文献情報
文献番号
199900788A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器健診を中心とする地域での長期的な予防対策の評価と健診体制の改善に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
磯 博康(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
- 寺尾 敦史(高知県中央東保健所)
- 白井祐二(長野県伊那保健所)
- 佐藤眞一(大阪府立成人病センター)
- 近藤弘一(愛媛大学)
- 横山徹爾(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国の地域での高血圧者の把握と管理、減塩、栄養のバランスを中心とする食生活改善指導が、循環器疾患(脳卒中、虚血性心疾患等)の発症、有病、死亡、糖尿病の死亡に及ぼす影響を対照地域を設けて分析し、地域での予防対策の効果を定量的に分析することを目的とする。具体的には長期間継続して循環器疾患の予防対策を行ってきた7都道府県の11地域を取り上げ、各対策地域の対照地域( 隣接地域または同一医療圏の地域)を選び、比較を行うことを主眼とした。その際、循環器疾患予防のための食生活改善指導は糖尿病にも予防効果があると考えられるため、脳卒中、虚血性心疾患等の循環器疾患に加えて、糖尿病の死亡率の推移も比較分析する。次に対策地域の間において、予防対策の介入内容、循環器健診の受診率等により、介入の強度・浸透度を評価し、この指標と循環器疾患の危険因子の平均値・分布の推移、脳卒中の発症率、有病率、死亡率の減少の大きさとの関連を分析する。対策地域内で、健診の受診状況別に、脳卒中、虚血性心疾患の発症率を高血圧等の危険因子を調整して分析し、健診受診の循環器疾患に対する予防効果を検討する。以上の検討を総合して、地域での予防対策の効果を定量的に分析するとともに、効果的な予防対策、特に健診の体制についての実際的な改善方法を探る。
研究方法
本研究は、以下の3つのテーマを3年計画で総合的に進める。対象とする予防対策地域は10年以上(10~35年)対策を継続している地域で、秋田県井川町(人口7千人)、秋田県本荘市石沢地区(3千人)、茨城県協和町(人口1.8万人)、茨城県岩瀬町(2.3万人)、高知県野市町(1.2万人)、長野県駒ヶ根市(3.4万人)、長野県高遠町(8千人)、長野県長谷村(2千人)、愛媛県大洲市(3.9万人)、大阪府八尾市M地区(2.3万人)、新潟県新発田市AI 地区(7千人)の11地域である。テーマA)循環器疾患の予防対策を長期間継続している11地域と、対照地域としての近隣地域(隣接地域または同一医療圏)との間で、1972年以降の、循環器疾患(脳卒中、虚血性心疾患、高血圧性疾患等)、糖尿病等の死亡率の推移を比較する。また、長期予防対策地域と対照地域の間で、1980年代以降の循環器健診の受診率を比較する。テーマB)長期予防対策地域(n=11)の間で、対策の強度・浸透度と、循環器疾患の危険因子(血圧レベル、高血圧治療状況、血清総コレステロール、喫煙、飲酒状況、血糖、糖尿病治療状況)の推移、脳卒中、虚血性心疾患の発症率の推移、及び循環器疾患、脳卒中、虚血性心疾患、高血圧性疾患、糖尿病等の死亡率の推移との関連を分析する。対策の強度・浸透度の大きい地域ほど循環器疾患危険因子のレベルの改善、循環器疾患等の発症、死亡率の低下が大きいという予想である。テーマC)長期予防対策地域において、循環器健診の受診者の受診状況と、その後の脳卒中、虚血性心疾患の発症率との関連を分析する。ある一定期間(5年間)の健診受診回数が多い人ほど、その後の脳卒中、虚血性心疾患の発症率が少ないと予想される。その際、健診時の循環器疾患の危険因子を多変量解析により調整することにより、健診受診とその後の生活指導・医療の、循環器疾患に対する予防効果を推定できる。
結果と考察
本研究のテーマAに関しては、1985年の全国基準人口により年齢調整した脳卒中及び全循環器疾患の死亡率(人口千人当り)をⅠ期(1972~76年)、Ⅱ期(1977~81年)、Ⅲ期(1982~86年)、Ⅳ期(1987~91年)、Ⅴ期(1992~96年)の5つの期間に分けて算出した。こ
