地方衛生研究所の機能強化に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900784A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所の機能強化に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 江部高廣(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 鈴木重任(東京都立衛生研究所)
  • 五明田李(島根県衛生公害研究所)
  • 荻野武雄(広島市衛生研究所)
  • 長谷川修司(千葉市環境保健研究所)
  • 宮島嘉道(秋田県衛生科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地方衛生研究所(以下、地研と略)は、都道府県又は指定都市等における保健衛生行政の科学的かつ技術的な中核機関として重要な役割を担っている。本研究の目的は、①地研における調査研究機能を強化するための知的、人的、物的資産のデ-タベ-ス化、②インタ-ネット等による効果的な情報システムの構築、③試験検査等における地研間、保健所との連携システムの確立、④ハザ-ドに対する監視システム等基礎的・開発的研究の推進、⑤感染症や有害化学物質等に対応する健康危機管理機能の強化であり、これら調査研究活動の総合的な展開及びその成果の共有により、地研の機能強化を着実に推進したい。
研究方法
各分担研究者及び全国から推薦された研究班員による研究チ-ムを編成し、73地研全てが参加・連携して、研究会の開催、全国調査の実施、問題点の把握、解決方策の検討、システムの構築やその評価等に取り組んだ。個別的には、PCRや PFGEの標準化に関する共同研究、ビデオ教材やCD-ROMの作成・配布、統一試験品配布による内部精度管理、モデル研修の実施と評価、WWW サイトの構築、レジオネラやQ熱抗体価等の検査、室内空気汚染調査、陰膳の栄養成分分析、生体試料の生化学的測定、動物実験や健康調査によるアプロ-チ等を行った。研究班会議は、平成11年8月18日第1回(13人参加)、12年2月14日第2回(22人参加)、さらに、12年1月14日研究班「全体会議」を開催した(92人参加)。
倫理面への配慮:研究対象者への十分な説明と同意を得ることとした。また、動物実験を行う際も不必要な苦痛を与えない等動物虐待につながらないように留意した。
結果と考察
1.地研の調査研究機能の強化に関する研究(江部):①地研の過去9カ年の業績集デ-タベ-スについて、検索上の問題点を解析し、より有効な検索のためのシソ-ラスファイルの作成を検討した。②地研が実施すべき研究評価のあり方を探るための第一段階として、現状の評価制度を調査し、問題点等を明らかにした。③細胞付着性大腸菌の実態の把握とその検査法の確立に関する共同研究を実施し、これまで不明瞭であった分布状況等を同一の検査法を使用することにより把握することが出来た。2.科学的根拠及び情報を提供する地研の試験検査機能の強化に関する研究(鈴木):①効率的な試験検査に関わる検査受付及び検査結果台帳等に関する電算管理システムを提案した。②インフルエンザ流行の予測を可能とする解析法を開発した。③レファレンス機能に関わる迅速な情報提供を可能とするCD-ROM媒体による利用法を検討し、食中毒事例及びマニュアル等を入力したモデルを作成し、地研に配布した。④感染症発生動向調査の4類感染症における地研担当分(病原体サ-ベイランス)の対応に関する調査から、検討課題と国への要望を集約した。⑤GLP実態把握とともに内部精度管理を実施し、GLP普及に協力し、標準化実施マニュアルの作成収集を図った。⑥食品を媒介とする原因菌のPFGEの検査法の諸条件の検討及びPCRを用いたA群レンサ球菌の検査法の応用を通して、分子生物学的検査法の標準化に有用な諸条件を提示した。3.地研の連携による相互研修システムの確立とその評価に関する研究(五明田):地研の資質の向上、レベルアップを図っていくには研修は欠かすことができない。
