供することが適切であるかについても明確ではない。そこで、本調査研究では、①地域において寝たきり予防活動の対象となる住民がどの程度存在するか、②そのような対象者に対してどのようなサービスを提供することが適切なのか、をそれぞれ把握し、③実際の保健予防サービスを寝たきり予防活動の対象者に対して試行的に提供し、どの程度効果が発揮できるかを調査分析する。さらに、④調査地域を拡大して普及方法を検討するとともに、サービスの適切性の評価方法を検討することを目的とする3ヵ年の研究計画である。なお、本調査研究は介護保険事業を補完し、地域における保健婦による予防活動の中心に位置付けられることが期待される。
初年度においては、65歳以上の一般人口から郵送による質問調査により対象者を抽出し、無作為に介入群と対照群に分け、プロセスの適切性を確認した。本年度は2年目として、3カ月を基本に定期的に訪問し、介入方法、相談内容への対応、次回訪問の間隔(対象者の状態により多少変動)、次回訪問時の確認事項等について検討する。なお、来年度は介入群、対照群におけるアウトカムの相違を分析するとともに、予防活動のためのマニュアルを作成することを予定している。
研究方法
①初年度において抽出された介入群に対して、概ね3ヵ月ごとに保健婦が訪問した。その際、MDS-HCを用いて包括的にアセスメントし、保健婦が必要と判断したCAPs (Client Assessment Protocols)領域に焦点を絞りながら会話を進めた。②訪問後、MDS-HCのアセスメント用紙に記入し、トリガーされたCAPsを確認するとともに、「訪問記録用紙」に相談内容、次回訪問時の確認事項等を整理して記載した。また、同用紙に面接・往復・記録に要した時間を記入した。③地区単位で保健婦によるケースカンファレンスを開催し、どのCAPsが参考になったか、どのアドバイスが適切であったかを検討した。④上記の資料を収集分析し、最終年度である次年度に向けての研究の方向性を確認した。⑤本年度より追加された1地域については、初年度において他の地域で採用した方法に準じて介入群を選定し、第1回の訪問を行った。
結果と考察
(1)訪問実態について
介入群に対しては3ヵ月の間隔を基本として保健婦が定期的に訪問をし、ニーズの把握とニーズに対応してさまざまな提案を行い、3回の訪問結果を集計した。その結果、面接時間は平均で、1回目が79.8分、2回目が66.2分、3回目が63.0分であった。1回目から2回目に約13分の短縮がみられたが、3回目には大きな短縮はなかった。その原因として、①対象者が訪問に慣れてきて、話したいことがむしろ増えた、②介護保険実施直前であったので制度についての質問があり、対応に時間がかかったことがあげられる。また、記録用紙への記入時間も1回目75.1分、2回目62.3分、3回目60.4分と同様の傾向である。1回目は初めて会った状態を細かに記録するため2回目以降は、むしろ得られた情報が多くなりその整理に時間がかかっている。これらの点を考慮して、次年度以降は、訪問時間が1時間であることを対象者と予め確認し、1時間15分以上となった時点で、切り上げることを確認した。なお、相談場面に家族が同席すると自由に話せない場面もあるので、信頼関係が確立した時点で退席いただくように配慮することも確認された。
(2)訪問の効果について 
訪問の対象となった者の中には、閉じこもりの傾向がある者、医療機関への不信感を持っている者、健康に不安のある者がいるが、基本的には自立した生活を送っている。そのため、当初は保健婦の訪問を訝る様子もあったが、訪問を重ねるにつれ、①訪問を楽しみに待ち、積極的に相談を受け入れるようになった、②健康面に限らず、家族関係や生活史についても話すようになった、③運動、食事、禁煙などの健康活動の提案を受け入れた、④生活用具の改善につながったなどの成果があがっている。今年度は、これらの提案内容等の事例を収集した。
(3)訪問記録用紙の改善について
訪問するたびに把握できた対象者の状況、保健婦によるアドバイス、本人と合意した内容、次回訪問時の留意すべき点、必要に応じてのサービス調整を記入する用紙を開発し、使用した結果を基にした意見から改善を重ねた。対象者ニーズの把握の手順として、①訪問した際の全体の印象(前回との違い)、②話を聞きながらニーズの把握(これにより①の印象の根拠が把握できる)、③CAPを念頭にした分析とアドバイス、④個々のニーズを踏まえ全体状況をまとめる、という流れであることが確認されたので、それに沿って、記録用紙及び記入要綱を改善した。なお、訪問以外の電話等での対応については、対象者ごとに、対応した日時、連絡・相談の内容、保健婦の対応を記載するための「連絡・相談記録票」を別途用意した。
寝たきり予防対象者のニーズをCAPsの該当状況で整理すると、「2.IADL」「12.社会的機能」「15.転倒」「18.痛みの管理」「23.薬剤管理」「25.保健予防サービス」の該当率が高い。他者の援助を受けるまでにはないものの、「運動をする」「趣味活動を行う」「転倒を恐れてひきこもらない」「医師によく相談する」というように、自己管理、他者との調整が重要になることが多かった。このような相談活動を行ううえで、公的な立場にある保健婦以外には困難であると考えられた。
また、①トリガーされるほど重くはないが留意すべきCAP、②状態が改善されたためトリガーされなくなったが再発が危惧されるCAPなど、CAPには必ずしも該当しない場合でも、その問題について話し合うことが必要であることが明らかになった。さらに、「経済的な不安」「疾患」「医師との関係」などCAPsにはないテーマについても対応する必要性が浮かび上がった。
結論
初年度で把握された「寝たきり予防」対象者のうち介入群に対して定期的に保健婦が訪問することで、次第にニーズが明らかになり、それに対する対応策がしだいに明らかになった。最終年度においては、①に介入群と対照群を比較し、予防的訪問の有効性を検証すること、②予防的に関わるべき対象者の基準を明らかにすること(特に介護保険が施行されるので、本調査研究の対象者を改めて確認する必要がある)③訪問記録表等を整理し、有効な介入方法についてのマニュアルを用意すること、がそれぞれ課題として残される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-