日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究

文献情報

文献番号
199900753A
報告書区分
総括
研究課題名
日本薬局方等医薬品基準の規格・試験方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小嶋 茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 岡田敏史(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 早川堯夫(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 石橋無味雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 佐竹元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 谷本  剛(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 宮田直樹(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における医薬品の品質に関する基準書である日本薬局方をその時点での科学技術の水準に見合ったものにしていくための改正作業、GMPによる製造工程のバリデーションに基づいて医薬品の品質保証を行うことが定着しつつある中で薬局方はどうあるべきかの検討作業、ICHやPDG(薬局方検討会議)における薬局方の国際調和の推進に対応する作業などの作業量は膨大なものとなっており、担当する専門家に過大な負担がかかるようになってきているため、コメントや返事の英文への翻訳や文書のコピー、送信などを行ってくれるなどのサポートなしにはスムーズに行えない状況にある。本研究は、そうしたサポート体制を構築する端緒となること、ならびに、その下で日本薬局方の改正や国際調和の作業を積極的に行い、国民の福祉の向上に資することを目的とする。
研究方法
各課題毎に研究協力者を選定し、それぞれの課題の内容に応じて専門家による研究班を組織し、必要な場合には、製薬企業側からの協力研究者の参加を求めて、研究を進めた。
結果と考察
平成11年度には、下記のような研究を行い、多くの成果を挙げた:
1.通則等関連 ICHの化学合成医薬品の規格及び試験方法に関するガイドライン(Q6A)において提起された「日米欧の三薬局方間で試験法の調和が達成された場合、各薬局方の試験法とその判定基準が同等であり、interchangeable である(いずれを用いてもよい)ことを如何にしてユーザーに分かるように示すか?」の課題について検討し、日本薬局方の場合、このような国際調和に関する事項を通則、製剤総則、一般試験法あるいは医薬品各条などの本文中に直接記載することは難しいが、第十三改正日本薬局方で設けられた参考情報欄を活用することによって日本薬局方中に記載可能であるとの結論が得られた。参考情報欄は、日本薬局方の本文と一体になっているものの、「付録」の扱いであり、医薬品の品質確保に必要な事項や参考となる事項であるにも拘わらず、本文には記載が難しい事項は、この欄に記載可能と考えられる。
参考情報欄に『国際調和項目』と題した項目を設けて、調和を達成した試験法や各条を一覧表にまとめて収載するとの日本薬局方の方針は、ICHの専門家会議におけるこの課題の検討の中でも了承され、PDGにおける調和のプロセスの案にも、「USPとEPは、調和した一般試験法の中にそうした文言を記載するとともに、通則や general policy statement にも記載する考えである。一方、日本薬局方は、どの試験法が調和の達成されたものであるかを、参考情報欄に表形式で記載する考えである。」のように反映されている。
2.製剤試験法関連 含量均一性試験法および重量偏差試験法の国際調和に関して検討を行った。含量均一性試験の代りに重量偏差試験を適用できる閾値として、25mg/25%が国際調和案として提示されている。その妥当性を検証すべく、市販製剤について含量均一性試験および重量偏差試験を行い、主薬含量、主薬濃度と混合のばらつきとの関係を検討した。混合のばらつきは、同じ主薬含量、濃度の製剤であっても、製品によって著しく異なり、製造法によって著しく影響を受けることが明らかとなった。したがって、重量偏差試験の適用の可否は、基本的には個々の製品の混合のばらつきを基に決定すべきである。しかしながら、25mg以上の製剤では、例外的なケースを除いて混合のばらつきが小さいことから、25mgを重量偏差試験適用の閾値とすることは可能と判断される。主薬濃度に関しては、混合のばらつきとの間に明確な関係を見出せず、25%を重量偏差試験適用の閾値とすることを合理的に説明するのは難しいことが分かった。
