循環シミュレータを用いた医療用具の安全性・有効性評価の科学的方法論の確立

文献情報

文献番号
199900770A
報告書区分
総括
研究課題名
循環シミュレータを用いた医療用具の安全性・有効性評価の科学的方法論の確立
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
梅津 光生
研究分担者(所属機関)
  • 松田 武久
  • 川副 浩平
  • 藤本 哲男
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は高性能の血液循環シミュレータを開発し,それを駆使することで,諸種の医療用具の定量的・客観的特性データの取得を行う.
研究方法
1)医療用具の力学的評価
(1) 新しい左室モデルの製作
従来の砲弾型シリコン製左室モデルに螺旋状にシリコンチューブの接着を行うことで、生体様ねじり運動の実現を目指し製作した。
(2) 左室モデルの運動観察
製作した新しい左室モデルの動きの確認はハイスピードビデオカメラを用いて行い、従来の左室モデルとの動きを比較した。さらに、旋回の程度を定量的に計測し、両モデルの比較検討を行った。
2)医療用具の医用材料工学的評価
(1) 冠動脈模擬チューブの製作
In vitro試験で冠動脈ステントの力学的特性を評価するため生体冠動脈と同等の弾性特性を有する内径3mmのシリコンチューブを製作した.製作したチューブの弾性特性の評価項目としてはstiffness parameterを採用した.
(2) 冠動脈ステント静特性評価法の確立
製作した冠動脈模擬チューブを用いて,バルーン収縮直後のステント径変化率(Recoil)および,チューブ外側の加圧に伴うステント径の変化率(Radial strength)をmicroscope(キーエンス㈱,VH-6300)により取得し,画像解析から計測した.
3)シミュレータと動物実験、臨床データとの整合性の検討に関する研究
(1)動物実験
健常成犬(16kg)に対して上行弓部大動脈から総腸骨動脈分枝部直上の腹部大動脈にePTFE製人工血管(φ8)によりバイパスを作成し、大動脈血管内圧流速波形を取得した。同時に超音波心エコー装置(Toshiba、 SS-380A)により左室容積を算出し、基礎データの取得を行った。
(2) 血液循環シミュレータ
早大梅津研において開発された機械式血液循環シミュレータは生体心臓血管系において生体血管と同等の弾性特性を有するテーパ型シリコン管からなる下行大動脈モデル部を人工血管(φ26)に置換し、一定の左室拍出条件下でポンプ仕事を算出した。
4)人工弁の加速耐久試験のあり方の検討
(1)ISO5840で推奨されている加速耐久試験方法で実験を行い,
(2)有限要素法による応力解析を行い,加速耐久試験及び動物実験での弁破損位置と比較した。
(3)そこから得られる知見をもとに,「弁閉鎖時の衝撃力」及び「作動流体の温度」に着目してさらに実験を行った。
結果と考察
血液循環シミュレータを用いた医療用具の特性の科学的評価方法について、次の成果を得た。
1)血液循環シミュレータの改良
世界初のねじれ機能を有する人工心室の開発に成功した。これは生体の左心室形状を模擬したシリコン製の砲弾型のサック外側に細いヒモを貼り付け、生体心臓の収縮期のねじれを機械的に再現したものである。この開発により、生体動脈系と同様の旋回流を得ることができ、シミュレータの精度向上が証明された。したがって、今後の新しい人工弁評価へのモデルの応用の可能性が示された。
2)冠動脈ステントの力学的試験
生体冠動脈と同等の特性(ヤング率)を有するシリコン製冠動脈模擬チューブの開発を行い各種冠動脈ステントを同一条件下で性能評価を行う方式を検討した。その結果、Radial strength とRecoilという2つの評価項目がステント特性の比較を行う上で有効なパラメタであることが判明した。
3)人工血管の力学的性能評価
血管外科の臨床においては、人工血管による置換手術が主である。これを心臓機能という観点から眺めながら人工血管特性を評価するという新手法の提案のための基礎実験を動物(犬)とシミュレータとで行った。
4)人工弁の加速耐久試験のあり方の検討
動物で300日以上の使用実験のある高分子弁を用いて、複数種類の人工弁加速耐久試験装置自体の性能評価試験を行った。
< 考察>
1)血液循環シミュレータの改良
生体の左室壁は収縮期において心尖部は反時計周りにねじれるように運動し、また、左室長軸は心周期において平均で8.5deg変化するという生体情報を考慮すると、今回製作したモデルはねじり運動、長軸の角度変化に関しても生体の収縮形態を十分に模擬しているものと判断される。また、このねじり運動に起因する旋回流の発生についてもその傾向は観察され、この点を考慮しても従来のモデルと比較して生体に近いモデルであると考えられる。
2)冠動脈ステントの力学的試験
本研究で取り上げた冠動脈ステントのRecoilおよび Radial strengthの結果は臨床報告と対応していることが確認された。また、同形状で、材質のみがタンタルおよびステンレスと異なるステントをとりあげ、その材料の引張試験を行なった結果、ステンレスの弾性率が高いことが判明した。この結果は、RecoilおよびRadial strengthのデータ上に明確な違いとしてみられ、各種冠動脈ステントの力学的特性の比較についても有効であるといえる。
3)人工血管の力学的性能評価
動脈血管系負荷の定量化を行うため、血管内圧流速波形から入力インピーダンスを調べた。生体では、人工血管バイパス時には非バイパス時に比べて特性インピーダンスにおいて約3倍高値を示した。血液循環シミュレータにおいても特性インピーダンスは生体と同様に約3倍高値を示した。心臓機能による人工血管置換時の動脈血管系特性の評価方法を確立するために、さらに実験、検討を進める必要がある。
4)人工弁の加速耐久試験のあり方の検討
ISOで推奨されている耐久試験方法では、高分子製弁の破損位置及び寿命のいずれも再現できないことがわかった。また、弁に作用する動的荷重を計測できるシステムを加速耐久試験装置に備えることは極めで重要であることが判明し、既存の販売されている人工弁加速耐久試験装置では、高分子製人工弁の耐久性予測に限界があることが示唆された。
結論
1)血液循環シミュレータの改良
左室内流れの影響を大きく受けると類推される人工弁やその他の人工臓器の特性を把握するには、単にポンプとしての機能を有する左室モデルではなく、より高度な左室モデルが必要であるといえる。今回新たに製作した左室モデルは、動きや旋回流の発生という点で生体の収縮形態を十分模擬しているものと判断され、シミュレータの精度向上が証明された。
2)冠動脈ステントの力学的試験
本研究において、独自に考案した冠動脈ステント静特性評価法はin vitroで冠動脈ステントを評価するのに妥当な手段であると考えられた。また、RecoilおよびRadial strengthが冠動脈ステントの特性評価における有効なパラメータであることが判明した。
3)人工血管の力学的性能評価
心臓ポンプ機能の変化から見た人工血管特性に関する基礎検討を生体(犬)と血液循環シミュレータにおいて行った。人工血管置換よる生体心臓機能に対する影響が定量的に示されたが、血液循環シミュレータにおいても、生体と同様な結果を得た。
4)人工弁の加速耐久試験のあり方の検討
特に高分子製弁では、①弁閉鎖時の衝撃力を標準的な拍動数での実験で得られる値より小さくし、②水温を高温にして加速耐久試験を行うことが、弁破損位置という観点から考えると信頼性のあるデータを得るのに極めて重要であることが明らかになった。

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