文献情報
文献番号
199900732A
報告書区分
総括
研究課題名
中毒者のアフターケアに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
内村 英幸(国立肥前療養所)
研究分担者(所属機関)
- 村上優(国立肥前療養所)
- 原井宏明(国立療養所菊池病院)
- 内田博文(九州大学法学部)
- 近藤恒夫(日本ダルク)
- 鈴木健二(国立療養所久里浜病院)
- 下野正健(福岡県精神保健福祉センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
薬物依存・中毒者に対するアフターケア体制を具体的に調査、検討し、そのリハビリテーションにむけて今後あるべき病院や地域プログラム、法システムの在り方を包括的に提案すると共に、具体的な援助・介入技法の開発を目的とする。
研究方法
1)病院プログラムについては国立肥前療養所に薬物リハビリテーションプログラムDRPを作成し、入院した薬物依存症を肥前物質使用障害面接基準をもちいて評価を行った。これを転帰調査のコホートとした。
2)福岡県精神保健福祉センターにおいて薬物依存家族教室プログラムを開発し、試行した。また福岡と佐賀地区において関係機関のネットワーク作りを試みその方法論を検討した。
3)民間の薬物依存回復者施設であるダルクを利用して回復に至った者について発病から回復に至る経過を調査した。
4)薬物自己使用事犯のダイバージョンについてドイツ及びフランスを中心に比較法的な研究と、わが国の法律実務における法社会学的研究方法を用いた。
5)高校生に対して薬物乱用防止講演を行い、前後に生徒の意識調査を行い講演の効果の判定を行った。
6)アメリカ合衆国の中で日系人が多く、依存性薬物でも覚醒剤への依存が多いハワイ州において治療施設であるHina Mauka における症例を通して治療システムの日米比較を行った。
2)福岡県精神保健福祉センターにおいて薬物依存家族教室プログラムを開発し、試行した。また福岡と佐賀地区において関係機関のネットワーク作りを試みその方法論を検討した。
3)民間の薬物依存回復者施設であるダルクを利用して回復に至った者について発病から回復に至る経過を調査した。
4)薬物自己使用事犯のダイバージョンについてドイツ及びフランスを中心に比較法的な研究と、わが国の法律実務における法社会学的研究方法を用いた。
5)高校生に対して薬物乱用防止講演を行い、前後に生徒の意識調査を行い講演の効果の判定を行った。
6)アメリカ合衆国の中で日系人が多く、依存性薬物でも覚醒剤への依存が多いハワイ州において治療施設であるHina Mauka における症例を通して治療システムの日米比較を行った。
結果と考察
1)病院調査では60人平均年齢26.1(±7.7)歳より肥前物質使用面接基準に基づくデータが得られた。比較的若年者が多く、来院の経験はダルク、一般医療機関、精神科専門医療機関が主で、一部保健、司法・矯正機関の紹介があった。家族離別した者が多く、依存している薬物は有機溶剤44%、覚醒剤35%等であった。二重診断を受けた者は精神分裂病15%、躁うつ病エピソード18%等であった。司法・矯正処遇を受けた体験は65%にのぼった。
若年の薬物依存症が多く受診しており、家族崩壊が進行しているものの、まだ家族機能を残しているものが多い。初期介入では多様で地域ネットワークにのって受診が動機付けられている。司法処遇も多くの者が受けており、これが「治療の動機付け」につながる症例もある。シンナーの割合が高いのは地域特性に加えて若年が主なことによる。二重診断も多く、疾病性の強い症例が受診している。
2)薬物依存家族教室は1クール5回とし2クールを試みた。1回平均8家族の参加があった。理解度を知るチェックリスト、これまでの対応を振り返るワークシートを作成して試行した。
今回行ってみて、本家族教室に求められる役割は、・正しい知識や接し方を学ぶ、・同じ問題を持つ者同士の出会いやわかちあいの場を提供する、・家族が本人から離れる場を作るという点であると思われた。1クール目は自助グループにつながっている参加者が多かったが、自助グループでわかちあいを重ねて、ある程度知識はあると考えていたメンバーからも知識充足を希望する声が挙がった。そのため、2クール目は知識供与に配慮しながら実施中である。薬物依存家族教室には、集団療法的アプローチを中心にしながら知識供与を臨機応変に入れる形が望ましいと思われた。今回開発したチェックリストやワークシートを利用することによって、同じテーマでも一度きりの参加に終わらず継続性が保ちやすいこと等が明らかになった。
