文献情報
文献番号
199900797A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健法施行後の保健所機能の強化・推進の評価に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大井田 隆(国立公衆衛生院公衆衛生行政学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成6年の地域保健法により、保健所は広域的、専門的、技術的サービスの機能強化が求められ、所管区域の拡大や施設・設備の充実などの保健所の整備に関する側面と、保健所の運営に関する側面から機能の強化・推進を評価する必要がある。しかし評価手法が開発されていないため、保健所の機能強化の推進状況はほとんど把握されていない。そこで本研究では、地域保健法施行後の保健所機能の強化・推進の状況を評価する指標を開発すること、そして保健所機能を整備する立場にある都道府県・指定都市・中核市・政令市・特別区のレベル、保健所機能を利用する立場にある市町村のレベル、そして保健所機能を実際に運営する立場にある保健所のレベルから、保健所機能の現状を「総合的」に評価することを目的とした。
研究方法
全国の47都道府県、12指定都市、26中核市、9政令市、23特別区、640保健所、3,182市町村を対象に、平成11年11~12月、郵送により調査票を配布・回収した。都道府県、指定都市、中核市、政令市、特別区に対しては、地域保健法施行前・現在の保健所数、及び再編・統合の意向、保健所機能の推進・実施主体、保健所職員の研修の状況などを設問した。保健所に対しては、管内の人口、市区町村数、職員数、予算等の基本属性、保健所機能の担当部門の有無及び担当職員数、専門的・技術的サービスの供給機能(衛生試験・検査の実施場所など)、情報機能(外部データベースやインターネットとの接続、統計解析ソフトの保有・利用、衛生研究所との協力体制、地域住民への情報提供、管内データの把握・整理・解析、市町村への情報提供、年報・業務報告の作成など)、調査研究機能(調査研究数、調査研究の結果からの施策提言など)、研修機能(研修のための施設・設備等の状況、研修の目標設定、研修の評価など)、企画調整機能(新規事業数など)、危機管理機能(対策会議の設置、災害時情報システムの整備、災害時に供給できる保健医療サービスの人的・物的資源の把握、実地訓練やシミュレーションの実施、健康危機発生時の保健活動マニュアルなど)、県型保健所の市町村支援(保健婦の活動体制、市町村計画策定への参加・支援、市町村からの支援要請の数など)を設問した。市町村に対しては、管轄する保健所に関して、保健婦の活動体制、支援内容、市町村会議への保健所職員の参加頻度、市町村会議での保健所職員の態度、市町村計画策定への参加・支援、保健所・都道府県の市町村職員に対する研修、市町村から保健所へのデータの提供、市町村への情報の提供、市町村データの分析・活用のそれぞれについて4段階評価をしてもらった。
結果と考察
回収率は都道府県等調査77.8%、保健所調査63.4%、市町村調査57.9%であった。(1)都道府県等の保健所再編・統合によって、都道府県の保健所数は少なくとも15減少し、指定都市・中核市・政令市・特別区では1保健所体制になり、保健所数は520~590になると推測された。ほとんどの保健所機能は、都道府県では保健所が主体となっていること、指定都市、中核市、政令市、特別区では保健所を中心に本庁や保健センターがサポートする体制であった。しかし感染症対策、食品・環境衛生、医事、薬事や、地域保健法によって新たに追加された情報機能、調査研究機能、研修機能、企画調整機能、危機管理機能に関しては、特定の保健所への集約や衛生研究所などの保健所以外の機関による推進・実施がみられ、保健所の機能分化と他の機関との役割分担が明確になっていくと考えられる。(2)専門的・技術的サービスの供給機能に関しては8~9割の保健所に担当部門があった。しかし情報機能、調査研究機能、研修機能、企画調整機能、
