経口固形医薬品の品質保証のための溶出試験適用に関する研究

文献情報

文献番号
199900751A
報告書区分
総括
研究課題名
経口固形医薬品の品質保証のための溶出試験適用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 宏泰(明治薬科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 青柳伸男(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 高橋則行(日本薬剤師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
42,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国においては、同一の薬物を同一剤形に同一量含有し、同一の効能・効果、同一の用法・用量を有する多銘柄の医薬品、先発医薬品と後発医薬品、が供給されている。これら医薬品の有効性、安全性が同等であることは、製造承認時において生物学的同等性試験によって確認されている。しかし、バイオバッチから実生産へのスケールアップ、日常の製造管理、製造機器の変更、添加剤の規格の変更、流通過程での保存などにおいて、医薬品のバイオアベイラビリティが変化する可能性のあることが指摘されている。バイオアベイラビリティの確認は基本的にはヒトを対象とする試験によっておこなうことが求められるが、バイオアベイラビリティの変化の可能性がある各過程においてヒト試験によって品質の確認を行うことは不可能である。しかし、ヒト試験に替わる簡便で迅速な試験法が確立しないまま、バイオアベイラビリティの変化の有無を試験することは行われずに今日に至っている。また、特に、医薬分業が進展するなか、従来、検討の対象とされてこなかった保険薬局を対象とする流通過程における医薬品の品質の確保が新たな課題となってきている。
本研究では、経口固形製剤を対象に、医療に供給される医薬品の品質を確保するための試験法として溶出試験法を取り上げた。溶出速度によって品質を評価する場合、そのバイオアベイラビリティは溶出律速になっていることが前提である。そのため、速やかに溶出する医薬品においては溶出速度の差異がバイオアベイラビリティの差異に対応しない可能性がある。一方、難溶性の医薬品では溶解速度がバイオアベイラビリティを決定するが、その溶解速度が消化管の生理的要因によって強く影響を受けるため、in vitro溶出試験法によって示される溶出速度の差異がバイオアベイラビリティの差異に対応しない可能性がある。また、その場合、剤形の違いが影響する可能性もある。本研究では、これら速溶性および難溶性医薬品を対象にin vitro溶出試験法の限界を、同一剤形間と同時に、異なる剤形間で明らかにすることを目的とした。また、同時に、保険薬局における医薬品の保存条件の実態調査を行い、その実態から苛酷保存条件を設定し、その条件における溶出速度の変化の測定結果から、保険薬局における医薬品の品質確保のあり方を明らかにすることを目的とした。
研究方法
○ 経口固形製剤の異なる剤形を対象とした溶出速度と生物学的同等性に関する研究
速溶性の医薬品、難溶性の医薬品を対象に、in vitro溶出速度とバイオアベイラビリティとの対応性を検討した。速溶性のモデル薬物としてロキソプロフェンナトリウム、難溶性のモデル薬物としてニフェジピンを選択した。68.1 mg相当量のロキソプロフェンナトリウムを含有する顆粒1製剤、錠剤2製剤、10 mg相当量のニフェジピンを含有する顆粒1製剤、錠剤2製剤で溶出速度の異なる試料を調製した。In vitro溶出速度の測定は、「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」の方法に準じて行った。撹拌強度を50~100 rpmに変化させ検討を行った。また、ニフェジピンにおいては、試験液に0.1%ポリソルベート 80を添加した場合も検討した。両薬物のバイオアベイラビリティは、それぞれ健康成人被検者21名を対象に空腹時に経口投与し、得られた薬物血中濃度から評価した。
○流通段階、特に保険薬局における医療用医薬品の品質確保に関する研究
都道府県薬剤師会を通じて、薬局、薬剤師会備蓄・管理センターなどを対象に、医薬品の保管管理に関するアンケート調査を行った。薬局の調剤室等における最も苛酷と考えられる保管条件(温度40℃、相対湿度75%)を設定し、アロプリノール錠14品目、ジクロフェナックナトリウム錠10品目、テオフィリン徐放錠3品目を開封したシャーレ上に360日にわたり保管し、それぞれの医薬品の公的溶出試験法に従い溶出速度を測定した。
