ソーシャルマーケティング理論を応用した、生活者・消費者主体の地域保健事業のあり方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900794A
報告書区分
総括
研究課題名
ソーシャルマーケティング理論を応用した、生活者・消費者主体の地域保健事業のあり方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
中原 俊隆(京都大学大学院医学研究科社会医学系専攻社会予防医学講座公衆衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健所と市町村を中心とした新しい地域保健の体系を構築していく上での基本理念である「生活者・消費者主体」に関する具体的な方法論として「ソーシャルマーケティング理論」が有用であるが、我が国ではその考え方はほとんど普及していない。本研究は地域保健活動をソーシャルマーケティングの視点から評価し、生活者・消費者主体の地域保健活動の発展・展開の方法論を提供することを目的とした。
研究方法
本研究では以下の2つの研究を実施した。(1)生活習慣病の広報に関する研究…「生活習慣病」の概念の普及目的で地域住民に対して実施されている広報活動の現状を把握するために、全国3252の市町村及び特別区を対象に、郵送法にて調査票を配布し、生活習慣病に関する広報物の内容、地域保健事業実施の際に保健婦などの保健従事者によって各地域住民を対象として行われる生活習慣病の概念の普及の実態を調査した。(2)地域保健事業における広報活動の効果に関する研究…東京都多摩立川保健所が発行する広報誌「保健所だより」に関して、到達段階としての地域住民の接触状況と、行動段階としてのサービス利用者に及ぼす影響から、広報活動の効果を総合的に評価した。到達段階調査では、平成11年8月、立川市民2,800人を対象に、郵送法により自記式調査票を配布し、保健所だよりへの接触状況などを設問した。行動段階調査では、平成11年6~11月に実施された保健所事業の利用者を対象に、利用受付時に聞き取り調査を実施し、何を見て(聞いて)事業を知ったか、などを設問した。
結果と考察
(1)1797市町村及び特別区(有効回答率55.26%)から回答を得た。平成10年度実施の地域保健・老人保健事業のうち、健康教育・健康相談・基本健康診査・総合健康診査・骨粗鬆症検診について、総人口15000人未満の市区町村と総人口15000人以上の市区町村に分類して集計した結果は重点健康教育の開催回数は全項目とも有意に15000人以上の市区町村の方が多かった。生活習慣病についての最重点疾患は「糖尿病」が最も多く、次いで「高脂血症」、「高血圧」と続いていた。生活習慣病に対する広報・健康教育の方法について、生活習慣病に対する広報・健康教育の方法と、そのおおよその費用割合を質問したところ、「健康教室」が最も高くで、「チラシ・パンフレット」と合わせると約9割であった。チラシ・パンフレットの種別は、「市販されているもの」が多く利用されていた。配布量からみたチラシ・パンフレットの配布場所は、「市区町村保健センター」が最も多く、次いで「役所・役場」となっていた。糖尿病の健康診査時における血糖検査は「全員に無料で施行」している割合が高かった。糖尿病予防教室の広報に使用しているものについては、チラシ・パンフレット、ポスターが多かった。糖尿病に関する広報・教育に用いる第一の手段は「健康教室」が7割を超えており、その健康教室でチラシ・パンフレットを配布している傾向があった。骨粗鬆症に関し、骨密度測定の方法を質問したところ、一種類のみの測定方法によって行っているという回答が多かった。骨粗鬆症予防教室の広報に使用しているものについては、糖尿病予防教室の場合と同様、健康教室が多かった。骨粗鬆症に関する広報・教育に用いる第一の手段は「健康教室」が6割を超えており、糖尿病に関しての場合とほぼ同様の傾向を示した。健康診査等で喫煙率等を「把握している」と回答したのは全体の15%弱であった。その男女別の喫煙率は総人口15000人未満の市区町村ではそれぞれ43.3+/-11.7%、8.1+/-6.9%、人口15000人以上の市区町村では
