市町村における地域保健サービスの決定要因に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900780A
報告書区分
総括
研究課題名
市町村における地域保健サービスの決定要因に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 啓(宮城大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
市町村における地域保健サービスの決定要因としては様々なものがあるが、市町村別の医療費と保健サービスの関連が最も客観的であり、かつ定量的分析が可能である。そこで、市町村保健センターで行われる保健サービス事業の自己評価と医療費の関連について検討した。特に、保健サービスの効果は長期的に評価する必要があると考えられることから、本年度においては、医療費の経年変化と保健サービスとの関連を重視した。また、現在の市町村保健センターは単独施設であることは稀であり、併設施設を設けるのが一般的である。しかし、併設施設がどのように保健センターの事業に影響を与えるかは調査されていない。そこで、本研究では併設施設の種類によってどのように保健センターの保健サービス状況に影響を与えるかをも分析することとした。
研究方法
平成4年度から平成7年度までの医療費の伸び(平成7年度の医療費から平成4年度の医療費を引いたもの)を、一般医療費と老人医療費および一般と老人医療費を合わせたもの(総合医療費)の三つに分け、これらそれぞれと平成6年度に調査した市町村保健センターの保健サービス状況との関連を調べた。解析は、医療費を従属変数として17項目の保健サービス状況を独立変数としカテゴリカル分析の最適尺度法(SPSS 8.01)を用いた。医療費は全体を四分偏位でカテゴリー分けを行い、保健サービス状況は3段階で状況をカテゴリー分けを行った。対象保健センターは全国の1050ヶ所とし、保健サービス状況の17項目は地域保健法で市町村に期待される保健サービス項目としてアンケート調査による自己評価とした。
また、併設施設と市町村の保健サービス状況の関係は、市町村保健センターの併設施設を、医療施設、福祉施設、文化行政施設、訪問看護在宅介護施設に分類し、医療費への影響と保健サービス状況への影響を分析した。
(倫理面への配慮)
本研究では、一切の個人データを直接使用することはなく、かつ、医療費も既存のデータを活用し、レセプト等の診療情報にかかわることは全くなく、さらに市町村のデータに関しても市町村保健センターの資料集からのメタアナリシス的な分析である。よって宮城大学看護学部倫理委員会でも倫理的に問題となる研究事業ではないとされている。
結果と考察
保健サービスと医療費の推移の分析では、一般医療費については相関係数0.17、有意確率0.008で、重要度からみると「医師会等の専門職能団体との連携機能」と「在宅介護支援センターとの連携機能」が良いほど医療費の上昇が少なかった。老人医療費では相関係数0.20、有意確率0.001で、重要度では「ホームヘルパーとの連携機能」と「精神障害者の社会復帰能対応機能」が良いほど医療費の上昇は少なく、反対に「医師会等の専門職能団体との連携機能」が良くなれば医療費は上昇が増大した。一般医療費と老人医療費を合わせた総合医療費では、相関係数0.18で、有意確率0.008で、「ケア・コーディネーション機能」と「医師会等の専門職能団体との連携機能」が良くなると医療費は上昇し、「在宅介護支援センターとの連携機能」が良くなると医療費の上昇は少なくなった。併設施設による市町村保健センターへの影響を分析すると、まず市町村の医療費への影響は併設施設があることによって外来医療費の増大傾向が確認され、潜在的な医療ニーズの掘り起こしが示唆された。また、地域保健サービスは、老人福祉施設併設の場合に最も活発になることが明らかとなった。本研究では4年にわたる医療費の推移と、市町村保健センターの保健サービスとの関連を分析した。各医療費の上昇を抑制する保健サービスの存在が示唆される結果であった。また、「医師会等の専門職能団体との連携機能」は一般医療費では上昇抑制に働き、老人医療費では増大に働くという二相性という興味ある結果も得られた。保健サービスを考える場合には、このような医療費の抑制を考慮した保健センターの機能も考慮する必要性が示唆された。また、併設施設については保健サービスの活性化等に影響のあることが確認された。規模が小さい市町村における保健センターの場合は、併設施設によって保健サービスの活性化が図れることも示唆され、今後の市町村保健センターの設置や運営の効率化につながる理論的な根拠となるものである。
結論
4年にわたる医療費の推移と、市町村保健センターの保健サービスとの関連を分析した。弱い相関ながらも、各医療費の上昇を抑制する保健サービスの存在が示唆される結果であった。また、市町村保健センターの併設施設も保健サービス状況に影響を与えることから、これからの地域保健サービスを決定する要因としては、市町村別の医療費を評価軸にこれらを考慮した市町村保健センターの設置と運営が期待される。

公開日・更新日

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更新日
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研究報告書(紙媒体)