医療用具の適正使用に関する研究

文献情報

文献番号
199900738A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用具の適正使用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 道夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 澤 充(日本大学)
  • 酒井順哉(名城大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療用具は動物実験や小規模の臨床試験等によって評価承認されているが全ての不具合を予測する事は難しい。また、市販時に意図されたものとは異なった使用法によって、本来の機能が十分発揮されず不具合が起こることが少なくない。不具合情報の整備、使用法の改善等、医療用具の適正使用を目的として研究を行う。 コンタクトレンズ(CL)と眼内レンズ(IOL)は、屈折異常の矯正または白内障術後の屈折矯正として、各々年間約100万枚、50万枚以上が使用されており、QOLの向上に大きな貢献をしている。しかし、CLはしばしば角膜、結膜傷害を来たし、失明を含む視力障害例がみられるため、CLの不適正使用に関する研究および眼科臨床においてみられるCLによる眼傷害の症例の検討を行う。IOLは、生涯良好な視力の維持効果を有する必要があり、組織適合性に優れていることが要求される。本研究においては何らかの理由で摘出されたIOLについて回収依頼を行い、その摘出理由、摘出IOL表面の細胞反応について検討を行った。 医療用具の添付文書の記載要領が明確になっていないため、その体裁・表現方法とともに記載項目について、平成10年度厚生科学研究「医療用具の添付文書の記載要領に関する研究」で策定したが、その妥当性を客観的に評価する必要を認めた。また、医療機関で使われる用具だけでなく、在宅・家庭で使われる用具等についても検討する必要があり、厚生省クラス分類および在宅・家庭用用具に類別し、記載要領の検討を試みた。 一方、医療用具を臨床現場で安全に使用するためには、医療スタッフによる用具の適正使用が不可欠である。特に、新規の医療用具が従来の構造・原理と異なる場合には、不具合再発防止のための不具合情報が迅速かつ的確に提供される必要がある。現状での医療機関からの不具合報告が極めて少ない原因を明確にするため、「医薬品等安全性報告制度」の周知や不具合報告体制の実態とともに、不具合発生の実態およびリスクマネージメント委員会(リスク委員会)の組織化意識に関する調査を試みた。 また、日米の不具合情報に関するデータベースを作成することも研究の視野に入れる。
研究方法
CLの適正使用については、(1)日本大学医学部におけるCLによる眼傷害症例をその原因別に検討、(2)同救急外来受診症例におけるCL関連症例の実態調査、(3)我が国におけるCL眼傷害についての資料の収集、を行った。IOLの適正使用については、日本眼内レンズ屈折手術学会会員を主な対象に、何らかの理由により摘出されたIOLについて学会内の眼内レンズ・インプラントデータシステム委員会(事務局:日本大学医学部眼科教室)に送付する組織を構築し、摘出理由の検討ならびにIOL表面に付着している細胞について免疫組織学的検討を行った。 平成10年度において策定した「医療用具の添付文書の基本的記載要領ガイド(暫定案)」の内容について、製造/輸入販売業者(267社)に、その妥当性をアンケート調査によって調べた。また、用具を厚生省クラス分類および在宅用・家庭用などに類別し、記載要領項目の必要性評価を行った。 一方、医療用具の不具合調査は、一般病床200床以上の医療機関1895施設を対象に、各機関における8つの診療科、および7つの部門の医療スタッフからの回答を求めた。調査内容は、「医療用具の不具合・感染症報告制度」や「医薬品等安全性情報報告制度」の把握状況と共に、安全性情報の管理・保存・確認方法、今後の厚生省の報告制度のあり方、及び不具合(医療事故再発)防止のためのリスク管理体制のあり方に関する意識である。また、用具の使用に伴う重篤な影響および死亡に至った不具合、処置や判断ミスによる不具合、添付文書
の記載不備に伴う用具の不具合およびヒヤリミスの発生状況を、医療機器、医療器材、医療材料に分けて調査した。 さらに、企業、医療機関からの不具合報告に関するデータベースを作成すると共に、ネットワーク検索の方法について検討した。
結果と考察