危機管理機能の担当部門を有する保健所は5~7割で、これらの機能がいくつかの保健所に集約されていることが示された。多くの保健所は衛生試験・検査を自所で実施していたが、県型保健所では機能を集約化した保健所に、都市型保健所では衛生研究所に依頼する場合も多く、衛生試験・検査の機能が集約される可能性が示唆された。保健所の情報機能として、約9割の保健所が外部データベースやインターネットと接続しており、情報機能のための基盤が整備されていた。ほとんどの保健所は情報機能や調査研究機能に不可欠である統計解析ソフトを保有しておらず、また保有していてもほとんど利用していなかったことから、保健所での保有の促進とソフトの利用方法に関する研修などを実施する必要がある。半数の保健所は情報整備に関する衛生研究所との協力体制が整っていないことが示された。地域住民への情報提供として、2割の保健所がホームページを開設し、6割の保健所が展示コーナーを設置し、4割の保健所が広報誌・新聞を発行していた。管内データの把握・整理・解析を実施している保健所は健診・検診結果72%、事業実績81%、住民の生活習慣に関するデータ25%で、県型保健所では健診・検診結果を把握・整理・解析している割合が小さかったことから、保健所と市町村との情報の共有化を図るためのシステムの構築が必要である。ほとんど全ての保健所は年報・業務報告を毎年作成しているが、それを次年度事業に十分に反映している保健所は1割程度と少ないことから、事業実績の経年的変化などの分析を行い、施策提言に結びつく結果を示す必要がある。平成10年度の調査研究の数の平均値は3.2であった。そのうち保健所以外が実施主体のものは0.5と少ないことから、地域の大学などの教育・研究機関との協力体制が十分でなく、保健所自身が調査研究を実施する機能だけでなく、地域における調査研究を促進する機能も強化する必要がある。平成10年度の調査研究の結果から施策提言が得られなかった保健所は4割と多く、研究のための研究ではなく施策のための研究に重点を置く必要がある。保健所で研修を実施するための設備やマンパワーは充足されている保健所が多かった。また研修の目標は設定されているにも関わらずそれが評価に結びついていなかった。危機管理機能に関しては、7~8割の保健所が保健活動マニュアルの作成、情報システムの整備を実施していたが、対策会議の設置、保健医療資源の把握を実施している保健所は半数程度、実地訓練・シミュレーションを実施している保健所は2割と少なく、実践レベルでの危機管理機能の推進は十分でなかった。企画調整機能としての、平成9年度以降に企画立案した新規事業数の平均値は3.5であった。県型保健所の市町村支援に関しては、保健婦の活動体制では業務分担制が6割、地区分担と業務分担の併用が4割であった。市町村計画策定に積極的に参加・支援している保健所は4割、会議にのみの参加は6割であった。市町村からの支援要請の数の平均値は6.5、うち技術支援の数は5.9、マンパワー支援の数は4.6であった。(3)人口規模の小さい市町村は保健所の支援に対するニーズが高く、支援内容を高く評価していた。保健所職員の市町村会議への参加頻度は高いが、会議での発言などの積極性が低いと評価されていた。市町村計画策定への参加・支援に対する評価は他の評価項目と比較して顕著に低かった。保健所・都道府県の研修に対する評価は他の評価項目と比較して高かった。保健所の情報機能に対する評価として、市町村への情報提供に対する評価、市町村データの分析・活用に対する評価は、市町村から保健所へのデータ提供に関する自己評価と比較して低く、市町村はデータを提供しているにも関わらず、保健所が十分に分析・活用しておらず、また情報提供も十分ではないと認識していた。保健所保健婦の活動体制に関しては、地区分担制に対する評価が高く、業務分担制に対する評価が低かった。また地区分担制の保健所が管轄する市町村は保健所機能全般に対する評価も高く、保健所に対して積極的に支援を要請していた。保健所では業務分担
制が普及しているが、市町村は必ずしもそれを望んでいるわけではないことを認識し、業務分担制の問題点を改善する必要がある。