結果と考察
○ 経口固形製剤の異なる剤形を対象とした溶出速度と生物学的同等性に関する研究
ロキソプロフェンナトリウム(68.1 mg)をモデル薬物とし、30分内に85%以上溶出する錠剤、顆粒を調製し、溶出挙動の差と生物学的同等性との関連性について検討した。85%溶出するに要する時間は、顆粒Gは2分以内、錠剤TAは約15分、錠剤TBは約30分であった。ヒトで試験した結果、顆粒Gを標準製剤とした場合、いずれの錠剤もAUCは同等で、Cmaxも信頼区間の下限値が許容値(80%)を少し下回っただけであった。したがって、パドル法、50 rpm、pH 1 - 7の範囲のいずれのpHでも30分以内に平均85%以上溶出するならば、剤形の差異を問わず、一般に生物学的同等性上、問題となるようなバイオアベイラビリテイの差を生じる可能性は少ないと判断される。この関係は顆粒剤、錠剤という剤形が異なる医薬品間においても適用できると推定された。
ニフェジピン(10 mg)をモデル薬物とし、非イオン性界面活性剤ポリソルベート80無添加の第2液(pH6.8)においで6時間以内に80%溶解する顆粒剤、6時間に50~60%程度の溶解しか示さない錠剤(A、B)を調製した。但し、錠剤A、Bはポリソルベート80を0.1%添加した試験液では6時間で70~80%溶解し、Aの方がBより速やかに溶解するように調製した。ヒトで試験した結果、顆粒剤と錠剤A、Bとの間にはAUCには同等性が認められたが、錠剤BはCmaxにおいては顆粒剤、錠剤Aとの間に非同等な関係が認められた。溶出速度は、パドル法、50rpmの条件で、ポリソルベート80を0.1%添加した条件よりも、むしろ、添加しない条件で測定するほうが、ヒトにおける製剤間のCmaxの差異を検出できることが示唆された。また、この関係は顆粒剤、錠剤という剤形が異なる医薬品間においても適用できると推定された。
○ 流通段階、特に保険薬局における医療用医薬品の品質確保に関する研究
薬局・病院等における医薬品の保管状態を調査した。その結果、薬局等では一時的にではあるが30℃以上の温度になる場合があることや、開封した医薬品を医療機関に比べて長期間保存している実態が明らかになった。苛酷条件下で保管した医薬品の品質を溶出試験によって試験した。各製剤とも360日の苛酷条件保管後においても公的溶出試験規格に定められた最終溶出時間の溶出率に適合していたが、その溶出挙動が保存前のものと異なる製剤が多数見られた。公的溶出試験の試験条件は単一条件であり、溶出挙動を評価することを試験目的とはしていない。長期にわたって多様な条件で保存されている医薬品の品質の評価において、特に、溶出の時間経過が品質に関連している徐放性製剤においては、多条件により測定された溶出速度を比較することにより、溶出挙動を評価することが必要であることを示唆する結果と考えられる。
結論
経口固形製剤を対象に、医療に供給される医薬品の品質を確保するための試験法としての溶出試験法の試験条件の設定の考え方と適用性に関し検討を行った。パドル法、50 rpm、pH 1 - 7の範囲のいずれのpHでも30分以内に平均85%以上溶出する製剤間にはバイオアベイラビリティに差異が認められなかったことより、この条件に入る易吸収性の薬物のバイオアベイラビリティは胃内容排出速度律速と推定された。第2液(pH6.8)においで6時間以内に80%溶解する顆粒剤、6時間に50~60%程度の溶解しか示さない錠剤間でバイオアベイラビリティを検討した。AUCには同等性が認められたが、Cmaxにおいて、製剤間に非同等な関係が認められた。溶出速度は、パドル法、50rpmの条件で、ポリソルベート80を0.1%添加した条件よりも、むしろ、添加しない条件で測定するほうが、ヒトにおける製剤間のCmaxの差異を検出できることが示唆された。なお、これらの関係は顆粒剤、錠剤という剤形が異なる医薬品間においても適用できると推定された。
薬局等では一時的にではあるが30℃以上の温度になる場合があることや、開封した医薬品を医療機関に比べて長期間保存している実態が明らかになった。苛酷条件下(温度40℃、相対湿度75%)で保管した医薬品の品質を溶出試験によって試験したが、各製剤とも360日の苛酷条件保管後においても公的溶出試験規格に定められた最終溶出時間の溶出率に適合した。しかし、その溶出挙動が保存前のものと異なる製剤が多数見られ、特に、徐放性製剤においては多条件により測定された溶出速度を比較することにより、溶出挙動を評価することが必要である可能性が示唆された。

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