動物組織由来医薬品等原材料の異常プリオンタンパク汚染の高感度検出法の開発

文献情報

文献番号
199900741A
報告書区分
総括
研究課題名
動物組織由来医薬品等原材料の異常プリオンタンパク汚染の高感度検出法の開発
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
澤田 純一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 品川森一(帯広畜産大学)
  • 棚元憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 菊池裕(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
伝達性海綿状脳症(プリオン病)の原因物質である異常プリオンタンパク(PrPSc)の、食品、医薬品、医用材料、およびそれらの原材料への混入が、国際的問題になっている。我が国でも、輸入されたヒト硬膜を介してプリオン病患者が発生している。医薬品、医薬部外品、化粧品にはウシ由来成分が多数含まれている。PrPScに汚染された外国産原材料が輸入される可能性は否定できないため、その検査のための高感度イムノアッセイ法の開発が望まれている。また、これまでに報告されているPrPScの検出法の多くは、プリオン病に罹った生体組織からの検出であり、脳組織というPrPScの含量が最も高い試料を対象にしており、脳以外の生体組織からの検出や、医薬品等原材料、医用材料の検査にはそのままでは適用できない。医薬品等原材料に混入した微量のPrPScを検出するための検査には、一層の高感度化と、個々の検体の種類に応じた適切な前処理(抽出、濃縮など)が必須とされている。
そこで、本研究では、医薬品等原材料中へのBSE病原体の汚染を想定して、その高感度検出法の開発を行う。また、in vitro細胞培養系による高感度検出法の開発も検討する。そのために、(1)免疫化学的検出法の一層の高感度化のための、高親和性抗体の作製と高感度ELISAの開発、(2)医薬品等原材料に混入した微量のプリオンタンパクの濃縮方法の開発、(3)細胞培養系を用いたin vitroバイオアッセイ法の検討を行う。それによって、実際の医薬品等原材料中の異常プリオンタンパク検出に必要な基本分析方法を開発することをめざす。
研究方法
1.抗プリオンペプチド抗体の反応特性の解析と新規抗体の作製
抗PrP抗血清の作製:ウシ、ヒトのプリオンタンパク(PrP)の部分ペプチドを、MBSを架橋剤にしてHSAまたはBSAに結合させたものを免疫抗原とし、ウサギに免疫した。
イムノブロッティング:各種抗PrP抗体について、ウシ、ラット、マウスの脳の膜画分、ヒトグリオーマ細胞株T98Gの膜画分を試料としたイムノブロッティングを行った。
2.医薬品・化粧品関連原材料中の微量汚染プリオンの濃縮方法の開発
金属塩によるプリオン沈殿:スクレイピー感染マウス脳乳剤を正常脳乳剤で希釈したものをモデル試料とした。各種金属塩を単独あるいは20 mM MgCl2と共に試料に加え、沈殿蛋白量の比較と、プリオンの回収量を比較した。プリオン構成タンパクPrPScは段階希釈を行ってイムノブロッティングにより半定量的に検出した。
磁気ビ-ズ法:ウサギ抗PrP抗体IgG画分を結合させた磁気ビ-ズ、および、ビオチン化したウサギ抗PrP抗体IgG画分を調製した。部分精製プリオン画分及び感染脳乳剤を正常脳乳剤で希釈したものをPK処理し、被験抗原として使用した。磁気ビ-ズへのプリオンの吸着は、SDS溶出後イムノブロッティングで定量した。系全体を評価する場合はペルオキシダ-ゼ標識ストレプトアビジンを用い発色により測定した。
3.培養細胞での正常プリオンタンパクの発現制御の解析
イムノブロッティング:ヒト・グリオーマ細胞株T98Gから全細胞溶解液を調製し、抗ヒトPrP抗体3F4を用いたイムノブロッティングを行った。
蛍光抗体法および免疫電顕法: T98G細胞をカバーグラス上で培養後、固定し、Triton X-100で処理した。次に、1次抗体としてヤギ抗ヒトPrP抗血清で、続いて、Alexa 488標識2次抗体(間接蛍光抗体法)または金コロイド標識2次抗体(免疫電顕法)で処理した。蛍光顕微鏡および電子顕微鏡でPrPの細胞内分布を調べた。
結果と考察
1.抗プリオンペプチド抗体の作製と抗体の性質の解析
ウシ、ヒトの各PrPのペプチド(bovine PrP(104-123)、bovine PrP(225-241)、human PrP(95-114)、human PrP(214-230))に対するウサギ抗血清を作製した。これら4種類の抗血清は、ウシPrPCにもヒトPrPCにも反応した。今後、アフィニティクロマトグラフィーによる抗血清の精製を行う予定である。