41.4+/-14.0%、8.8+/-7.3%であった。禁煙教室・講演会を「開催している」と回答したのは全体の約7%にとどまり、その開催回数は5.67 +/- 12.73回/年であった。禁煙教室・講演会の広報に使用しているものについてはチラシ・パンフレットが最も多かった。また、開催していない市町村及び特別区に禁煙教室・講演会の開催予定を尋ねたところ、約8%だけが「あり」と回答しており、その9割近くが開催予定年を平成13年までと回答していた。防煙教室・講演会を「開催している」と回答したのは全体の5%未満であり、その開催回数は3.28 +/- 4.64回/年であった。喫煙対策として禁煙、防煙教室・講演会以外に行っていることについてはチラシ・パンフレット、ポスターが多かった。生活習慣病に全般における広報・健康教育の方法の費用割合が、健康教室でかなり高く、それ以外に関しては、個別通知を除くとチラシ・パンフレット、ポスター、定期発行の広報紙・誌でその大半を占めていた。作成や配布に要する費用が安いチラシ・パンフレット・ポスターを媒体として選択するのはやむを得ないが、これらの媒体は一般に配布というよりも設置されている場合が多く、対象となる地域住民への広報効果が大きくない、と推測される。チラシ・パンフレットの配布場所の割合が役所・役場より市区町村保健センターや公民館・コミュニティセンターにおいて高くなっていることから、市区町村がこれらの場所をより住民に身近であると考えていることがうかがえた。糖尿病や骨粗鬆症に関して、広報・健康教育の第一の手段は健康教室が圧倒的に多く、その開催時にチラシ等を合わせて配布しているという状況であったが、この場合、参加しなかった住民や個別通知を受けなかった住民に対する知識の普及という点では広報があまり機能しない可能性もある。そのため、生活習慣病予防という目的のもとに、住民へのより効果的な広報活動が考慮されなければならない。喫煙対策については、禁煙教室・講演会、防煙教室・講演会ともに開催割合がかなり低く、その他の喫煙対策や広報活動も種類が少なかったことと、分煙対策にあまり積極的でなかったことから、喫煙対策の充実も今後生活習慣病予防のための計画に組み込む必要性が指摘される。(2)保健所だよりの保存版を見たことがある者は4割、手もとに保存している者は1割と少なく、接触と保存の両面への対策が必要である。年齢の高い者、何らかの疾患を有する者、予防的保健行動を多く実施している者の方が保健所だよりに接触し、保健所だよりを保存していた。また女性、健康に関する情報源に多く接触している者、健康に関する情報を他者に提供している者は保健所だよりに接触していたが、保存との関連はみられず、保健所だよりの情報を十分に活用していない可能性が示唆された。各保健所事業の認知率は2~5割、利用率は0~2%と小さかった。保健所だよりに接触している者の方が保健所事業を認知・利用していたが、接触している者の中では保存していない者の方が認知している傾向がみられた。保健所だよりを見て利用した者の割合が大きい事業は、在宅栄養士研修会、住まいの健康診断、ぜんそく教室、健康づくり交流会であった。それに対して、難病、歯科専門職といった対象者規模が相対的に小さい事業では保健所だよりの効果は小さかった。保健所だよりの保存版は回覧版と比較して、手もとに残りやすく、いつでも保健所事業に関する情報を把握できるため効果的であった。
結論
(1)全体として、生活習慣病の広報活動は、各市区町村によって多様ではあるものの工夫をするなど独自の取り組みを通じてなされているといえるが、より効果的な広報活動の考慮が今後とも必要である。(2)保健所だよりへの接触を促進するためには、新聞折り込みの他に郵送や地域組織の活用などの代替案を検討する必要がある。また保健所だよりの保存を促進するためには、紙面の充実(注目を引く見出しやレイアウト、魅力的な内容など)、保存しやすい形態の工夫(小さめの紙の使用、シールの貼付など)が必要である。また難病、歯科専門職などの対象者規模が相対的に小さい事業では
保健所だよりの効果は小さく、保健所職員、家族会・患者会などを活用した情報提供の方が効果的である。

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