関係機関のネットワークでは広域圏の福岡では保健所単位をブロック化して関係機関を選定・招集して実務担当者会議を6回開催し事例検討を行った。小規模県である佐賀県では県全体を対象として薬物問題連絡会議1回と、保健・医療・司法等関係機関を対象とした事例検討会を3回、教育関係を含めた「ネットワーク在り方研究会」を1回開催した。
福岡県は、人口にして佐賀県の約5倍強の規模であるため、保健所等で開催されているサービス調整会議を模した会議をセンターでモデル的に開催した。主な効果は、・司法・法務行政機関のネットワークづくりへのモチベーションが高まった・実務担当者間の連携のきっかけとなった・事例検討中心なので、実務上の連携方法がイメージしやすかった、の3点である。参加者のアンケートには、会議の継続や、地域レベルでの開催を希望する意見が多く挙げられた。しかし問題点として、・センターでの開催は、教育や警察が対象としにくく限界がある・家庭裁判所や児童相談所は、援助対象年齢が限定されているため、成人事例では実務がイメージしにくい、という2点がある。
佐賀県は、保健・医療・司法の3機関が連携を持ちながら支援・対応できることを目標に、センターで行う予定の、薬物関連問題相談事業における事例検討会をモデル的に開催した。その結果、今まで連携の機会の殆どなかった司法機関の参加を得ることができ、具体的な事例検討を通して、各機関間の薬物事例への認識や対応の差異について共通理解を持つことができた。また、家族も含めた事例への継続的な援助の必要性が明らかになった。「ネットワークのあり方研究会」では、教育関係者も含めて、現状の問題点とその対応について具体的な意見交換が可能となり、任意の研究グループの意義が確認できた。
3)ダルクを利用して回復した者50人よりデータが得られた。平均年齢31.7(±6.3)歳で、依存していた薬物は有機溶剤48%、覚醒剤56%、大麻50%等を中心に多剤使用した者が多かった。薬物使用開始年齢は平均16.0(±3.9)歳、薬物への依存は18.3(±3.9)歳、薬物依存と自覚したのは25.9(±5.1)歳、ダルクにつながったのは26.8(±5.5)歳、回復へのターニングポイントを得たのは28.1(±5.2)歳であった。司法、矯正施設体験者は54%、医療施設体験者は92%であった。
ダルクを利用してクリーンが1年以上継続した回復途上にある者の調査である。薬物依存が始まり、薬物依存と自覚をするまでに8年近くの時間が経過し、様々なエピソードが展開されていく。その間に少年院や刑務所など司法・矯正施設の経験をした者は46%にのぼり、医療機関を体験した者は92%となっている。これらの機関でどのような介入や教育、治療を受け、その意味が本人にどのように受け止められているかは今回調査されていない。回復の緒につくには「底つき」までの体験と時間が必要とすることは明らかとして、これらの時間を短縮する介入方法が検討されてしかるべきと考えられる。また回復した者については医療の関与が司法の関与よりも多いことは、この方面の援助体制整備を必要としていることを示唆する。
4)ドイツにおける薬物自己使用犯へのダイバージョンについて明らかにした。また我国において治療を要する薬物自己使用少年を保護観察処分に対し、その下で治療を受けさせる道が存在することが明らかになった。
少年法24条は、要保護少年に対する保護処分として、少年院収容(14歳以上)、児童自立支援施設又は児童養護施設への収容という施設内処遇の他、社会内処遇である保護観察処分を定めている。実務では、保護処分の正式決定前の試験観察を一種の社会内処分として用いている。薬物自己使用少年をダイバージョンし、必要な治療を受けさせようとする場合、後者の社会内処遇、なかでも保護観察が注目されるが、これまでは治療を要する薬物自己使用少年への適用は殆どなされていない。予測困難な治療の強制は法的に無理というのが理由とされてきた。しかし、活用すべく工夫の余地があることが明らかとなった。強制には至らない範囲ではあるが、保護観察処分に付された少年の保護者等に強力に働きかけて入院等、治療を行わしめるという道である。
5)6つの高校の生徒の回収のアンケートは約1600人であった。講演前の調査では、高校生の薬物に対する関心は高く、使ってみたい薬物には、眠気の取れる薬や痩せる薬、頭がさえる薬という回答が30%を越えていた。違法性薬物に関しては、18%が薬物容認的な態度を示していた。違法性薬物に誘われた経験を持つ生徒は12%存在したが、彼らを薬物接近群、その他の生徒を薬物非接近群として比較すると、薬物接近群は、何らかの意味で使ってみたいと回答した者が49%で、薬物非接近群とは大きな差が存在した。