れにより予防対策地域と対照地域との間の死亡率の推移の比較が可能となる。死亡率の推移の詳細は各個研究で述べるが、総括すると予防対策地域は隣接もしくは同一医療圏の対照地域に比べて、脳卒中及び全循環器疾患の死亡率の低下がより大きい傾向が認められた。この傾向は強力に予防対策を継続してきた地域、すなわち秋田県井川町、茨城県協和町、高知県野市町、長野県高遠町、愛媛県大洲市において、より明らかに見られた。一方、比較的対策の強度・浸透度の小さかった秋田県本荘市、茨城県岩瀬町、長野県駒ヶ根市では対照地域との間で、Ⅰ~Ⅴ期にかけて死亡率の推移に差は認めなかった。また、大阪府八尾市では予防対策が隣接地域及び同一医療圏よりも先行していたⅠ期からⅡ期にかけては、脳卒中及び循環器疾患の死亡率はこれらの対照地域に比べてより大きく低下したが、老人保健法による対策が一般化したⅢ期以降ではその差が認められなくなった。対策が強力に行われてきたが、山間部で脳卒中死亡率がもともと高く、人口規模の小さい長野県長谷村においては、対照地域との間にで死亡率の推移に明らかな差はみられなかった。また、強力な予防対策が一部の地区に限られていた新潟県新発田市では対照地域との間で脳卒中及び循環器疾患の死亡率の推移に明らかな差を認めなかった。しかしながら新発田市の中で予防対策を行った地区とその周辺地区との死亡率の推移比較を行ったところ、予防対策が強力にすすめられた1977年から1989年にかけての脳卒中、循環器疾患の死亡率の低下は対策地区で周辺地区に比べて大きい傾向を認めた。テーマBに関しては、各予防対策地域における脳卒中の発症率を、1960年代後半から1990年代前半にかけて算出した。脳卒中の発症率は死亡率と同様、1985年の全国基準人口を用いて直説法にて算出した。また予防対策の強度・浸透度を表2で示したスコア化の基準を用いて各地域のスコアを算出した。脳卒中の死亡率の低下が対照地域に比べて大きかった秋田県井川町では、同県の本荘市石沢地区に比べて男での脳卒中の発症率の低下が大きかった。同様に茨城県協和町においても同県の岩瀬町に比べて男での脳卒中の発症率の低下が、秋田県の場合ほどではないが大きい傾向を認めた。さらに脳卒中死亡率の低下の大きかった長野県高遠町においても、男での脳卒中の発症率は同県の他の地域に比べて大きかった。大阪府八尾市M地区、高知県野市町、愛媛県大洲町では同県の他の地域との比較はできないが、大阪八尾市、高知県野市町においては脳卒中の発症率は男女とも大きく低下した。テーマCに関しては、大阪八尾市M地区、新潟県新発田市AI地区、茨城県協和町において、5年間の健診受診回数とその後の循環器疾患(脳卒中及び虚血性心疾患)の発症率との関連を分析した。茨城県協和町においては、正常血圧者の健診受診の機会が4年に1度であったため、高血圧者に絞った解析を行った。その結果、いずれの地域においても健診受診回数と循環器疾患の発症率との間に負の関連が認められた。5年間の健診受診回数が1回のみの人に比べ、毎年健診を受けた人は循環器疾患の発症率は約4~6割であった。本研究はわが国において保健所、市町村、医師会、健診機関、研究機関の組織的な協力のもとに長期間継続してきた予防対策事業を客観的に評価し、効果的な予防対策の内容を整理、体系化するものである。従って地域保健に関する実践的かつ、科学的な研究として位置づけられる。本研究の2年度目において、予防対策を長期間精力的に実施、継続してきた地域において、隣接もしくは同一医療圏の対照地域に比べて、脳卒中並びに全循環器疾患の死亡率の低下が大きいという成績を得た。また、これらの地域においては脳卒中の発症率の大きな低下も認められた。次年度は死亡率の分析を虚血性心疾患、高血圧性心疾患、糖尿病についても行い、さらに循環器健診の受診率との関連を分析し、予防対策の効果の包括的に評価する計画である。予防対策地域の中で脳卒中死亡率の低下の大きかった地域においては脳卒中の発症率の低下も大きかった。次年度は循環器疾患の危険因子
の推移についても合わせて分析を行い、脳卒中発症率の低下の主要因を探る計画である。健診の受診回数と脳卒中、虚血性心疾患の発症率との関連の分析から健診の受診回数の多い人は発症率が低く、健診による生活指導や健診を契機とした高血圧の治療、管理による疾病の予防効果が示唆された。次年度において、以上の分析を総括し、健診の体制の改善方法や生活改善指導の方法論について、提言を行う計画である。
