保健サービスの向上をめざした地域保健・医療・福祉支援情報システムに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900793A
報告書区分
総括
研究課題名
保健サービスの向上をめざした地域保健・医療・福祉支援情報システムに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
稲田 紘(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 関田康慶(東北大学大学院経済学研究科)
  • 信川益明(杏林大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会の進展に伴い、地域の保健サービスは医療・福祉との連携のもとに提供することが不可欠となっている。この連携を推進し、効率的・効果的な保健サービスを提供するには、情報システムの導入による支援が必要となる。我々は宮城県遠田郡田尻町において、以前から地域の保健・医療・福祉連携支援情報システム(以下、連携支援情報システムという)として、スキップ情報システムというモデルシステムについて開発を進め、一昨年度までに第一次システムを完成して運用を開始したが、本システムは実用上、少なからぬ問題点のあることが指摘されている。そこでこれを発展させ、2000年4月から開始される介護保険サービスにも役立つような第二次システムの設計・構築に関する研究に着手した。本年度は、昨年度に行った第一次システムの評価に基づき得られた問題点の検討結果から、次のような事項を中心に研究を進めた。①第二次連携支援情報システムの設計にあたり、第一次システムには含まれていない一次予防に関する業務支援に資する機能を付加するための基礎的検討を行う。②連携支援情報システムの連携効果と保健サービスに対する有用性の評価方法の検討に関連して、システムにおける情報リテラシーについて評価を試みる。③医療・福祉との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能の検討の一環として、医療における連携機能、とくに情報の共有・交換の円滑化に基づく脳卒中を主とした疾病再発(三次)予防に有用なシステムを検討するため、東京都の北多摩南部二次医療圏内の6市の病院における医療連携に関する医療情報について調査を行う。
研究方法
前述の3課題についての研究方法を次に示す(かっこ内は分担研究者名)。
1.第二次連携支援情報システムの設計にあたり、第一次システムには含まれていない疾病の一次予防に関する業務支援機能の付加に必要な基礎的検討として、第一次システムの健診における事後指導に関する利用概況の把握、田尻町の高齢者についての有病率調査、大阪市の総合健診システムにおける受診者のデータを用いた疾病の危険因子とライフスタイルとの関連の分析などを実施する(稲田)。
2.連携支援情報システムの連携効果と保健サービスに対する有用性の評価方法に関する検討の一環として、スキップ情報システムを導入したスキップセンターの職員を対象にして、システムにおける情報リテラシーについての評価を試みる(関田)。
3.医療・福祉との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能検討を目的として、東京都北多摩南部二次医療圏内の6市の45病院を対象に、医療機関における医療機能連携に関連した医療情報についての調査・解析を行う(信川)。
結果と考察
1.実施した基礎的検討のうち、第一次システムの利用概況に関しては、①検診結果の検索・印刷、②再検査結果の管理と処理、③生活習慣改善教室対象者の把握、④高血圧予防個別健康教育対象者一覧表の作成、のようであり、システムの機能上の制限から、疾病の一次予防につながる処理などは困難なことが窺われた。高齢者を対象とした有病率調査では、高血圧、高脂血症、虚血性心疾患、糖尿病、高尿酸血症、心房細動の順となった。高血圧の有病率は男女とも50%を越えており、一次・二次予防とも高血圧対策が重要なことが認識された。また、大阪市の住友生命総合健診システムにおける受診者のデータについて、疾病の危険因子とライフスタイルとの関連について分析した結果、予防すべき疾病の危険因子に関する検査のうち、血圧については飲酒が、血清トリグリセライドでは飲酒、喫煙、運動、食塩摂取が、空腹時血糖では飲酒が、血清HDLコレステロールでは喫煙、運動、食塩摂取が関連していることが示され、この分析からも疾病予防に対するライフスタイルの寄与が窺われた。また、こうした分析を実施するためには、ライフスタイルに関するデータの自動収集や統計解析処理など情報システムによる支援が必要であり、したがって、田尻町おける第二次システムの設計・構築にあたり、このような機能をシステムに付加することが必須であると思われた。
2.情報リテラシーに関する評価では、コンピュータの操作については、診療部門を除くすべての部門の職員が簡単であると回答しているが、情報システムの概念についての理解が不十分であり、全部門の担当職員の半数以上が情報システムに関する研修などの実施を望んでいた。また、情報リテラシーとサービスの質の間に相関が見られ、情報リテラシーの確保がサービスの質の向上に影響を及ぼしていることが窺われた。これは一般にいえることではあるが、とくに田尻町の場合、情報リテラシーを如何に確保していくかが、情報システムを効果的、効率的に運用していく上で重要な要因であることが示唆された。したがって、第二次システムでは、単にシステムの機能の向上をはかるのみではなく、ユーザに対する情報システム関する研修などを通じて、システムに対する理解を深めることの重要性が示されたものと考えられた。
3.医療機能連携に関連した医療情報の調査については、二次医療圏内での病院での医療連携に関する捉え方および情報の整備状況には、かなりの違いが認められた。本調査の結果、健康情報、健診時の検査結果などの基本情報との連携も含めた医療機関の情報整備を推進することが、疾病再発予防システムの構築のために必要であり、医療機関における医療連携ならびに医療情報の整備に対する理解を高めることが重要であると考えられた。しかし、田尻町の現在の医療機関(7診療所)における医師の高齢化を考えると、現時点では、直ちに連携機能の向上と、スキップ情報システムの改良につながるものとはいえない。とはいうものの、この調査結果から、健康情報、健診時の検査結果など基本情報との連携をも含めた医療機関の情報整備を推進することが、疾病再発(三次)予防システムの構築に必要なことが示唆されている。このことは、田尻町における重要課題の一つである脳卒中の再発予防のため、スキップセンター診療所と隣接の古川市の病院との連携をも視野に入れた情報システムの構築が必要なことを窺わしめるものであり、第二次システムの設計・構築に重要な示唆を与えるものであると思われた。
結論
地域の保健・医療・福祉の連携支援をいっそう進めることにより、保健サービスの向上をはかることを目標として、宮城県田尻町において、すでに構築したスキップ情報システムの第一次連携支援情報システムの発展をめざした第二次連携支援情報システムの設計・構築のため、次のような研究を実施した。①連携支援情報システムの第二次システムの設計にあたり、第一次システムには含まれていなかった疾病の一次予防に関する業務支援機能の付加に必要な幾つかの基礎的検討、②連携支援情報システムの連携効果と保健サービスに対する有用性の評価方法に関する検討の一環としてのシステムにおける情報リテラシーについての評価の試み、③医療・福祉との連携を考慮した保健サービス向上のための情報システムの機能検討を目的とした医療機関における連携に関する医療情報調査。これらの研究結果を、スキップ情報システムの第二次システムにそのままの形で反映することは容易ではないが、形を変えて新しい連携支援情報システムに還元することは可能である。いずれにせよ、本研究の成果は、次年度以降に予定されている第二次システムの本格的な設計・構築のため、有用な資料になるものと考えられた。

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