講演後の調査では、講演に対して面白かったという回答と面白くなかったという回答がそれぞれ20%で、どちらでもないという回答が60%であり、講演がインパクトを持たなかったようであるが、専門家の講演とDARCメンバーの体験談ではどちらが良かったかという質問でDARCメンバーの体験談が良かったという回答が80%に達していた。
6)ハワイ州における薬物依存治療システムについて急性期治療(州立病院)、回復施設(Hina Mauka)、また薬物裁判所Drug Courtの実際を報告した。またHina Maukaの利用者の38人(男25人、女13人)の肥前面接基準に評価をえて日米比較を行った。
若年の薬物依存症が多く受診しており、家族崩壊が進行しているものの、まだ家族機能を残しているものが多い。初期介入では多様で地域ネットワークにのって受診が動機付けられている。司法処遇も多くの者が受けており、これが「治療の動機付け」につながる症例もある。シンナーの割合が高いのは地域特性に加えて若年が主なことによる。二重診断も多く、疾病性の強い症例が受診している。
2)薬物依存家族教室は1クール5回とし2クールを試みた。1回平均8家族の参加があった。理解度を知るチェックリスト、これまでの対応を振り返るワークシートを作成して試行した。
今回行ってみて、本家族教室に求められる役割は、・正しい知識や接し方を学ぶ、・同じ問題を持つ者同士の出会いやわかちあいの場を提供する、・家族が本人から離れる場を作るという点であると思われた。1クール目は自助グループにつながっている参加者が多かったが、自助グループでわかちあいを重ねて、ある程度知識はあると考えていたメンバーからも知識充足を希望する声が挙がった。そのため、2クール目は知識供与に配慮しながら実施中である。薬物依存家族教室には、集団療法的アプローチを中心にしながら知識供与を臨機応変に入れる形が望ましいと思われた。今回開発したチェックリストやワークシートを利用することによって、同じテーマでも一度きりの参加に終わらず継続性が保ちやすいこと等が明らかになった。
関係機関のネットワークでは広域圏の福岡では保健所単位をブロック化して関係機関を選定・招集して実務担当者会議を6回開催し事例検討を行った。小規模県である佐賀県では県全体を対象として薬物問題連絡会議1回と、保健・医療・司法等関係機関を対象とした事例検討会を3回、教育関係を含めた「ネットワーク在り方研究会」を1回開催した。
福岡県は、人口にして佐賀県の約5倍強の規模であるため、保健所等で開催されているサービス調整会議を模した会議をセンターでモデル的に開催した。主な効果は、・司法・法務行政機関のネットワークづくりへのモチベーションが高まった・実務担当者間の連携のきっかけとなった・事例検討中心なので、実務上の連携方法がイメージしやすかった、の3点である。参加者のアンケートには、会議の継続や、地域レベルでの開催を希望する意見が多く挙げられた。しかし問題点として、・センターでの開催は、教育や警察が対象としにくく限界がある・家庭裁判所や児童相談所は、援助対象年齢が限定されているため、成人事例では実務がイメージしにくい、という2点がある。
佐賀県は、保健・医療・司法の3機関が連携を持ちながら支援・対応できることを目標に、センターで行う予定の、薬物関連問題相談事業における事例検討会をモデル的に開催した。その結果、今まで連携の機会の殆どなかった司法機関の参加を得ることができ、具体的な事例検討を通して、各機関間の薬物事例への認識や対応の差異について共通理解を持つことができた。また、家族も含めた事例への継続的な援助の必要性が明らかになった。「ネットワークのあり方研究会」では、教育関係者も含めて、現状の問題点とその対応について具体的な意見交換が可能となり、任意の研究グループの意義が確認できた。
3)ダルクを利用して回復した者50人よりデータが得られた。平均年齢31.7(±6.3)歳で、依存していた薬物は有機溶剤48%、覚醒剤56%、大麻50%等を中心に多剤使用した者が多かった。薬物使用開始年齢は平均16.0(±3.9)歳、薬物への依存は18.3(±3.9)歳、薬物依存と自覚したのは25.9(±5.1)歳、ダルクにつながったのは26.8(±5.5)歳、回復へのターニングポイントを得たのは28.1(±5.2)歳であった。司法、矯正施設体験者は54%、医療施設体験者は92%であった。
