輸血後感染症に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900779A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血後感染症に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 秀(国立仙台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉頌一(九州大学)
  • 上司裕史(国立療養所東京病院)
  • 清澤研道(信州大学)
  • 小西奎子(国立金沢病院)
  • 迫史朗(長崎大学医学部)
  • 瀧本眞(兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院)
  • 田所憲治(日本赤十字社中央血液センター)
  • 田中英夫(大阪府立成人病センター)
  • 田村潤(国立国際医療センター)
  • 成松元治(国立長崎中央病院)
  • 藤井壽一(東京女子医科大学)
  • 松浦善治(国立感染症研究所)
  • 前田平生(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 溝口秀昭(東京女子医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は輸血に起因する感染症の疫学調査や予防対策の検討を行い、これをできるだけ削減及至は根絶することにある。近年、幸いにして輸血後感染症の中で大きな位置を占めてきた肝炎は度重なる献血者スクリーニング法の改良により著明に減少した。しかし、現在でもなお稀にではあるが発生しているので安全な輸血のためにはこれを無視する訳にはゆかない。そのために本年度も輸血後肝炎に主眼を置き、輸血に伴う感染症の発生調査や予防効果について研究した。
また、日赤は輸血後の感染症を防止し、より安全な血液製剤を提供するために1997年より試行してきた献血者のHBV、HCV、HIVスクリーニングにおける原料血漿ミニプール(500検体)ウイルス核酸増幅検査(NAT)を1999年10月から正式に稼働させた。このスクリーニングの感染予防における効果を明らかにするために、日赤中央血液センターは全国の医療機関から日赤に寄せられた自発感染症報告例とNAT陽性血についての遡及調査を行いその解析を行った。
更に肝炎との関係を明らかにする目的で肝炎の起因ウイルスか否かで議論の多いTTウイルス(TTV)の病態を検討した。また、このTTVの検査にあたっては今なおPCR法に頼らざるを得ない現状を打破するために簡便な血清学的検査法(ELISA法)の開発を目差した。この他にも肝炎以外の輸血後感染症の発症にも留意して調査をしたり、輸血療法の予後調査や輸血と悪性リンパ腫との関係を明らかにするためにアンケート調査等を行った。
研究方法
本研究班の統一的テーマである輸血後肝炎の調査は、過去20数年にわたる輸血後肝炎の疫学調査に連なるものである。検索症例として肝疾患の既往歴のある者や肝機能異常者はなるべく省き、輸血症例は輸血後、少くとも3ヵ月間の追跡調査を行い、1996年3月に策定された「輸血後肝炎の診断基準」(厚生省肝炎連絡協議会)を基にして診断を下した。追跡症例については可能な限り輸血前後の患者血清と献血者血液を冷凍保存し、肝炎判明後の解析に利用することにした。この他の個々の班員の研究テーマとその研究方法については省略する。なお当班の研究に当たっては、日赤血液センターの協力が不可欠であり、班員の多くは地域の日赤血液センターと協力し合い、互いに情報を交換している。
結果と考察
平成11年(1999年)の輸血後肝炎の発生数は15例(班員10施設、検索数1077例)で発生率1.4%と昨年より0.6%高かった。今のところ、このうちの2例はTTV関連のものと考えられた。残りの13例は非B非C型で現在その原因を解析中である。
平成11年中に全国の医療機関から輸血による感染として日赤に寄せられた全報告数は109例(HBV:44、HCV:64、HIV:1)であった。このうちの92例が解析可能であり、精査の結果、輸血血液が原因であろうと判断されたのはHBVの5例のみであった。またミニプールNAT 陽性血液の遡及調査などによって22例(HBV:15、HCV:5、HIV:2)感染例が報告され両者で計27例と昨年(29例)とほぼ同数であった。この27例(HBV:20、HCV:5、HIV:2)の原因血液は大部分がwindow期の採血によるものと推定されることから今後も輸血後感染症の監視体制を維持してゆくことが必要である。HBVについてはHCVに比べて増殖速度が遅く、window期間中のウイルス量が少ないことから、ミニプールNATで検査しにくい感染性のある献血血液の存在も考えられる。NATの感染予防に対する評価については今後数年の追跡調査を要するものと思われる。
TTVについてはウイルス学的な解析は進んでいるが肝炎との関連については未だに必ずしも明確ではない。TTVの出現と肝機能異常とが一致し、しかも献血者血液のTTV-DNAと患者のそれとが一致している例も報告されたが健常者にも高率にTTVが検出され、またALT上昇との関連性がないことも今回判明しており今後の臨床例での解析が待たれる。このような状況下に、国立感染症研究所で血清学的なTTVの抗TTV抗体検出系(ELISA法)が開発されたことは、従来はPCR法に頼らざるを得なかったTTVの検出がより手軽となり将来のTTVの臨床例での解析に大いに役立つのではと期待される。
肝炎以外の感染例について、本邦で始めて輸血を介して感染したバベシア症が報告されたことが注目された。献血者におけるこの感染症の感染頻度の調査等を含め何らかの対応策を求められることは必須である。わが国のHIV抗体陽性献血者数は年々増加し、1999年には63名(10万人あたり1.03人)が確認されてwindow期献血のリスクが危惧されている。本年は2例(献血者は1名)のHIV感染例が確認された。輸血を施行された患者については数ヵ月後のHIV抗体検査が望ましいとされているが医療機関の関心はそれほど高くはない。今回、班員2施設での調査では輸血後の患者からは幸いにもHIVは検出されなかったが、今後はもっと多くの医療機関が輸血後のHIV検査を行うべきであると考える。
これらの報告以外に、その他の感染症や輸血後感染症のスクリーニング以外の予防対策についての研究が報告された。輸血と非ホジキンリンパ腫との関係については現在のところ、明らかな関係は認められず、来年度に結論は持ち越された。
結論
献血者スクリーニングにNATが導入された現在、肝炎やHIV感染は更に減少するものと考えられる。しかし、NATの導入後であってもHBV、HCV、HIVなどのwindow期採血による感染があり得ること、TTVやHGVと肝炎との関係がまだ未解決であること、更にはこれらのウイルス感染以外にも輸血で感染する可能性のあるバベシア感染症等の新たな感染症が出現したことなどから、今後も輸血後感染症の追跡調査は必要であると考える。

公開日・更新日

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