医療機器のEMC基準並びにその実施法に関する研究

文献情報

文献番号
199900736A
報告書区分
総括
研究課題名
医療機器のEMC基準並びにその実施法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
菊地 眞(防衛医科大学校医用電子工学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 井上政昭(泉工医科工業)
  • 小野哲章(神奈川県立衛生短期大学)
  • 内山明彦(早稲田大学理工学部)
  • 古幡 博(東京慈恵会医科大学)
  • 坪田祥二(東芝・品質保証部)
  • 山口宣明(アイカ・技術部)
  • 渡辺 敏(北里大学医療衛生学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の医療施設では多数の医療機器が使用されており、その中には強力電磁界を出力する治療機器と電磁界の影響を受けやすい検査・診断機器が含まれている。昨今、これらの機器の間で電磁的相互干渉が生じ、場合によっては人命に影響を及ぼすような事故例が報告されている。したがって、これらの機器が調和して動作し、誤動作や破壊を生じないような電磁環境対策を講じる必要がある。本研究では、これらの機器が最低限備えるべき機器基準と病院等の設備面で対応すべき設備基準、そして使用する際に注意すべき使用指針について検討し、医療用具承認の際のEMC基準策定に資する研究を行うことを目的とする。なお、本研究ではEMCにまつわる国内・外の規格の動向を調査し、これらの規格の中で制定された内容が現在の我国における医療機器の実状に整合するEMC規格であるかについて検討した。
研究方法
上述の研究目的にのっとり、平成11年度はEMC規格の最新情報に基づく調査・研究を行うことに重点をおいた。治療機器については、問題の多い電気メスの放射電磁界強度に関する定量データを平成10年度に引き続いて調査した。また、国際規格の最新審議内容を入手し研究における一般的ガイドラインの検討に反映させると伴に、これに基づいて医療機器のEMC管理のあり方についてさらに踏み込んで検討した。体内植込機器や在宅医療機器も今後さらに日常生活の中で普及することが予測されるので、これらのEMC問題を併せて検討した。一方、機器側の基準だけでは実際の現場レベルではEMCが十分確保されないので、加えて設備基準と使用指針の考え方を提示し、医療における電磁環境の総合的対策について調査・研究した。
結果と考察
本年度においては、以下の各項目に関して研究を実施した。
1.医用電気機器に関する一般的ガイドライン
2.治療機器のガイドライン
3.植込機器のEMI管理
4.在宅医療機器のガイドライン
5.医療設備と使用指針の考え方
6.医療機器のEMC管理の考え方
7.医療施設におけるEMCの実態とその対策
平成10年6月より、日医機協傘下の全工業会が各々の特殊性を勘案しながらもほぼIEC 60601-1-2 (1993年版)で制定された要求事項を尊守するガイドラインを導入しており、機器そのものに関するEMC対応は序々に進捗しつつある。さらに、平成12年度にはIEC 60601-1-2 (1993) にのっとった日本工業規格(JIS)が制定される見通しである。ただし、IEC 60601-1-2規格は現在なお多くの事項にわたって検討作業が続けられており、2001年には改正される見通しがある。それらの内容は現規格よりもさらに激しくなることが予測され、我国の医療器機産業界にも多大な困難を引き起こしかねない危惧がある。平成11年度には新しい医用電気器機安全通則(JIST 0601-1)が制定されたが、そこではEMCに関する一般的要求事項が削除されている。EMC基準のJIS化は今後薬事法との関連においても極めて重要な意味を持つことになり、今後早急にそれら基準、規格の適用などについて整合化を検討する必要に迫られている。
