新医薬品に用いる品質評価技術を高度化するための調査及び研究

文献情報

文献番号
199900754A
報告書区分
総括
研究課題名
新医薬品に用いる品質評価技術を高度化するための調査及び研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
棚元 憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 石橋無味雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 谷本剛(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治験や基礎研究において有効性と安全性が確認され、医薬品として製造(輸入)承認された物質や最終製剤は、その有効性と安全性を確認した物質や最終製剤と同一の性状と品質をもつものを、医薬品として継続的に国民(患者等)に供給されなければならない。この医薬品の性状と品質の確保は、中央薬事審議会における審議と、審議により決定される性状及び品質に関する規格、さらには特別審査試験との二つの方法で行われている。この特別審査試験は、医薬品製造(輸入)承認申請書の「規格及び試験方法」欄に記載された試験方法の適否について検討するもので、その「規格及び試験方法」は、製造(輸入)承認され、治療の場に医薬品が届けられるとき、その有効性と安全性を担保する唯一手段である。それゆえ、試験方法は正確さや再現性に優れた方法でなければならない。しかしながら、近年の医薬品の製造には、その合成方法や製剤化の過程において最先端かつ革新的な科学技術が用いられ、そのため高度で複雑な分析法や製剤試験が必要になっている。本研究はこれら先端技術応用医薬品等の評価技術を開発することを目的に、製剤機能試験法の開発、製剤中に含まれる不純物の分析技術(製造経路で残存、発生する不純物、分解不純物、エンドトキシン等)の開発評価等を行い、医薬品の有効性及び安全性の確保をより確実にすることにより国民の福祉の増進に寄与しようとするものである。平成11年度は1)国際調和に基づく残留有機不純物レベルの日局への適用、2)エンドトキシン作用の種特異性の問題を明らかにすることによるエンドトキシン試験法の正しい評価と改良法の検討、3)カリジノゲナーゼを例として生物検定法の理化学的又は生化学的方法への代替法による医薬品品質評価技術の高度化を目的として以下の研究を行った。
研究方法
1)不純物試験法の開発に関する研究:日局の液体クロマトグラフ法及びガスクロマトグラフ法の操作条件を、「0.1%」規格値レベルの分析が行える分析システムの規定方法等について検討を加え、日局医薬品各条の表記を改める。2)エンドトキシン試験法の正しい評価と改良法の検討:リピドAはSalmonella abortus equi、S. minnesota、S. typhimurium LT2、Escherichia coli 03K2a2b:H2の各菌種由来と化学合成リピドAを用いた。エンドトキシン活性測定:TNF産生活性は細胞培養上清に遊離される TNFを測定した。産生 TNFは L929 細胞に対する毒性によって定量した。 NF-kappa-Bの活性化はI-kappa-B-alphaの分解をWestrn blotting法で測定することにより行った。リムルス活性は定量的リムルス測定試薬(Endospecy; 生化学工業)を用いて、p-nitroaniline の発色により測定した。3)生物検定法の理化学的又は生化学的方法への代替による医薬品品質評価技術の高度化:キニンの酵素免疫測定法を利用したキニナーゼ試験法及びキニン遊離能試験法を確立し、その有用性について検証する。ブラジキニン酵素免疫測定法はマイクロプレートの抗体-2結合ウェルに抗体-1溶液を分注、静置後、希釈した試料溶液及び対照液100mLを加え、室温で1時間静置する。次に標準抗原溶液を加え、4℃で一晩静置する後基質溶液を加え、30分間後反応を停する。波長490nmにおける吸光度を測定する。
結果と考察