3.理化学試験法関連 第十三改正日本薬局方第二追補が平成11年12月に公布され、理化学試験法関連では、熱分析法と残留溶媒試験法の2つの試験法が新たに収載されることになった。また、これらの試験法の新規収載とともに、既収載の試験法の見直しが進められた結果、オスモル濃度測定法(これまでの浸透圧測定法の名称を変更したもの),原子吸光光度法,その他の試験法(水分測定法,ヒ素試験法および窒素定量法)の一部改正が行われた。引き続いて、第十四改正へ向けて、吸光度測定法,赤外吸収スペクトル測定法,粘度測定法,pH測定法および電気滴定法の改正が予定されている。新規試験法の収載ならびに一部改正の行われた試験法の改正に向けて検討した内容について報告するとともに、第十四改正で改正が予定されている試験法についても、改正に向けて検討を行っている内容を報告した。
4.生物医薬品関連 NIBSCより依頼を受けて、ソマトロピンの第2次国際標準品を設定するための国際共同検定に参加した。第1次国際標準品を基準にして、SE-HPLC法による含量測定およびtibia法による生物活性試験を行った。また、SE-HPLC法,RP-HPLC法および等電点電気泳動法による純度試験ならびにペプチドマップによる同等性の検討を行った。その結果、新規国際標準品の候補品の含量は、SE-HPLC法を用いた測定により、2.0mg/ampouleと検定され、現行標準品と同じであった。tibia法を用いた生物活性試験の結果より求めた比活性は、3.0mg/mgと計算され、現行標準品と同等の生物活性であることが明らかになった。SE-HPLC法、RP-HPLC法および等電点電気泳動法による純度試験の結果から、重合体や類縁タンパク質および荷電の異なる不純物の含量は、新規国際標準品の候補品の方がはるかに低いことが示された。すなわち、新規国際標準品の候補品は現行標準品よりも純度が高いと結論された。トリプシンによるペプチドマップより、現行国際標準品と新規国際標準品の候補品との同等性が示された。以上より、第2次国際標準品の候補品は、含量および比活性が現行標準品(第1次国際標準品)と同等であり、純度は現行標準品よりも高いものであったので、SE-HPLC法による含量測定や生物活性測定の標準品として十分な品質を有することが分かったため、この結果をNIBSCに報告した。
5.化学合成医薬品関連 日本薬局方(日局)の医薬品各条における類縁物質の試験には、医薬品承認審査ハーモナイゼション国際会議(ICH)において合意された原薬の不純物に関するガイドラインに基づいて、0.1% のレベルの類縁物質が精度よく定量できる試験法が必要となりつつある。0.1% のレベルの類縁物質の分析を行うためには、従来、類縁物質の試験に多用された薄層クロマトグラフ法(TLC法)ではなく、液体クロマトグラフ法(HPLC法)およびガスクロマトグラフ法(GC法)を整備して活用することが重要となる。そこで、日局の医薬品各条においてHPLC法又はGC法を用いる際の分析システムに対する適切な要求水準について研究を行い、これに基づいて医薬品各条における操作条件の表記をどのように行うかを検討した。これらの検討により、操作条件の記載が整理されるとともに、「検出の確認」や「システムの再現性」などのシステム適合性試験に関する項目の内容が整備されて、医薬品各条における類縁物質試験の真度や精度を向上させることができる、現在の科学水準に見合った規格および試験方法の設定が可能となった。
6.生薬関連 我が国において漢方製剤に用いられている生薬は約80%が中国から輸入されている。それらの生薬の医薬品としての品質を確保するとともに、その安定確保を図るためには、日中両国間において医薬品として繁用されている生薬の品質規格に関する認識が共通となることが重要である。そこで、これらの生薬の起源植物を解明し、両国薬局方の生薬に関する品質規格の調和を検討した。本年度は、中国国家葯典委員会および中国葯品生物制品検定所との間で、日本薬局方および中国葯典の生薬に関する規格の調和を目指して、共通のテーマを設定して研究を進めた後、両国の担当研究者、生薬関連企業や大学の研究者を交えて、第2回のシンポジウムを北京で、第3回のシンポジウムを東京で開催し、品質規格ならびに安全性に関して討議した。第2回シンポジウムでは品質を中心に検討し、第3回シンポジウムでは安全性を中心に検討し、両国の独自性を尊重しながら、共通点については、今後、両国において薬局方の追補を作成する際に記載の統一を図ることとした。
7.日抗基関連 日本抗生物質医薬品基準(日抗基)を廃止して、抗生物質医薬品の品質基準は日本薬局方(日局)に規定するとの厚生省の行政判断を受けて、本研究では、昨年度から、日抗基収載の抗生物質医薬品各条を日局に取り込む際の問題点について調査研究を行っている。昨年度は、日局と日抗基の規格設定の差異について検討し、日局における抗生物質医薬品の品質規格のあり方を明確にした。本年度は、規格試験法設定の根拠となる一般試験法について、日局と日抗基の相違点を明らかにし、日局に収載される抗生物質医薬品の規格試験の実施に支障が生じないように対策を講じることを目的に研究を行った。日抗基には36種の一般試験法が設定されているが、その中の23種の試験法は日局の一般試験法を準用しており、特に問題はない。