保険者の展開する健康・体力増進事業効果の特徴と改善点に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900801A
報告書区分
総括
研究課題名
保険者の展開する健康・体力増進事業効果の特徴と改善点に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
勝木 道夫(財団法人 北陸体力科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 勝木 達夫(リハビリテーション加賀八幡温泉病院)
  • 永井 幸広(金沢大学医学部)
  • 岡野 亮介(萩国際大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病の急増にともない、健康・体力の維持増進とライフスタイルの改善は医療費の適正化を計る上でも重要な問題となってきている。これらの方法を明確にすることを目的として、健康保険、社会保険(政府管掌健康保険)、国民健康保険の加入者を対象に、約3ケ月間の運動を中心とした栄養指導および心理指導等の生活習慣改善指導事業をモデル的に実施した。
研究方法
全対象者は406名、男性は170名(47.0±13.3歳、21~74歳)、女性は236名(44.9±11.4、20歳~70歳)であった。対象者の内訳は、健康保険組合加入者76名、社会保険(政府管掌健康保険)加入者103名、国民健康保険加入者227名であった。このうち、322名(男性125名、女性197名)は、事業参加群として、調査・測定・検査のあと、すべての事業に参加した。また、84名(男性45名、女性39名)はコントロール群として、前後の測定のみ実施し、運動指導や食生活の改善指導などは行なわなかった。事業参加群とコントロール群との2群間には年齢、身長、体重および体脂肪率には有意な差は認められなかった。対象者は事業前後に医学的検査{尿検査、血液検査(GOT,GPT,γ-GTP,総コレステロール,HDLコレステロール, 中性脂肪,尿酸,血糖,血算一式,血清鉄,フルクトサミン、インスリン、レプチン)、血圧測定、安静時心電図検査}、形態測定(身長、体重、体脂肪率)、体力測定{長座体前屈、上体おこし、垂直跳、多段階運動負荷試験(最大酸素摂取量の推定)、但し60歳以上は上体おこし、垂直跳の代わりに握力、開眼片足立ち、全身反応時間の測定を行う}、日常生活調査、栄養調査、プログラム心理調査(ストレス度チェックリスト及びライフスタイル調査を受けた。また約3ケ月間にわたって週2回を目安に身体運動(各自の健康状態や体力レベルに応じたトレ-ニングプログラムを実行)を行い、またその間栄養・心理セミナ-(栄養講話,ヘルシーバイキング,自律訓練法等)を受講した。倫理面への配慮として、全対象者には事業の趣旨を十分に説明し、調査・測定・検査について全員から同意を得て行なうものとする。また、運動負荷試験においても医師の立ち会いのもとに行なうようにする。
結果と考察
対象者の行った運動は、ストレッチ体操、歩行・ジョッギング、自転車運動、ウェイトトレ-ニング、水泳及びその他(ステップエクササイズ、エアロビクス等)であった。事業前と事業後の調査・測定・検査項目を比較検討したところ、ライフスタイル調査では男女ともに、15分以上の歩行などの有酸素運動を実施している人の割合が増加し、日常生活における身体活動の定着がうかがえる結果であった。また、お菓子やジュースなどの間食についても、改善効果がみられた。体力測定では、男女ともに最大酸素摂取量が、60歳位以上の女性で握力がそれぞれ改善したことから、全身持久性と筋力が向上したものと考えられる。血液検査結果では女性のヘモグロビンA1cが改善していたことから、これらの事業が増加の一途にある糖尿病の予防改善に効果があるものと期待される。また、男性のレプチン値が、事業に参加した対象者で低下していたことについては、今後の検討が必要であると思われる。
高脂血症対象者では、男女ともに運動習慣の改善によりLDLコレステロール値の低下がみられ、女性では食生活の改善によってもLDLコレステロール値が低下した。また、高血圧症対象者では、男性で運動習慣や食生活の改善で最高血圧の低下がみられ、最低血圧は運動習慣の改善で低下した。さらに肥満対象者では、男性で運動習慣の改善により体脂肪率が低下しており、飲酒量の増減とLDLコレステロールの変化率に正の相関関係がみられた。これらのことから、生活習慣病罹患者の調査・測定・検査結果に基づいた運動習慣と食生活の改善策を日常生活にとりこんだ行動変容が、生活習慣病の予防改善に大きな影響を及ぼすことが理解された。
結論
健康と体力の維持、増進、生活習慣病の予防並びにライフスタイルの改善を促すための健康科学総合研究事業として、厚生省より委託されて行った事業を、国保被保険者、健保被保険者、社保被保険者の3被保険者における生活習慣病に関するする罹患者(半健康者も含む)を対象者として3ヶ月間に亘って実施し、その実施方法と対象者の特徴および成果について総合的に検討した。その成果は、1~7のとおりであり、これらを総括し、今後の展開を述べると8のとおりである。
1.ライフスタイル調査の結果から、男女ともに「続けて15分以上あるくことがありますか」で改善効果が見られたことから、日常生活における身体活動の定着がうかがえた。
2.男性のライフスタイル調査結果で、「お菓子やジュースをとりすぎないようにしていますか」で改善がみられるとともに、栄養調査結果でも「菓子・ジュースの摂取点数」が減少していた。
3.男女ともに最大酸素摂取量が、女性で握力が増加したことから、全身持久性と筋力の向上が見られた。
4.女性のヘモグロビンA1cが改善していたことから、糖尿病の予防および改善の効果が期待される。
5.高脂血症対象者は、男女ともに運動習慣の改善により、LDLコレステロールの変化率が低下し、さらに女性では食生活の改善でもLDLコレステロールの変化率が低下した。
6.高血圧対象者では、男性で運動習慣の改善や、食生活の改善により、最高血圧の変化率が低下し、最低血圧の変化率は運動習慣の改善で低下した。
7.肥満対象者は、男性で運動習慣の改善で体脂肪率の変化率が低下した。
8.本事業では主に集団による、運動、栄養、休養を柱とした健康教育を実施し、成果を医科学的データから分析、検討したが、望ましい成果が顕著に出たものが多かったものの、必ずしも明確に出なかったものも多少見られた。この理由は集団による教育では、対象者が定期的に相互に励ましあうといった集団療法的効果はあったものの、マイナスの要因として、生活習慣の改善となる行動変容の重要性が、個人に十分に伝わりにくい事や、それを理解しても家族や職場の同僚を中心とした周りからの“支援"や“きっかけ"が得られにくかったり、悪い生活環境や行動パターンを修正する事ができにくかったためと考えられる。この事から、今後は集団教育の長所を残しながらも、個人を個別に扱い、その個人別の性格や身体的、環境的な特徴を「観察」と「対話」をたくみに取り入れながら理解するとともに、人間が本来とりがちな行動を行動科学的な手法で考慮しつつ、個人に深くアプローチする健康教育を取り入れていく必要性が認識された。これまでの事業から、運動指導や栄養指導を実施してきた手法とその要素を次年度は取りまとめ、どのようなプログラムで指導していけばより効果的であるかなど、保健事業の改善点について提案していきたい。

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