10年度は研修に関する要望調査などのアンケ-ト調査、ブロック単位での研修を実施。11年度は、研修用ビデオの作成(2本)とその評価、伝達研修、派遣研修、相互研修等のモデル研修を実施すると共に、アンケ-トの追加調査による研修のあり方と実施の可能性について追及し、相互研修や派遣研修による効果や効率性と情報の収集、提供等に対する課題を明らかにした。各種研修の具体性と効果、ビデオでの研修の方向性、高度な技術や知識の伝達と拡大について、さらに検討し、実現化をはかりたい。4.地研の情報提供を効果的に行うためのネットワ-クの構築に関する研究(荻野):地研の情報提供を効果的に行うため、①地研の収集情報を住民に提供し、かつ地研及び関連機関で共有するための具体化策として WWWサイト(http://www.chieiken.gr.jp)を構築し、本研究班で運用した。②ネットワ-クを利用して情報提供を円滑に行う一方策として、HTML Helpを取り上げ、その有用性を検証した。③地研間共用活用デ-タベ-スの現状を把握すると共に課題と方向性を明らかにした。④地域住民への情報提供の実態把握を行うと共に、効果的な情報提供について考察した。⑤地研における情報ネットワ-クの管理体制の現状を把握し、問題点を明らかにした。⑥情報解析の効率化を図るため、最適な疫学モデル及び統計手法の選択に必要な統計量に関する検討を行った。5.地研の保健所行政への科学的支援システムの構築に関する研究(長谷川):①試験検査機能及びGLPに係る地研と保健所の業務連携システムの構築と問題点の抽出、対応策。②行政・住民ニ-ズに対応した保健衛生情報提供機能の高度化、多機能化に関する調査研究。③感染症危機管理における初期対応と感染拡大の防止対策;クリプトスポリジウム及び腸管出血性大腸菌感染症等の大規模健康被害発生時の保健所等への支援システムの研究。地方感染症情報センタ-と関連機関の役割分担。④有害化学物質による健康危機の迅速対応策の研究。6.地域における健康・栄養状況等の評価に関する研究(宮島):SAGEによる分析で、事故死は高齢者の問題であること、世界的にも日本は事故死が多く、地域的には都市部に少ないことが明らかになった。陰膳による栄養成分分析や秤量法による栄養摂取量、さらに、生体試料における生化学的測定値等による地域レベルの栄養状態の評価に関する8題の基礎的研究(動物実験を含む)では、各研究者が蛋白質、脂質、ミネラル、ビタミンをはじめ、コレステロ-ル、中性脂肪、EPA、DHA、アラキドン酸、リノ-ル酸、リノレン酸等に関する結果に基づいた知見を得た。また、地域間の比較のため、標準的なプロトコ-ルの必要性が明確になった。地研は「科学的根拠に基づく」地域保健対策を効果的に推進していくための科学的かつ技術的中核機関として機能することが示されている。さらに、広域的な健康危機管理体制をはじめ、レファレンスセンタ-、公衆衛生情報センタ-、技術研修センタ-など、名実共に「中核」としての機能を強化していくためには、地研相互間の緊密な連携・協力体制を整備し、このシステムを活用して各業務を積極的に推進していくことが極めて有効な方策と思われる。昨年に引き続き実施した6題の研究活動は、地研の機能強化に大いに資するものであった。
結論
全国73地方衛生研究所の参加を得て、地研相互の連携を中心に機能強化に資する具体的方策を検討した。①地研業績集の検索システム、地研の研究評価制度の調査、細胞付着性大腸菌の分布、②インフルエンザの発生予測法、内部精度管理、デ-タバンク電算管理システム及び紙情報のCD-ROM化の実用化、③各種モデル研修の実施と評価、④インタ-ネットによる情報の連携(WWWサイトの構築、HTML、Helpの有用性)、セキュリテイ対策、⑤試験検査、感染症や有害化学物質による健康危機における地研、保健所の対応例、⑥事故死や陰膳による栄養成分分析、生体資料の生化学的測定値による栄養レベルの評価に関する基礎的研究等、地研の機能強化のための数多くの実践的かつ科学的な成果が得られた。

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