ダルクを利用してクリーンが1年以上継続した回復途上にある者の調査である。薬物依存が始まり、薬物依存と自覚をするまでに8年近くの時間が経過し、様々なエピソードが展開されていく。その間に少年院や刑務所など司法・矯正施設の経験をした者は46%にのぼり、医療機関を体験した者は92%となっている。これらの機関でどのような介入や教育、治療を受け、その意味が本人にどのように受け止められているかは今回調査されていない。回復の緒につくには「底つき」までの体験と時間が必要とすることは明らかとして、これらの時間を短縮する介入方法が検討されてしかるべきと考えられる。また回復した者については医療の関与が司法の関与よりも多いことは、この方面の援助体制整備を必要としていることを示唆する。
4)ドイツにおける薬物自己使用犯へのダイバージョンについて明らかにした。また我国において治療を要する薬物自己使用少年を保護観察処分に対し、その下で治療を受けさせる道が存在することが明らかになった。
少年法24条は、要保護少年に対する保護処分として、少年院収容(14歳以上)、児童自立支援施設又は児童養護施設への収容という施設内処遇の他、社会内処遇である保護観察処分を定めている。実務では、保護処分の正式決定前の試験観察を一種の社会内処分として用いている。薬物自己使用少年をダイバージョンし、必要な治療を受けさせようとする場合、後者の社会内処遇、なかでも保護観察が注目されるが、これまでは治療を要する薬物自己使用少年への適用は殆どなされていない。予測困難な治療の強制は法的に無理というのが理由とされてきた。しかし、活用すべく工夫の余地があることが明らかとなった。強制には至らない範囲ではあるが、保護観察処分に付された少年の保護者等に強力に働きかけて入院等、治療を行わしめるという道である。
5)6つの高校の生徒の回収のアンケートは約1600人であった。講演前の調査では、高校生の薬物に対する関心は高く、使ってみたい薬物には、眠気の取れる薬や痩せる薬、頭がさえる薬という回答が30%を越えていた。違法性薬物に関しては、18%が薬物容認的な態度を示していた。違法性薬物に誘われた経験を持つ生徒は12%存在したが、彼らを薬物接近群、その他の生徒を薬物非接近群として比較すると、薬物接近群は、何らかの意味で使ってみたいと回答した者が49%で、薬物非接近群とは大きな差が存在した。
講演後の調査では、講演に対して面白かったという回答と面白くなかったという回答がそれぞれ20%で、どちらでもないという回答が60%であり、講演がインパクトを持たなかったようであるが、専門家の講演とDARCメンバーの体験談ではどちらが良かったかという質問でDARCメンバーの体験談が良かったという回答が80%に達していた。
6)ハワイ州における薬物依存治療システムについて急性期治療(州立病院)、回復施設(Hina Mauka)、また薬物裁判所Drug Courtの実際を報告した。またHina Maukaの利用者の38人(男25人、女13人)の肥前面接基準に評価をえて日米比較を行った。
結論
薬物依存・中毒者に対するアフターケアについて、福岡・佐賀をモデル地域として、病院プログラム、地域プログラム、回復者施設、法制度の運用、一次予防としての高校生教育を実際に行い評価を得た。また比較をしやすいハワイ州の体験より検討を行った。 薬物依存・中毒者のアフターケアを実施する上で、1)アルコール病棟を有する施設が容易に採用できる薬物依存プログラムDRPの開発、2)薬物依存は、その疾病特性より若年の症例が多く受診し、これら若年・思春期症例を対象としたDRPを開発、3)思春期例を念頭に入れ最近の家族に関する知見を取り入れた家族支援を目的とする家族教室の開発、4)知識教育を組み込んだ家族教室など家族教室の目的に応じた多様化、5)初期介入やアフターケアのための関係機関、特に司法・矯正や教育機関を含めた連携の方法論の確立、6)都市型と郊外型のように地域特性に応じた地域ネットワーク事業の展開、7)民間回復者施設に対するアフターケアに果たす役割を正しく評価し、今後運営可能な支援を行うシステム、8)現行法内での法律運用においてダイバージョンを明確化して司法・医療の関係を整備する、9)比較しやすい(法体制や依存薬物等)諸外国との比較より、今後の薬物依存・中毒へのアフターケア体制を検討することが必要、10)回復過程に対する理解を症例より学び、回復のイメージを共有するところから、有効な介入、援助、治療、共生、司法介入・矯正、連携の在り方を検討すべきである。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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