具体的事例としては、現在改定作業中のJIS原案、例えばJIST 0601-2-24(2000)`輸液ポンプ及び輸液コントローラの安全に関する個別要求事項'やJIST 0601-2-31(2000)`内部電源形体外式心臓ペースメーカの安全に関する特別要求事項'等においてもみられる。前者においては、第36項電磁両立性についてIEC 60601-1-2を適用してもよいといった規定内容にしている。ただし、特に救急車内の無線送信器やジアテルミー機器で発生する電磁界や450MHzと900MHzで作動する携帯電話の普及が輸液ポンプ又は輸液コントローラの作動に問題を引き起こすことが明らかになったことを受けて、第36項に属するエミッション(36.201)やイミュニテイ(36.202)に関してIEC 60601-1-2に定められた基準よりも厳しい要求を規定するなど、JISとして数年後に見込まれるIEC 60601-1-2の改定を先取りした形でより強いEMC対策を要求している。また後者においては、対象となる医療機器が温度が管理されていない場所、静電気処理カーペットなど静電気放電の確率と程度を低減する特別の予防措置を講じていない環境で使用されることを勘案して、静電気放電(36.202.1)に関してより厳しい基準を定めており、具体的にはレベル4(操作者の介入を必要とするような一時的劣化、機能又は性能の低下が容認されるレベル)でも、試験電圧を15KVに規定した。
一方、現時点では医療機器の許認可に際して、EMC対応の性能や安全性が全く問われていない。しかしながら、今後は、2000年を目処に制定されるEMCのJISが制定されると、機器に対する個別JISのなかに大幅に取り入れられることが予測され、それらのJIS制定時期を勘案しながら、薬事法に基づく医療機器の許認可基準においても何らかのEMCへの対応を講じる必要が生じよう。加えて今後は、医療施設における設備規制や使用管理規制といった、いわば医療側に対する要求事項が論議される必要がある。いずれにしても、医療現場の中で一人でも多くのEMCに関する正確な知識をもった専門家が育つことが望まれる。 医用電子機器の相互干渉防止基準を策定し、さらにそれを実施するためには、たんに種々の基準値を定めるだけでは実践的ではなく、真に実行するためには実際に伴う種々の周辺事情や環境も併せて整備していく必要がある。さらに、医療現場においては周囲環境や機器配置関係などの様々な要因により電磁環境が微妙に左右されるから、医療現場において医療スタッフが簡便に電磁界強度を実測できる広周波帯域で使用できる簡易電磁界強度モニタなどの技術もあわせて開発していくことが望まれる。すなわち、EMC基準のJIS化は今後薬事法との関連においても極めて重要な意味をもつことになり、今後早急にそれら基準、規格の適用などについて整合化を検討する必要に迫られている。
結論
医療機器の電磁的相互干渉防止基準に盛り込むべき考え方と最近生じた具体的事例については、各班員が国内・外の本問題に関係する諸活動に深くかかわっており、平成11年も第1年度に引き続いてほぼ洗い出されたものと考える。平成10年6月から開始された日医機協のガイドライン制定とその実施の動きから、今後医療機器として許・認可される大方の機器は、EMC基準におさまる性能になることが予想される反面、例えば日医機協ガイドラインの実施状況の調査結果から見てEC等への輸出を行っている大企業や一部の中企業を除き、かなりの部分の中・小企業、あるいはそれらの業界団体ではEMC対策に技術的、人的、資金的対応に大幅な遅れがあることが判明した。今後医療機器を提供する側にEMC対応策に関して温度差が生じることが問題になろう。さらに、ガイドラインは医療機器の本体のみに適用範囲が限定されており、したがって各医療施設が購入した医療機器とパーソナルコンピュータやプリンタなどを現場で接続するシステム使用や、その他の家電製品 (電気毛布、マッサージ器、テレビジョン等)を患者が持ち込んで併用した場合などについては、医療施設内の電磁環境が確保されるか疑問が残る。これらについては今後更に検討すると伴に、本報告書の「医療設備と使用指針についてのガイドライン」及び「医療機器におけるEMC管理の考え方」で示すような設備面や使用者側に対する要求事項も併せて必要になることがEMC確保に不可欠と思われた。この他、最近は日常生活環境における電子化が著しく進行しており、携帯電話により通信衛星と直接通信するための携帯電話の高出力化、高速自動車道路料金所などにおける無人化(無線化)など電子化に伴う電磁的影響の可能性が高まっている。さらに、今後の高齢化社会においては電動車椅子などの普及に伴ない電動用モータや制御回路への電磁波の妨害、盗難防止監視システムからの心臓ペースメーカーへの影響などが懸念される。本報告書の内容に基づき、生産者、使用者、並びに行政側から医療機器に関する電磁環境の論議を引き続いて継続して行い、細部にわたる合意を煮つめていくことが強く望まれる。

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