一方、アセチル基定量法、グラジエントクロマトグラフ法、結晶性試験法、バイオオートグラフ法、ヒスタミン試験法および力価試験法の6つの試験法は、日抗基独自の試験法であり、また、乾燥減量試験法、水分測定法、注射剤の不溶性異物検査法、発熱性物質試験法、pH測定法、プラスチック製医薬品容器試験法および無菌試験法の7つの試験法は、原則的には日局の一般試験法を準用しているが、抗生物質製剤固有の試験条件に対応するための記述が追加されている。これらの試験法の内容を詳細に検討したところ、日局に取り込まれた抗生物質医薬品各条の規格試験に支障を来さないようにするには、少なくとも抗生物質の力価試験法を日局に新たに規定する必要のあることが明らかになった。また、日局一般試験法としての抗生物質力価試験法においては、微生物学的力価試験法を中心とした試験法とすることが適当であると考えられた。
8.名称関連 日本薬局方収載医薬品の化学名ならびに構造式の国際調和に関して、本年度は、昨年5年ぶりに改正されたBAN-1999(British Approved Names 1999)を参考資料として、英国の動向調査を中心に調査研究を行った。BAN-1999には2859品目の医薬品が収載されているが、この版では旧版の構造式が全て書き換えられ、医薬品規格集として整合性のとれたものとなっている。化学名も、"A Guide to IUPAC Nomenclature of Organic Compounds: Recommendations 1993" に従っていくつか変更されている。それ以上に大きな変更は、収載されている約350品目の医薬品名が国際調和の観点から変更されたことである。このように、構造式を含む医薬品データをコンピュータ処理に適したデータベース化する動きが各国で進んでおり、それをベースとして、コンピュータを利用した医薬品情報の国際調和作業が急速に展開されると予想される。
日本における医薬品の化学名の命名法ならびに構造式の表記法の基準である日本薬局方収載医薬品の化学名ならびに構造式に、IUPACやWHOの指針に沿った表記法を採用し、世界の趨勢に合致したものとする必要があることが改めて確認された。
なお、本研究の目的の一つとしているサポート体制の構築に関しては、各分担研究者の下で現在整備中である。
結論
研究結果の概要の項に記載したように、8人の分担研究者は、それぞれが担当する分野における日本薬局方の改正やその国際調和の課題に精力的に取り組んできている。
しかしながら、我が国における医薬品の承認審査や監視指導は、ICHによる国際調和の動きが加速し、GMPが国内的に広く普及する中で、そのあり方が大きく変わろうとしており、日本薬局方にも検討すべき課題が次から次へと提起されてきている状況である。例えば、ICHの化学合成医薬品の規格及び試験方法のガイドライン(Q6A)については、平成11年10月のICH専門家会議において最終合意に達したが、日米欧三薬局方の一般試験法の調和については、Q6Aの最終合意後も、ICHの場で行政当局、企業側および薬局方が協力して試験法の調和の作業を進めることとされており、日本薬局方にもこれに対応して試験法の調和を積極的に進めることが求められている。平成12年2月のICH専門家会議では、日本側の積極的な提案に基づいて、これまで調和が困難とされてきた含量均一性試験法、重量偏差試験法、溶出試験法および崩壊試験法の4つの試験法の判定基準について三局間で合意が成立したが、今後も日本側がこのような積極的提案を行い、調和に貢献することが求められている。
欧米では、国民の福祉の確保と向上のために、薬局方の改正作業とその基礎となる研究は政府の援助の下で行われている。一方、我が国では、日本薬局方の改正作業とそれを支える試験研究に多数の専門家が多大の時間を割いているにも拘わらず、そのほとんどは手弁当的な状態で行われており、こうした専門家の活動を促進し、その負担を軽減するための措置が国の手で十分に講じられているとは言い難い状態にある。日本薬局方が、USPやEPに伍して国際調和に主体的に係わっていくためには、欧米に比べていかにも貧弱な事務局体制を充実・強化することが必須と考えられる。この事務局体制の充実・強化が専門家の過大な負担を軽減する上での最大の眼目であり、現在の体制のままでは不十分な対応しかできず、かつ時間もかかるため、他の薬局方から常に改善を求められている状況にある。しかしながら、この事務局体制の拡充・強化がいつ実現するか見通しが立たないことから、本研究では、専門家の過大な負担を調和文書やコメントの英文への翻訳や文書のコピー、送信などを行ってくれるサポート体制を整備することによって少しでも軽減し、それをベースとして、種々の検討課題について日本薬局方を現時点での科学技術の水準に見合うとともに、国際的な整合性をもったものに改正するための検討を積極的に進めることを試みた。
平成11年度には、そうしたサポート体制の整備を行いつつ、種々の検討課題の検討を積極的に進め、多くの成果を挙げることができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-