CLによる眼傷害症例はレンズケアの不良による感染症、不適切な過剰装用による角膜組織傷害などに大別された。感染症は角膜組織傷害も強く、重篤な症例では失明に近い状態に至るものもみられた。過剰装用は比較的一過性または十分な治療により再使用ができる例が大部分であった。救急外来受診例は眼科救急症例約2,257例の内の208例にのぼった。症例では、ソフトCLが最も多く、ハードCLとディスポーザブルCLがほぼ同数であった。不適正使用の原因としては使用者自身に問題があるが、医療側、販売側にも十分な使用説明が必要と考えられる内容も多くみられた。販売側と医療側とのあいだの問題の存在を示唆する事例もみられた。IOLについては29施設、96個の摘出IOLの提供を得ることができた。これらの摘出理由としてはIOLのパワーの要変更例もみられたが、多くは網膜剥離などの併発症によることが原因であり、IOLそのものが直接の原因となるものは見られなかった。IOL表面には異物に対する反応細胞以外に様々な生理活性物質、成長因子などがみられ眼内での生体反応を検討することができた。 「医療用具の添付文書の基本的記載要領ガイド(暫定案)」の調査に対する有効回答は、122件(回収率:45.7%)であり、ガイドの必要性・あり方に賛同する企業は114件(93.4%)を占めた。また、取扱説明書の多くが今回のガイドに満足していない項目があり、各企業で今後の説明書に今回のガイドを前向きに取り込む意識が強いことが分かった。次に、用具を厚生省クラス分類および在宅用・家庭用などに類別し、記載項目の必要性を評価した結果、必要な項目の重要性には分類によって大きな差異は認められないことが分かった。今回、医療用具一般名称を明確化したことで、ガイドがさらに使い易いものとして、製造/輸入販売業者に提示できるようになった。今後、各関係団体が添付文書の記載要領ガイドラインを策定するとともに、各製造/輸入販売業者がこのガイドを参考にすることが期待できる。 また、不具合発生等の実態調査では、501施設の医療機関から3,056件の有効回答が得られた。各種安全性情報制度の周知および内容把握は、医療スタッフで約半数程度であり、部局スタッフでさらに低値に留まった。また、不具合およびヒヤリミスの発生に対して、病院長および担当部長には、約6割前後がその概要を報告しているが、厚生省に報告する件数は全体の1割に満たない現状にあることが分かった。平成10年度の不具合発生の実態として、患者に重篤な影響又は死亡に至った不具合だけでも「医療機器」が136件、「医療器材」が51件、「医療材料」が200件となり、同年度に厚生省に報告された件数(76件)を大幅に上回った。今回の調査において不具合およびヒヤリミスを多く報告した部局は、各診療科の医師ではなく、臨床工学技士、診療放射線技師、臨床検査技師、看護婦等のコメディカルスタッフが勤務する部局であり、「医薬品等安全性情報報告制度」の報告資格者の見直しの必要性を暗示した。また、医療機関におけるリスク委員会の組織化は、施設規模が拡大するほど進んでおり、院内における不具合報告や、安全性情報の通知体制、院内で作成した診療マニュアルの整備、見直し、周知について良好である一方、300床未満の医療機関では、リスク委員会の組織化だけでなく、不具合報告や安全性情報の通知体制、診療マニュアルの整備の検討が必要な施設が多いことが分かった。 さらに、国内の不具合報告に関するデータベースには平成年度の1,100件以上のデータを入力し、米国の報告例と共に、Webブラウザで検索可能なシステムを作成した。
結論
本研究によりCLによる眼傷害についてその原因を含めて臨床的に分類することができた。また眼傷害はケア不良、過剰使用など多くは使用者自身の使用上の問題が主体であることがわかったが、医療側、販売側の説明
不足、安易な使用の助長の問題もみられた。今後の課題としてあらためてCLの適正使用についての環境の構築の必要性が考えられた。IOLの組織学的検討は生体適合性に優れたIOLの開発に極めて有用な情報を与えるものであり、今後とも摘出IOLの回収、分析をおこなうシステムの構築の重要性が考えられた。 医療用具等の添付文書記載要領ガイドを厚生省クラス分類の立場で評価することができた。今後、各製造/輸入販売業者に対して、記載要領項目の妥当性をアンケート調査によって実施するとともに、「医療用具等の添付文書記載要領ガイドブック」を策定する必要がある。一方、医療機関におけるリスク委員会の組織化および医療用具の不具合の現状が明らかにできた。医療機関において予想した以上に不具合が発生しているにも関わらず、不具合報告が院内に留まり、厚生省へ報告されてない現状を明確にした。今後、報告制度の義務化の必要性、報告資格者の範囲、不具合報告システムの意義などに関する意識調査を行い、不具合報告のあり方について医療機関側の意識をさらに明確にする必要がある。 また、不具合情報に関するデータベースを作成した。 本研究によって医療用具の適正使用に関する問題点が明らかになったが、引き続き実効のある方策を求めて研究を続けてゆく必要がある。

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