医療機関における放射線利用の合理化と新しい機器の法制面への取り入れに関する研究

文献情報

文献番号
199900777A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機関における放射線利用の合理化と新しい機器の法制面への取り入れに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 啓吾(群馬大学)
研究分担者(所属機関)
  • 濱田達二(日本アイソトープ協会)
  • 小西淳二(京都大学)
  • 棚田修二(放射線医学総合研究所)
  • 佐々木武仁(東京医科歯科大学)
  • 青木幸昌(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
X線診断は我が国では約11,000の医療機関で使用され、X線CTを代表とした画像診断としてのみならず、インターベンショナルラジオロジー(IVR)と呼ばれる患者への浸襲の少ない治療法も発展してきた。核医学の分野ではがん、脳疾患、虚血性心疾患などの患者を中心として、数多くの放射性医薬品(アイソトー プ)が病気の診断、治療を目的に投与されている。また放射線治療の分野では、放射線のもつ細胞障害作用を利用して、大量の放射線を病変部に照射することによって病気の治療を行う。がん患者の治療には欠かせないものである。一方、患者などへの医療被曝が世界で最も多いなどの問題をかかえている。医療用放射線機器の進歩が目覚ましく、欧米で次々と臨床応用されている。しかし我が国では法的規制のために利用できない放射線機器も多い。例えば核医学吸収補正用線源、血管内照射器具、密封小線源治療用具、移動型術中照射装置などは、我が国では医療法などによる法規制のために使用できない。また医療機関内に設置された小型サイクロトロンで製造された放射性薬剤も我が国では他の医療機関と共同利用することができないなどの問題点も指摘されており、法令上の取り扱いを整理し、医療放射線の安全で有効な利用推進が早急に期待されている。
研究方法
専門家によるワーキンググループを編成し、医療法施行規則改正に向けて、現実的な対応策を立案した。米国での放射性医薬品の製造基準、欧米で開発されつつある新しい医療用放射線機器の現状を調査するとともに、米国の放射線専門家との会合により、放射線診療ガイドラインの作成について意見を交換した。さらに歯科診療におけるX線利用と管理基準について検討した。
結果と考察
1. 医療目的での放射線の利用と防護に関する合理的管理規制の研究(濱田達二)
合理的管理規制の一環として、少量の非密封放射性同位元素の使用に対する規制の合理化につき、12名の研究協力者からなるワーキンググループを設け、国際的な動向も考慮しつつ、研究を実施した。また、一昨年我が国で定められたI-131及びSr-89投与患者の提出基準に関して、1997年に改正された米国の連邦規則及び規制指針の内用を参考資料として紹介した。
2. 放射線治療における精度管理と新しい治療用放射線機器の研究(青木幸昌)
移動式放射線治療装置は、術中照射の臨床応用上の問題点の解決に大きく貢献する。放射線治療装置の移動は医療法上禁じられているが、近く法令改正の見込みである。改正後の装置の適正で効率的な管理、運用方法について検討を行い、試案を得た。
3. 日本および外国における新しい放射線機器の開発状況の調査(棚田修二)
新規に開発される診療用放射線装置・器具のうち、特に癌治療の分野で注目されている陽子線治療、重粒子線(重イオン線)治療等の粒子線治療が、我が国の医療機関で臨床応用に向けてどのような方針を持ち、現状はどこまで進展しているか、またその実現のために解決すべき問題点等を明らかにするための調査と情報収集を行った。我が国では、炭素イオン線による重粒子線治療は、放射線医学総合研究所、筑波大学陽子線医学利用研究センターで既に数百例の治療症例があり、その有効性が認められている。さらに、国立がんセンター東病院でも既に陽子線治療が開始されており、若狭湾エネルギー研究センター、兵庫県立粒子線治療センター(仮称)や静岡県がんセンター(仮称)でも建設中、あるいは計画中である。粒子線治療についての各施設の取り組みについて報告するとともに、その解決すべき問題点を明らかにすることを試みた。
4. 放射性医薬品の適正で有効な利用とガイダンスレベルに関する諸外国の動向調査(小西淳二)
現在米国で作成中のFDGを中心とした放射性医薬品の製造、管理、使用に関するGMP草案を入手し、我が国の現状と比較検討した。その結果、細部での修正点は必要であるものの、グローバルスタンダードとしてGMPに準拠したPETに関する規定の早急な整備が必要であると考えられた。
5. 歯科診療におけるX線利用と管理基準の研究 (佐々木武仁)
ガラス線量計を用いる口内法X線撮影における患者の入射部位皮膚表面線量(空気カーマ)測定の信頼性について検討した。比較の対象として、国家標準トレーサビリティのある電離箱線量計を用いる空中空気カーマ測定と半価層測定からの実効エネルギー推定を同時に行った。ガラス線量計による空中空気カーマ測定は極めて信頼性が高いことが明らかにされたが、実効エネルギーの測定値は電離箱線量計による値に比べて再現性に乏しく、X線線質の変動を検出するには問題があると結論された。大学病院の歯科放射線科での上顎大臼歯部撮影のガイダンスレベルは約7mGyと推定され、部位別の撮影頻度分布データから口内法撮影全体のガイダンスレベルが今後推定可能と考えられた。
本研究班の提言は、厚生省による「医療放射線管理の充実に関する検討会」の検討を経て、医療法施行規則の改正を促すのに役立つ。新しい放射線機器を医療機関で使用できるようになると、患者の診断能が向上し、患者のQOLに優れた治療が可能になるとともに、国民への放射線被曝を軽減させることができる。さらに将来、これをきっかけとして我が国の医療機器メーカーが、欧米で開発された新しい医療用放射線機器を改良。よりよい放射線医療に貢献するものと期待される。一方、我が国は患者などへの医療被曝が世界で最も多いなどの問題をかかえている。そこで本研究においては諸外国の動向を調査するとともに、米国での放射線診療ガイドラインを翻訳、出版したが、我が国の医療制度、保険制度の実情に適した「放射線診療ガイドライン」を作成する必要があると考えられる。
結論
医療法施行規則の改正により欧米で開発された新しい医療用放射線機器が、我が国でも使用できるようになり、診療のみならず、国産の医療機器の開発が推進されるものと期待される。一方、それら新しい医療機器の適正な使用に向けて、関係学会、団体と共同で使用ガイドラインの作成が急がれる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-