1)不純物試験法の開発に関する研究:日局に規定されている液体クロマトグラフ法及びガスクロマトグラフ法の「操作条件」を「試験条件」及び「システム適合性」として整備し、選定すべき分析システムの性能について明示する表記を開発した。これにより液体クロマトグラフ法及びガスクロマトグラフ法を用いた試験方法により分
析目的物質を、規格値レベルの濃度において精度よく定量できる方法に改めることができた。このように日局における要求レベルを改めることにより、承認申請に際して、日局を準用することにより自動的にICHのガイドラインを遵守した「規格及び試験方法」が設定されることになった。2)エンドトキシン試験法の正しい評価と改良法の検討:サルモネラリピドAの生物活性:マウスおよびヒトMΦ細胞におけるTNF産生誘導活性;サルモネラ菌由来のLPS,リピドAのTNF産生誘導活性をマウスの腹腔マクロファージ、マウスJ774-1細胞で調べたところ、これらマウス細胞ではサルモネラのリピドAはいずれもLPSより1/10 程度活性が落ちるが、非常に強い活性をもつことが分かった。同様のエンドトキシンによるTNF産生活性をMΦ様細胞に分化させたヒトのTHP-1, U937 細胞を用いて調べたところ、サルモネラLPSはマウス細胞と同様に10 ng~10 micro-g/ml の範囲で強い活性を示したのに対し、リピドAはほとんど活性を示さなかった。化学合成リピドAを用いた実験では、マウス細胞ではサルモネラ型 516は大腸菌型 506より活性は若干落ちるものの、強い活性を示した。一方ヒト細胞で、506はマウス細胞と同様に強い活性を示したのに対して、516は全く活性を示さなかった。I-kappa-B-alphaの分解においても類似の結果を得た。また、サルモネラのLPS、リピドAはいずれも大腸菌型のものと同等のリムルス活性を示した。一方、大腸菌型のリピドAはヒトにもマウスにも同様に強力な作用を示す。この2つのリピドAの構造はわずかに一本の脂肪酸のみである。すなわちヒト細胞はこのわずかな構造を認識してその応答を決定していることになる。3)生物検定法の理化学的又は生化学的方法への代替による医薬品品質評価技術の高度化:(1) ELISA法によるキニナーゼ試験;キニナーゼ試験のための反応条件(反応温度,カリジノゲナーゼ濃度,ブラジキニン濃度及び反応時間)の検討結果に基づいて、ELISA法によるキニナーゼ試験法を設定した。(2)ELISA法によるキニン遊離能試験;キニン遊離能試験のための反応条件(カリジノゲナーゼ濃度、キニノーゲン濃度及び反応時間)の検討結果に基づいて、ELISA法によるキニン遊離能試験法を設定した。さらに、ELISA法によるキニナーゼ試験法、キニナーゼ試験法のバリデーション行い、いずれも(1)併行精度、(2)室内再現精度(測定日間)、(3)室内再現精度(測定者間)、(4)室間再現精度、(5)直線性,測定範囲及び定量限界、いずれにおいても良好な結果が得られた。バイオテクノロジーの進歩によって特異的なモノクローナル抗体も容易に入手が可能になってきた現在、本研究で示したように、酵素免疫測定法のような生化学的方法は生物検定法よりも優れた品質評価法であると考えられる。
結論
有機不純物の定量を液体クロマトグラフ法又はガスクロマトグラフ法を用いて行うとき、「システム適合性」を設定することとし、この項に選定すべき分析システムの質を示すため「システムの性能」及び「シス特別審査試験テムの再現性」を設定した。エンドトキシン試験法の信頼性の確認に関する研究においては、代表的な細菌であるサルモネラ型のリピドAがヒトとマウス間に於いて種特異性を示すことを見いだした。エンドトキシンは現在リムルステストのみによって管理されようとしているが、本研究の結果は、リムルス反応はいうに及ばず、高等動物の反応もヒトとは大きな差があることを示しており、動物実験やリムルス試験によるエンドトキシン活性の安直な理解に警鐘を与えるものである。生物検定法の理化学的又は生化学的方法への代替に関しては、動物を使用する生物検定法に比較して、特異抗体を用いる酵素免疫測定法等の生化学的試験法は医薬品、特に生物薬品の品質評価において精度、感度、定量的評価、動物愛護などの観点からより優れた評価技術であると考えられる。

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