新たにウシPrPのC端付近のペプチド(Bovine PrP(217-236)、Bovine PrP(226-238))に対する抗血清の作製を行い、抗原ペプチドに反応する抗血清を得ることができた。現在、イムノブロッティングによる解析を進めている。
ウサギ抗PrP抗血清4種類、抗ウシPrPモノクローナル抗体3種類、抗ヒトPrPモノクローナル抗体2種類について、イムノブロッティングにおける反応性を比較した。いずれの抗体を用いた場合でも、PrPCの3本のバンドの内、最も分子量の大きなバンドが最も濃く検出されることは共通していたが、上から2本目、3本目のバンドの相対強度は、抗体によって異なっていた。こうした抗PrP抗体の反応特性の違いは、抗PrP抗体を使ってPrPの定量を行う場合には十分考慮する必要がある。
2.医薬品・化粧品関連原材料中の微量汚染プリオンの濃縮方法の開発
金属塩によるプリオン沈殿:11種の金属塩の内、ニッケル硫酸塩がMgイオンの存在下で最も夾雑タンパクが少なくプリオンが沈殿した。しかし、すでに開発した食塩存在下におけるポリエチレングリコール沈殿に比べ、はるかに夾雑タンパク量が多かった。金属塩を用いたプリオン沈殿は魅力的な方法と考えられるが、共存タンパクの共沈を阻止するために、塩類の濃度以外に界面活性剤の種類、濃度等の検討がさらに必要である。現状ではなお、ポリエチレングリコール沈殿法が実用的といえる。
磁気ビ-ズ法:磁気ビ-ズを用いたプリオン検出法は、実験室ではなく現場での利用を考慮して遠心操作を省く簡便な方法ということを念頭において検討した。磁気ビ-ズは、部分精製プリオンでは有効に働いたが、組織抽出物では、使用した界面活性剤および酵素、組織中の阻害物質が磁気ビ-ズ上の抗体との反応を阻害した。しかし、酵素処理後の試料を1% Sarkosyl、20 mM MgCl2, 1 M NaCl存在下で100℃ 30分加熱することで、抗体との反応の阻害を低下させることができた。実用化には、さらに条件検討が必要である。
3.培養細胞での正常プリオンタンパクの発現制御の解析
昨年度、T98G細胞におけるPrPCの発現が、その細胞密度に依存し、高細胞密度下では高い発現量を示すこと、および、細胞から放出されるautocrine factorsは発現に関与しないことを報告した。接触阻止のかかった細胞の多くは休止期にあることから、今回、PrPC発現への細胞周期の影響を検討した。高細胞密度で培養した定常期の細胞に比較して、対数増殖期および休止期の低細胞密度下の細胞のPrPC発現量は共に低く、PrPCの発現は細胞周期に依存しないことが明らかになった。
プリオンタンパクの細胞内分布を検討した。PrPCの発現は、低細胞密度下では核周辺に局在し、接触阻止がかかった細胞では核周辺および細胞膜上に広く存在していた。
神経毒性があるとされているヒトPrPの部分ペプチドhPrP (106-126)が、T98G細胞のPrPC発現に及ぼす影響を調べた。hPrP (106-126)は、低細胞密度下のT98G細胞に対して一過性にPrPC発現を誘導した。
以上の結果より、T98G細胞表面のPrPCは、近傍の細胞同士の接着により相手の細胞表面にあるPrPC結合分子と相互作用し、その細胞でのPrPC発現の調節に関与していると推定される。また、T98G細胞における外来性プリオンタンパクの生理作用を調べ、その反応を検出することにより、異常プリオンタンパクの迅速なin vitroバイオアッセイ法を開発できる可能性が今後期待できる。
結論
1.イムノブロッティングにおいて、ウシPrPC、ヒトPrPC上の異なる部位を認識するウサギ抗血清を得ることができた。また、それらの抗血清及び既存・市販の抗PrPモノクローナル抗体について、イムノブロッティングにおける反応特性を比較検討した。また、ウシPrPのC端付近のペプチドに対するウサギ抗血清を新たに作製した。
2.動物組織乳剤中の微量プリオンを金属塩により選択的に沈殿できるかを検討した。硫酸ニッケルがやや有望であったが、以前に検討したポリエチレングリコ-ル沈殿法には及ばなかった。抗PrP抗体でコ-トした磁気ビ-ズを用い、全く遠心操作を必要としない検出系を作出した。
3.ヒト・グリオーマ細胞株T98GにおけるPrPCの発現量および細胞内分布は、その培養条件下の細胞密度に依存し、細胞周期には依存しないことを見いだした。また、PrPの部分ペプチドが、PrPCの発現を一過性に誘導した。以上の結果から、PrPCの発現および細胞内分布は、細胞間相互作用により制御され、細胞表面のPrPCが関与していることが示唆された。

公開日・更新日

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