れにより予防対策地域と対照地域との間の死亡率の推移の比較が可能となる。死亡率の推移の詳細は各個研究で述べるが、総括すると予防対策地域は隣接もしくは同一医療圏の対照地域に比べて、脳卒中及び全循環器疾患の死亡率の低下がより大きい傾向が認められた。この傾向は強力に予防対策を継続してきた地域、すなわち秋田県井川町、茨城県協和町、高知県野市町、長野県高遠町、愛媛県大洲市において、より明らかに見られた。一方、比較的対策の強度・浸透度の小さかった秋田県本荘市、茨城県岩瀬町、長野県駒ヶ根市では対照地域との間で、Ⅰ~Ⅴ期にかけて死亡率の推移に差は認めなかった。また、大阪府八尾市では予防対策が隣接地域及び同一医療圏よりも先行していたⅠ期からⅡ期にかけては、脳卒中及び循環器疾患の死亡率はこれらの対照地域に比べてより大きく低下したが、老人保健法による対策が一般化したⅢ期以降ではその差が認められなくなった。対策が強力に行われてきたが、山間部で脳卒中死亡率がもともと高く、人口規模の小さい長野県長谷村においては、対照地域との間にで死亡率の推移に明らかな差はみられなかった。また、強力な予防対策が一部の地区に限られていた新潟県新発田市では対照地域との間で脳卒中及び循環器疾患の死亡率の推移に明らかな差を認めなかった。しかしながら新発田市の中で予防対策を行った地区とその周辺地区との死亡率の推移比較を行ったところ、予防対策が強力にすすめられた1977年から1989年にかけての脳卒中、循環器疾患の死亡率の低下は対策地区で周辺地区に比べて大きい傾向を認めた。テーマBに関しては、各予防対策地域における脳卒中の発症率を、1960年代後半から1990年代前半にかけて算出した。脳卒中の発症率は死亡率と同様、1985年の全国基準人口を用いて直説法にて算出した。また予防対策の強度・浸透度を表2で示したスコア化の基準を用いて各地域のスコアを算出した。脳卒中の死亡率の低下が対照地域に比べて大きかった秋田県井川町では、同県の本荘市石沢地区に比べて男での脳卒中の発症率の低下が大きかった。同様に茨城県協和町においても同県の岩瀬町に比べて男での脳卒中の発症率の低下が、秋田県の場合ほどではないが大きい傾向を認めた。さらに脳卒中死亡率の低下の大きかった長野県高遠町においても、男での脳卒中の発症率は同県の他の地域に比べて大きかった。大阪府八尾市M地区、高知県野市町、愛媛県大洲町では同県の他の地域との比較はできないが、大阪八尾市、高知県野市町においては脳卒中の発症率は男女とも大きく低下した。テーマCに関しては、大阪八尾市M地区、新潟県新発田市AI地区、茨城県協和町において、5年間の健診受診回数とその後の循環器疾患(脳卒中及び虚血性心疾患)の発症率との関連を分析した。茨城県協和町においては、正常血圧者の健診受診の機会が4年に1度であったため、高血圧者に絞った解析を行った。その結果、いずれの地域においても健診受診回数と循環器疾患の発症率との間に負の関連が認められた。5年間の健診受診回数が1回のみの人に比べ、毎年健診を受けた人は循環器疾患の発症率は約4~6割であった。本研究はわが国において保健所、市町村、医師会、健診機関、研究機関の組織的な協力のもとに長期間継続してきた予防対策事業を客観的に評価し、効果的な予防対策の内容を整理、体系化するものである。従って地域保健に関する実践的かつ、科学的な研究として位置づけられる。本研究の2年度目において、予防対策を長期間精力的に実施、継続してきた地域において、隣接もしくは同一医療圏の対照地域に比べて、脳卒中並びに全循環器疾患の死亡率の低下が大きいという成績を得た。また、これらの地域においては脳卒中の発症率の大きな低下も認められた。次年度は死亡率の分析を虚血性心疾患、高血圧性心疾患、糖尿病についても行い、さらに循環器健診の受診率との関連を分析し、予防対策の効果の包括的に評価する計画である。予防対策地域の中で脳卒中死亡率の低下の大きかった地域においては脳卒中の発症率の低下も大きかった。次年度は循環器疾患の危険因子
の推移についても合わせて分析を行い、脳卒中発症率の低下の主要因を探る計画である。健診の受診回数と脳卒中、虚血性心疾患の発症率との関連の分析から健診の受診回数の多い人は発症率が低く、健診による生活指導や健診を契機とした高血圧の治療、管理による疾病の予防効果が示唆された。次年度において、以上の分析を総括し、健診の体制の改善方法や生活改善指導の方法論について、提言を行う計画である。
結論
循環器疾患を中心とする地域での長期的な予防対策の評価を行うため、長期間継続して循環器疾患の予防対策を行ってきた7都道府県11地域をとりあげ、隣接地域並びに 同一医療圏の対照地域との比較分析を行った。研究の第2年度として、脳卒中、全循環器疾患死亡率の推移の分析を進めたところ、精力的な予防対策を長期間継続した地域は対照地域に比べて死亡率の低下が大きかった。また、予防対策地域において脳卒中発症率の大きな低下も認められた。健診受診回数が多い群は少ない群に比し、脳卒中、虚血性心疾患の発症率が低く、健診を中心とした循環器疾患予防対策の効果が示された。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-