各種薬剤による横紋筋融解症の発生機序解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900755A
報告書区分
総括
研究課題名
各種薬剤による横紋筋融解症の発生機序解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
埜中 征哉(国立精神・神経センター武蔵病院)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(国立精神・神経センター)
  • 菊池博達(東邦大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋細胞は薬物、機械的、あるいは化学的刺激で壊死に陥る。そのメカニズムを分子生物学的レベルで解析するには麻酔剤による悪性高熱の原因解明が最も近道である。なぜならば悪性高熱症ではリアノジン受容体遺伝子の変異が見いだされ、リアノジン受容体とCa代謝の関係を追求すればよいからである。しかし、薬物中毒による横紋筋融解症は全てリアノジン受容体の異常によるものではない。
薬物中毒での横紋筋融解症ではどのようにして筋線維は壊死し、その後に再生するのか、それを明らかにすることが先決である。壊死から再生へのメカニズムを知る実験的モデルでは局所麻酔剤であるマーカイン筋注が最も優れている。マーカインは細胞膜は侵すが、筋線維の基底膜、神経、血管は侵さないので速やかな再生がえられるからである。このモデル系を用いて、壊死後の経過で筋発生分化誘導遺伝子であるMyoD, myogenin の発現を検討し、再生に関する分子機構を明らかにする。
研究方法
・悪性高熱症の生理学的、分子生物学的解析:麻酔中に悪性高熱症を来した例から筋生検を行い小胞体の機能をみるためにCICR検査を行った。CICRで筋小胞体の機能亢進が認められた症例の筋組織学的検討を行い、さらにリアノジン受容体遺伝子(RYR1)の遺伝子解析を行った。・薬物による筋線維壊死と再生機構の解明:成熟雄ラットの後肢、ヒラメ筋に0.5%塩酸ブピバカイン(マーカイン)を0.5ml筋注し、その後の壊死、再生を組織学的、組織化学的、電子顕微鏡的に検討した。さらに筋分化誘導遺伝子であるMyoD, myogeninの抗体を用いてその発現を経時的に検討した。
結果と考察
薬物と横紋筋融解症の関係がもっとも明らかなのは麻酔中にみられる悪性高熱症である。その一部は常染色体優性遺伝をとり、リアノジン受容体遺伝子に変異がある。・悪性高熱症患者生検筋の生理学的、分子生物学的検討:過去に麻酔中に悪性高熱症を来した例の生検筋でCICRの亢進を認め、筋小胞体の機能に異常をみとめたのは平成11年度の6名を含め、計14例となった。これらの症例は典型的な悪性高熱症であると考えられた。この14例の中でリアノジン受容体遺伝子に変異を認めたのは2家系で、いずれもArg2434His変異があった。その他の例では変異は認められなかった。海外での報告をまとめると悪性高熱症患者の約10%がリアノジン受容体遺伝子に変異をもっている。我々の結果もそれに類似していた。ただし、リアノジン受容体遺伝子は巨大で50近いエクソンがあり、すべてを簡単にシーケンスできない。今後より簡便な方法で検討すればリアノジン受容体遺伝子変異の意義がより明らかにされるであろう。CICR系を用いた実験的研究ではクロールプロマジン、新しい局所麻酔剤であるロビバカインは小胞体の機能亢進を来さなかった。すなわち、両薬剤は悪性高熱症(横紋筋融解症)を引き起こす可能性が低いと考えられた。・筋の壊死と再生の分子機構の解明:種々の薬物を慢性に投与しても、薬物中毒に見られる横紋筋融解症のモデルを作ることは困難であった。そこで、筋線維の壊死のメカニズムを知り、さらにその後の再生のプロセスを知るため、確実に筋線維の壊死を惹起するマーカインの筋注を行って実験を進めた。マーカインを注射すると、筋細胞は直ちに過収縮し、筋原線維の断裂をみた。壊死後72時間目には中心核をもつ初期の再生線維(筋管細胞)が出現するようになった。筋線維壊死後28日目には筋線維経は完全に対照と等しくなり、筋線維タイプの分化も完了していた。しかし中心核は残っていた。実験的壊死・再生のプロセスでもMyoD, myogenin両遺伝子の発現がみられた。MyoDは筋線維壊死後24時間目には発現し始め、48時間目にピークに達した。一方 myogeninは48時間目から発現し始め、72時間目にはピークに達した。両遺伝子はその発現を急速に減じたが、壊死後14日目にも少量ながら発現が残っていた。今回の実験で、再生時にも筋発生分化誘導遺伝子が発現することを再確認した。我々が行った実験での新知見はその発現の時間的経過を明らかにしたことである。横紋筋融解症のメカニズムの解明とそれに続く再生に関して、さらに研究を進める予定にしている。
結論
麻酔剤によって起こる横紋筋融解症(悪性高熱症)のメカニズムを知るため筋小胞体機能亢進の有無をCICRで検討した。亢進例、14例でリアノジン受容体遺伝子の変異を検索したが、わずか2例に変異を認めたのみであった。悪性高熱症は多因性である可能性が考えられた。薬物による横紋筋融解症のメカニズムを明らかにするため、局所麻酔剤であるマーカインのラット骨格筋への筋注
を行った。筋線維は確実に壊死に陥った。それはマーカインの筋細胞膜への毒性と考えられた。壊死後の再生について分子生物学的見地からの解析を行った。

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