危機管理機能の担当部門を有する保健所は5~7割で、これらの機能がいくつかの保健所に集約されていることが示された。多くの保健所は衛生試験・検査を自所で実施していたが、県型保健所では機能を集約化した保健所に、都市型保健所では衛生研究所に依頼する場合も多く、衛生試験・検査の機能が集約される可能性が示唆された。保健所の情報機能として、約9割の保健所が外部データベースやインターネットと接続しており、情報機能のための基盤が整備されていた。ほとんどの保健所は情報機能や調査研究機能に不可欠である統計解析ソフトを保有しておらず、また保有していてもほとんど利用していなかったことから、保健所での保有の促進とソフトの利用方法に関する研修などを実施する必要がある。半数の保健所は情報整備に関する衛生研究所との協力体制が整っていないことが示された。地域住民への情報提供として、2割の保健所がホームページを開設し、6割の保健所が展示コーナーを設置し、4割の保健所が広報誌・新聞を発行していた。管内データの把握・整理・解析を実施している保健所は健診・検診結果72%、事業実績81%、住民の生活習慣に関するデータ25%で、県型保健所では健診・検診結果を把握・整理・解析している割合が小さかったことから、保健所と市町村との情報の共有化を図るためのシステムの構築が必要である。ほとんど全ての保健所は年報・業務報告を毎年作成しているが、それを次年度事業に十分に反映している保健所は1割程度と少ないことから、事業実績の経年的変化などの分析を行い、施策提言に結びつく結果を示す必要がある。平成10年度の調査研究の数の平均値は3.2であった。そのうち保健所以外が実施主体のものは0.5と少ないことから、地域の大学などの教育・研究機関との協力体制が十分でなく、保健所自身が調査研究を実施する機能だけでなく、地域における調査研究を促進する機能も強化する必要がある。平成10年度の調査研究の結果から施策提言が得られなかった保健所は4割と多く、研究のための研究ではなく施策のための研究に重点を置く必要がある。保健所で研修を実施するための設備やマンパワーは充足されている保健所が多かった。また研修の目標は設定されているにも関わらずそれが評価に結びついていなかった。危機管理機能に関しては、7~8割の保健所が保健活動マニュアルの作成、情報システムの整備を実施していたが、対策会議の設置、保健医療資源の把握を実施している保健所は半数程度、実地訓練・シミュレーションを実施している保健所は2割と少なく、実践レベルでの危機管理機能の推進は十分でなかった。企画調整機能としての、平成9年度以降に企画立案した新規事業数の平均値は3.5であった。県型保健所の市町村支援に関しては、保健婦の活動体制では業務分担制が6割、地区分担と業務分担の併用が4割であった。市町村計画策定に積極的に参加・支援している保健所は4割、会議にのみの参加は6割であった。市町村からの支援要請の数の平均値は6.5、うち技術支援の数は5.9、マンパワー支援の数は4.6であった。(3)人口規模の小さい市町村は保健所の支援に対するニーズが高く、支援内容を高く評価していた。保健所職員の市町村会議への参加頻度は高いが、会議での発言などの積極性が低いと評価されていた。市町村計画策定への参加・支援に対する評価は他の評価項目と比較して顕著に低かった。保健所・都道府県の研修に対する評価は他の評価項目と比較して高かった。保健所の情報機能に対する評価として、市町村への情報提供に対する評価、市町村データの分析・活用に対する評価は、市町村から保健所へのデータ提供に関する自己評価と比較して低く、市町村はデータを提供しているにも関わらず、保健所が十分に分析・活用しておらず、また情報提供も十分ではないと認識していた。保健所保健婦の活動体制に関しては、地区分担制に対する評価が高く、業務分担制に対する評価が低かった。また地区分担制の保健所が管轄する市町村は保健所機能全般に対する評価も高く、保健所に対して積極的に支援を要請していた。保健所では業務分担
制が普及しているが、市町村は必ずしもそれを望んでいるわけではないことを認識し、業務分担制の問題点を改善する必要がある。
結論
保健所の再編・統合によって、感染症対策、食品・環境衛生、医事、薬事や情報機能、調査研究機能、研修機能、企画調整機能、危機管理機能が特定の保健所や衛生研究所などに移行し、保健所の機能分化や他の機関との役割分担が促進される可能性があること、保健所機能の基盤整備は十分に推進されているものの、それが保健所機能の円滑な運営に十分に反映されていないこと、保健所の情報機能や企画調整機能、保健婦の業務分担制に対する市町村の評価は高くないことが明らかとなった。
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